訓練場へようこそ
訓練場にやってきました。
現在コソコソと建物の壁から覗き込んでおります。建物はまるで軍事施設のようにデカイ!城に近い敷地にデンと建てられていたココが訓練場だとは知らなかった…詰所とかもあるらしい。
そんな魅惑的な施設で何故コソコソしているのか。それはですね、私が訓練場に遊びに…もとい差し入れに行くと告げていないからです。ミアさんが同行してるわけだから怒られることはないけど、気分的に。
それに覚悟を決めたとはいえ…やっぱラスナグと顔を合わせにくいのもある。
でもケーキ渡すって約束したからね…破るのも気が引けるし。
「ハナ様、こちらから訓練が一望出来ますよ」
「え?」
ミアさんが気をきかせてくれたのか。階段の上に案内された。そこはドームの観客席のように高い位置で訓練場を見下ろせる場所。
高さと訓練場の広さに唖然となっていると、力強い声に視線が動く。
「次!来い!」
「はいっ!」
ラスナグだ。
初めて見る騎士としての顔にドキリとする。抜き身の剣を翳すと相手の騎士が飛び込んだ。キィンと高い金属音が訓練場に響く。
二人を囲むように多くの騎士がいる。ラスナグが相手を弾き飛ばすと「力が甘いっ!次っ!」と渇を飛ばした。すると囲んでいた中から一人出てきて「お願いします!」と剣を構える。
鍛練中、かな?
「隊長自ら剣の指導をするとは珍しい…」
「珍しい、ですか?」
「はい。でも…久々に訓練場を使用しますからね、皆が鈍らないよう気を使っているのかもしれません」
「訓練場、使えないんですか?」
騎士団しか使わないのに?
驚いた私に彼女は苦笑いを溢して説明してくれた。
「訓練場はこの国でここにしかありません。勿論騎士団も部隊が沢山あります…それに、剣術だけではなく魔術もこの場で訓練するので」
成る程。魔術の練習なんて場所がよっぽど必要そうだ。
「最近はハナ様の召喚の為に神官と魔術師が独占していましたので、久々の訓練となったわけです」
「うぐ、ご迷惑おかけしました…」
「あ、いえっハナ様が悪いわけでは!それにお迎え出来て嬉しいんですよ、私達」
大規模な魔術だったって聞いてるしなぁ…大変だったろうに。
珍獣扱いはされるけど、一応歓迎はされてるし。一応女神呼びだし。一応が多すぎる。
でもミアさんが言ってるのは本音っぽい。だからこそ申し訳ないんだけど…
…カレー作り、頑張ろう。
「じゃあそんな貴重な訓練時間を私に費やしてごめんなさい。もうここまで案内して貰えたし、戻ってもいいですよ?」
「ハナ様を一人になど出来ません。それでしたら隊長と交代を」
「いやーミアさんが一緒で嬉しいですともぉー!!」
ラスナグと交代なんてとんでもない!ピンクの空気が舞ったらどうしてくれる!
「私と一緒でいいと言ってくださるならいいのですが…ハナ様は隊長と仲が良いので今回指名を受けた時は驚きました」
「えっ…仲、いい…ですかね?」
「はい。隊長も、今回指名されずとても残念そうに見えました」
グサグサとダメージがあぁあぁ!!!
ミアさんワザと?!ワザとなの?!何でそんなラスナグをプッシュするんだー!いや自分の上司だからってのもあるだろうけどー!
頭を抱え込んだ私を不思議そうに見る彼女。の、後ろから腕が二本ニョキリと生えた。
ギョッとした瞬間ミアさんが華麗な回し蹴りを決めて更にギョッとする。な、何事?
