ピアスとモヤモヤ
「……まさかの恋愛フラグ?」
ポツリと呟いた言葉は誰もいない部屋に響く。
ラスナグに連れられて医務室らしき所で治療を受け、部屋まで送られてきて現在に至るわけだが…正直記憶があやふやだ。
『惹かれているんですよ』
頭の中でリピートされるうぅぅ!!!
はっ、まだ好きとは言われてない。ただ惹かれてるって言われただけ!なんでこんな動揺してるの!
「告白とか…別に初めてじゃないのに」
付き合わない?とか好きだとか、言われた事はある。それに自分は返事を簡単に返して実際付き合ったりした事もある。にも関わらずこの動揺っぷり。美形に言われたというより、あれかな。ここまで想われた、と言える言葉は初めてだ。
………いやだから告白じゃなくて好意を持ってるって事ででも宣言したって事は今後そういう対象になるって事で。
「うあぁぁー…どうすんのこれ…」
異世界でイイ男に告白紛いをされました。
もう、これでいいや。別に私だってラスナグを嫌ってないし、寧ろ好感度は高い。なら問題ない。付き合って、とかなると別問題だけど問題ない。
「いつも、通りに…」
出来る、気がしない。
座っていたソファーに倒れ込む。脇腹は完全に完治したようで痛くない。体は万全でも頭の中はグダグダだ。
カサリ、と体の下から音がした。見ると小さな袋。慌てて拾い上げると中を確認。カチャリと出てきたのは、対のピアス。
「良かった…壊れてない」
ホッとすると同時に「惹かれているんです」という声がリピート。駄目だ、完全に頭に花が。
とにかくなるようにしかならない。付き合うなら付き合う、友人になるなら良い友人に。そう決めると立ち上がる。
部屋に一人。フィノアは何処に行ったんだろうか?
「フィノア?何処?」
「はい、ここに」
「のわぁ?!」
にこやかに背後に出現。び、びっくりした…。
いつの間にかいたのか、最初からいたのか…突っ込まないぞ、突っ込んだら負けな気がする。
「部屋に戻ってから放心状態で顔を赤く染めながら悶々するハナ様…大変可愛らしかったです」
「見てたの?!」
しまった、ツッコミを入れてしまった。
相変わらずの変質的な彼女に力が抜ける。可愛いのになぁフィノア。私が男なら…いや男でもちょっと…。
ともかく悶々としていた真相を聞かれたくなくて早急に話を変える事にした。切り替えるのは大事だよね。
「ね、ねぇフィノア。ピアスホールの開け方分かる?無いなら氷と針を貸してほしいんだけど…」
「ピアスホールですか?それでしたら魔具で開ける事が可能ですよ」
「まぐ?」
初めて聞くけど、一度アスナから聞いた魔術用具と似たようなものだろうか。
疑問が顔に出ていたようで、フィノアが説明してくれる。
「魔具は少量の魔力で多種多様な魔術を使える道具です。大規模なものですと魔機具と呼ばれますね」
へぇ、現代でいう機械みたいなものか。そりゃ便利そうな…まてよ。
「…少量の、魔力で動く……」
「はい」
「魔力のない私は、どうしたら?」
「…………」
「…………」
黙っちゃった。
この世界では誰もが少なからず魔力持ってるって言ってたもんなぁ。チート展開とかないんだろうか。
「私がお手伝いさせて頂きます!」
「…うん、お願い」
それしかなさそうだ。
善は急げとばかりにフィノアはピアッサーもどきの魔具を借りてきてくれた。私はただ待機中。あれ、冷やしたりしなくていいんだろうか?
「両耳に一つずつでよろしいですか?」
「勿論」
「分かりました。動かないでくださいね」
小さなペンのような魔具を私の耳に近づける。今さらながらに緊張してきたんですけどっ!
「い、痛い?痛いの?」
「痛くありませんよ。あっという間に終わりますから」
「ほんと?」
「本当です。…ふふ、怯えちゃってハナ様ったら可愛い……」
マズイ。変なスイッチ入った。
焦って離れようにも魔具がどうなるのか分からないので動けない。あ、あのっ耳フニフニ触らないでー!!
「はい、終わりましたよ」
「………ふぇ?」
終わった?
意味が分からなくて眉を寄せたまま彼女を見れば、魔具を仕舞いながらニッコリと微笑まれた。終わったって……
恐る恐る手で自分の耳に触れる。柔らかな耳たぶの中に、先程まで無かった感触がある。
あ、穴?これ穴開いてる??
「あまり弄ると出血しますよ。暫くは傷口と同じですので塞がないよう注意しながら消毒しましょう。ピアスをするのは、二日以降ですね」
「え…全然痛く無かったんだけど?開いてるのコレ?」
「ええ。鏡をお持ちしますね」
手鏡を持ってきてもらい覗き見る。確かに私の両耳にはしっかりと穴が開いていた。
凄い、痛みもなく瞬時に出来るなんて。
「魔具って便利だなぁ…って、ちょっと…フィノア?」
「ま、まさかハナ様このピアスをつける為に穴を?!」
いつの間にやら人様の紙袋からピアスを取り出し驚愕している彼女。いいけどさ…何でそんなに驚いてるんだろ?
「綺麗でしょ?まぁ魔石らしいんだけど」
「何処の馬の骨からのプレゼントですか?!」
「馬て…ラスナグとアスナだよ」
「あのバカ騎士と神官長から?!ハナ様異性が魔石を使った装飾品を贈るのはどういった意味かご存知なんですか?!」
「ば…ばかって…知らない、よ?」
あ、嫌な予感がする。
「…好意を持っています、という意味です。因みにそれを身に付けると相手を受け入れます、という答えになります」
的中ー!!!
そんな事二人して一言も…ああ、アスナが嫌な顔してたのってもしかしてそのせいか?ラスナグは…お慕いしてる宣言の直前だからなぁ。確信犯の可能性があるし。
…いや、こっちの考えすぎ?だってこれ迷子札なわけだしね。
「フィノア。これは二人が私が何処にいるか把握する為にくれたわけだし、そういった意味は…」
「言い切れますか?」
「……アスナの方なら」
フィノアの顔がとても剣呑です。
なんでそんなにラスナグの事を敵視するんだろうか。まさか、付き合ってた…とか?
彼女は可愛いし、二人並んだらお似合いだ。突飛に出てきた私がお邪魔虫。
…え。泥沼とかそんな馬鹿な。
「あのーフィノアってば何でラスナグの事を敵視するの?」
「それは……いいじゃないですか、そんなことよりもピアスです。神官長ならまだハナ様という特殊な立場の人が身に付けても問題ないですね。私としては腹立ちますが…隊長どのは、オマケという事で。よけれは今度私からも魔石をプレゼントさせてください!お似合いの装飾品に仕立てます!」
誤魔化されたー!
にこやかに言う彼女とは裏腹に、私は何だかモヤモヤしてしまう。
そりゃ彼の事も彼女の事も知らないけどねぇ…何だか…
何だか?
ヤバい、これ嫉妬みたいじゃないか。やっぱりラスナグの事好きなの?好きなのか私は?
「ぐぬぅ…」
切り替える所か、またもやモヤモヤしてしまう自分だった。
ピアスの話でした。傷口ですがくっつく事はないのでファーストピアスの存在はないです。魔具凄い。
読んでくださりありがとうございます!