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ニンジンGETだぜ





「…こんにちわー」




 広い空間に私の小さな声は響いたようで、何人かが振り返り一人の若者が駆け寄ってきた。




「はい、何でしょう?」


「えーと、イオン君いますか?」


「イオン様、ですか?…少々お待ちください」




 イオン様…だよねぇ、次期魔術長に君付けは不味かったか。凄く不振げな顔で行ってしまった。


 現在神殿入り口。昨日と違って今日は人が多い。白いローブのような服装をした少年や少女が忙しそうに歩いている。見習いか何かかなぁ?私の事も知らないみたいだから、召喚時にいなかっただろうし。

 そんな事をツラツラ考えていると軽快な足音と共に少年が現れた。





「女神様っ!!」





 パアア、と花が咲きそうな笑顔で迎えてくれたのはイオン君。ちょ、大声で女神様は…!

 案の定彼の言葉に周りの視線が私へ注がれる。嫌だこんな悪目立ち!


 慌てて私から駆け寄るとイオン君の腕をひっつかみ外に出ようとして…逆に引っ張られた。力が強いな!




「ニンジンを取りに来たんですよね?今丁度呼びに行こうと思っていた所で…こっちです!」


「い、イオン君待って…!」




 躓きそうになる足を必死に動かして彼に続く。入り口の大きなホールのような空間から小さな部屋に辿り着いた。物はなく、中心には私が購入してもらったヒビ入った鉢植えのニンジン。その下には床を埋め尽くすように描かれた魔方陣のような模様が広がっていた。

 おお、ファンタジーだ。




「ボクが引っこ抜くのもアリなんですけど、ここは女神様にやってもらうのが一番かと!」


「………え?」


「大丈夫!サポートの為の陣は描きましたから麻痺する事はありません!ただ、ちょっとピリッとするかもですけど」




 大丈夫?それは大丈夫なのか??


 魔力なんて欠片もない人間が抜いても平気なんだろうか。彼なりの気遣いかもしれないが、困惑する。…いや、私がアスナに捕まった時真っ先に保身で逃走した彼は狸だろう。

 じっと彼の目を見てみる。…キラキラというより、ワクワクだなこれ。

 面白がってる子供の目だ。




「…………」




 なんとなく、イオン君の本性が掴めた気がする。

 どうしたもんか。麻痺は確かに回避出来るかもしれないが、何かあるっぽい。うわぁ、ドッキリとか仕掛けるのはいいけど仕掛けられるのは嫌だし…。




「イオン君」


「はい?」


「私、まだ土の魔術って見たことないんだよねぇ」


「…っえ、でも」


「見たいなぁ~イオン君すっごく優秀だって聞いてるから凄いんだろうなぁ」


「…………わ、かりました」




 レッツごり押し。引き吊る彼の顔にニコニコと笑顔を向ければ小さくも返事が頂けました。はははは、よっし回避。


 イオン君は鉢植えに近付くとヒョイと持ち上げる。そして目を閉じると口を開く。





「土の精霊よ、我が願いを届けたまえー…」





 言葉がフワリとオレンジの光になって鉢植えに落ちた。すると、彼の鉢植えがカタカタと震え出す。


 …え。何で?



 不気味に動く鉢植えの土がボコりと浮いた。いや、違う。浮いたんじゃない。中にあるニンジンが土から這い出てきて――…




「ひ、ひぇぇっ」




 ホラーだー!!


 ジャガイモの時と似てる気がするけどニンジンには皺が多くてそれが顔みたいに見える。しかも又割れが人形みたいになってて――…もう完全にマンドラゴラだろ?!

 よいせ、と言わんばかりに土から這い出たニンジンはピョンピョン跳ねて体に着いている土を落としている。一通り落とした所で頭から生えている茎部分をイオン君にむんずと掴まれ差し出された。




「どうぞ」




 いや…どうぞってあーた……。魔術が解けたのか動く気配のないソレに恐る恐る手を伸ばす。これ、私が調理するんだよね?ジャガイモが可愛く思えてきたわ。受け取った感触はニンジンと変わらない。




「いきなり動いたり、叫んだりしない?」


「今のはボクの魔術で土にお願いを伝えてもらってニンジンが自ら出てきたんです。ジャガイモと違って実際は植物ですから、抜いてしまえば害はないですよ」




 害はないのか。その言葉にちょっとだけ安心する。

 キャロットケーキを作るわけだから、カレーの分を考えると一本じゃ足りない。害がないなら陛下に頼むのも良しだな。




「さ、女神様。ボクは約束を守りました。女神様も守ってください」


「約束…ああ、私の世界の話?」


「はいっ!」




 今度こそキラキラな眼差し。やっぱ神官になりたいのは純粋っぽい。

 さて、どんな話がいいだろう。いざ話そうと思うと迷うなぁ…こっちの神話とかだといいかもだけど、私も詳しくないし。

 自分の話…くらいかな?




「私ね、自分の世界じゃ学生だったの」


「学生、ですか?」


「そう。色々な事を学んでたの。私の世界には国が沢山あるんだけど、先進国として豊かな国に住んでたわ。だから小さい頃から皆等しく一通りの学力を学ぶ事が出来たの。七歳から十五歳までは基本義務でね。あとは高校と…私は大学まで行ったから、約十五年間は勉強してるかな」


「どんな事を学ぶんですか?」


「基本的な事を多彩なジャンルで…かな。専門的に学びたかったらそっちの道に進んでもいいしね」


「……女神様の世界は、ボクが憧れる世界ですね」




 好きなことを自分の意思で学べるから。

 そんな言葉が続いて聞こえてきそうだった。でも気付かないフリをして続けてみる。




「そうだね、恵まれていたと思う。面倒なことも多かったし、何度も学ぶ事を辞めたいとも思った。でも…時間が経つと、変わるものだね。自分が学んできた事は必ず力になる。好きなことも、嫌いなことも。知ることって大事なんだなーって今になって分かった事が沢山あるよ」


「知識は武器ですからね」


「そうだね。学ぶことは強みになる」




 だからこそ、私は進学したわけだし。就職しても良かったけど、まだ学ぶ身でありたかった。

 将来を決めるのが怖かっただけかもしれないけど。





「イオン君も沢山の事を知って、大きくなってから自分が何をするか決めるといいよ。まだまだ学ぶことは沢山あるでしょ?」





 今決めてしまう必要はないし、やっぱり選択肢は多い方がいい。後悔しないようにね。

 なんか説教じみちゃったかな。魔術長と神官の間で動く彼に、と思ったけど…。




「学んでから、決めてもいいんでしょうか…?」




 迷うような、初めて聞く弱々しい声に顔を向ければ彼は困ったような途方に暮れたような…迷子みたいな表情を浮かべていた。


 私は笑って彼の頭を撫でてみる。フワフワとした髪が気持ちいい。






「いいよ」






 まぁ私に決定権はないわけだが。

 アスナも押し付けるようにはしないだろう。その苦労は彼が一番知ってるわけだし。

 若いうちなら、迷っていいんじゃないだろうか。大人になって身動き出来なくなって、後悔するよりは。

 …王様とかねぇ。早くくっついて欲しいもんだ。




「……簡単に…言うんだ」




 ポツリと言った言葉は私の耳に届かない。ただ、やけにスッキリした顔付きで笑顔を向けられたので笑顔で返しておいた。






シリアス風味?でもないですが。

イオンに対するハナは大人しい気がします。多分弟と重ねているかと。

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