「いたた…いったいな~ミアちゃんヒッドイ」
「ミアの蹴りは男より威力あるんだから加減してくんないと死ぬけど、オレら」
「一度死んでみるといい。いい薬になるだろう」
「ヒッドイ…」
メソメソと泣き真似をする男が二人。
初めて見る顔だ。ミアさんと同じ騎士の格好をしている。茶色の髪を後ろに撫で上げるようにセットしていて、緑の切れ目が彼女を見て笑っている。…二つ。
顔立ちは似てるけど違う人達。雰囲気はそっくりだ…双子、かな?体格はヒドイヒドイと嘆いている人の方がイイ。
そして言わずもがな、イケメンだ。
彼らが私の方へ振り返る。いきなり注目されたので驚くと囲まれた。デカイなっラスナグよりデカイ!あまりの圧迫間に私は縮まるようにして見上げた。
「もしかして、例の女神様?」
「オレ初めて見るな~今まで任務で国空けてたし。どーも、オレはニッカル=ロアムローラ。第二騎士団の魔術隊員でーす」
「同じく第二騎士団の魔術隊員でサックル=ロアムローラ。よく双子に間違えられるけど、兄弟だから」
「因みにオレが二個お兄ちゃんね。ニッチャンサッチャンって呼んで~?」
「ど、どぉも。ハナでーす…」
よろしくーと軽いノリで挨拶されました。ので軽く返してみる。うわぁ…真面目なラスナグとミアさんの部下ってのが不思議すぎる。
目の色が濃い緑の上メッシュも緑。風の精霊が宿っているんだろう。
思わず瞳を覗き込むようにすれば、逆に覗き込まれた。は、迫力が…。
「ハナちゃんは真っ黒だねぇ。精霊宿ってないの?」
「魔力感じないし、異世界人なら精霊がついてないのもおかしくないんじゃない?」
「そっかそっか。女神様となると精霊も使いたい放題ってわけじゃないんだね~そういや何で訓練場に?」
「社会見学とか?もしくは誰かの応援?」
「オレ達の応援なら大歓迎よ~」
よくよく見ているとニッチャンがテンション高くてサッチャンが合わせる感じだ。成る程、確かに双子というより兄弟…しまった、普通にニッチャンサッチャン呼びを…。
まぁいっか。この世界では一番馴染みやすい名前になりそうだし。
とにかく今は、盛り上がっている二人の背後にミアさんが柳眉を吊り上げているのを見てみぬフリをしておこう。
「お前達…ハナ様になんて口をきいている!そもそも訓練はどうした?!」
「イヤーン、そう怒らないでってば~訓練ったって隊長の剣術にオレらついてけないし」
「魔術担当だしね、オレ達」
「その為の訓練だろうがっ!!」
おおっミアさんが怒鳴ってるのも珍しい光景だ。さて、囲まれている私はどうしよう?
とりあえず目的を達成しようか。差し入れをあげて次に行こう。
「ミアさん、私は特に気にしないんでいいですよ~身分もないのに年下に敬語とか、したくない人も多いでしょうし」
「ハナ様?!しかし…」
「馬鹿にされたりしたら、そりゃ腹は立ちますけど…彼らはそういった意味で口調を崩してるわけじゃないみたいですから」
まだ興味本意ってとこと、様子を窺ってる感じかな?
後はミアさんの反応を楽しんでる様子。
「………へぇ」
と、冷静に分析していたら長い腕が四本巻き付いてきた。
えっ、ちょいと?!
「ハナちゃん可愛いだけじゃなくて見る目があるねぇ!」
「うん、嬉しいからチューしてあげよう」
「はっ?!いやいやいや遠慮しますっ!!」
ぬいぐるみのようにギュウギュウ抱きつかれたと思ったらとんでもない事を言い出した。面白がってるのは分かるけど無理だから!
腕から逃げ出そうとした時、風を切る音がした。とたん、拘束がなくなる。あ、ら?
「私が止めろと言ったのが…分からなかったのか?」
完全に戦闘モードON…!!
ユラユラと背後に見える炎が嘘じゃない!待ってミアさん!剣を向けてる先には私もいるんですよー?!
「わわわっ魔術隊員だったらミアさんの攻撃防いでみせてっ!!」
「いやー…こんな至近距離で魔術発動しても遅いし…」
「オレ達ミアより弱いし」
壁にもならない…っ!
そうだよ。二人を壁にしても彼女のターゲットが二人なんだから意味がない。なら逃げるが勝ちか。
即行動、とばかりに踵を返したら何故か両脇を支えられ足が宙に浮く。え…え?
「だから逃げるぞー!」
「アイアイサー」
「ええっ?!わ、私関係ないぃい?!!」
二人に挟まれる状態で、高台からジャンプ。
し、死ぬからあぁぁ!!!
ニッチャンとサッチャンです。そしてよく落ちる主人公。。
読んでくださりありがとうございます!