表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/57

神様の定義





「女神様!」


「…っは」




 び、っくりした。


 一瞬気絶してたわ私。神殿の床が消えて落ちた先は、柔らかい土がクッションになり怪我はしなかった。でも突然の出来事に私の意識は保てなかったみたいで。


 心配そうに覗きこんでいるのはイオン君。私は完全に体を起こすと上を見た。光が遠いわー。




「あそこから落ちたのね…よく無事だったなぁ」


「そんな!女神様に怪我なんかさせませんよ!ボク魔術得意ですから!」




 ………。


 お 前 が 犯 人 か 。



 自然に穴が開いたわけではなくイオン君の魔術によるものだったらしい。

 大怪我してたらどうするつもりだったのか。子供の大胆さが怖い。




「ここは神殿の地下通路なんですよ。こっちに行けば町に出られます。行きましょう?」


「え?でも私は…ラスナグかもしれないけど、アスナに呼ばれて神殿に来たわけだし勝手に行ったら」


「大丈夫ですよ!格好からして女神様は町に出かけるつもりだったんでしょう?ボクが案内しますっ!」




 小さな手が重なりグイグイと引かれる。

 う、うーん。いいのかな?危険は無さそうだけど…勝手に行動したら雷落ちそうだし…





「それとも…ボクなんかと一緒に行きたくありませんか…?」





 キューン、と垂れた耳が見える。可愛い。とても可愛い。

 思わず手が伸びて小さい頭をグリグリしてしまう。




「よっし。じゃあ私の町見学に付き合ってくれる?」


「!はいっ勿論ですっ!!」




 魔術長候補になるくらいの実力者だし、ラスナグ達もそこまで心配しないだろう。

 でもなるべく早く帰ってこよう。


 そう心に決めて仲良く二人手を繋いで出口を目指した。











**











 町は思っていた以上に賑やかで穏やかだ。

 農業の国と言うだけあって、新鮮な野菜や果物がところ狭しと露店に並んでいる。勿論雑貨とかもあるけど、目を引くのはやっぱり艶々の食材。




「女神様はカレーを作る食材を探しに来たんですよね?」




 これはどんな野菜か、味かなどをイオン君に説明してもらいながら露店を冷やかす。

 町に出る間にどうして出掛けてきたのか簡単に説明したのだ。バカップル計画については話していいものかまだ考え中。




「そうだね。食材を見るのが中心だけど観光もしようと思ってるよ」


「やっぱり女神様の世界とこの世界は違うんですか?」


「うーん。発展、といった意味では大きく違うけど…基本的には一緒だよ?」




 お店があって、家があって、人達がいて。


 変わらないと思う。じゃがいもが走り出したりはしないけどね。




「女神様の世界も似てるんですか…」


「いやぁ、イオン君。女神様って私の事呼ぶけど、実際異世界にいる別の人間ってだけだから。神々しいものじゃないよ?」




 女神様女神様とキラキラした目で言われる度に罪悪感がね?

 苦笑いで告げる私に対して彼は少しだけ驚いた表情を浮かべて…微笑んだ。




「ボク達の世界に知識を授けてくれるのは、神々です。貴女はボクの知らない知識を持っている。カレーだって、そうですよね。だから、女神様で合ってますよ」


「でもそれじゃ…異世界人ってだけで神様になっちゃわない?」


「正しいです。…勿論、それを否定する人もいますけどね」




 正しいって…じゃあこの世界ポコポコ神様がいるってことになるんですけど?

 そういえば私以外に異世界人っているんだろうか。カレーを知ってるのは私だけっぽい話だけど…でも文献があるなら過去にいた?うぅ、こんがらがってきた。


 グルグルと思考が渦巻いているとイオン君が「難しく考える必要はないですよ」と呟く。





「この世界は箱庭。決められた、定められた世界。そこに新たな知識を植え付ける事は奇跡。異世界の人の持つ知識は貴重なんです。神様だって、崇めるんですよ」





「えーと…要は新しい知恵が恩恵となるから、異世界の者は歓迎されるの?」


「その解釈で大体合ってます」




 箱庭とか。気になる言葉はあるけど、今聞いても多分頭に入らない。

 召喚は知っているものを呼び出すのが『普通』だってアスナが言っていた。異世界人は、未知の領域だろう。だからこそ珍しくて重宝される。


 知識があるから…か。

 なるほどねぇ。




「私の事女神って呼ぶのはそういった事かぁ。じゃあ神殿って何祀ってるの?」


「ボク達神官は、神を祀ると言うより彼らから授かった知識を詠み解くのが仕事なんです。女神様は入り口しか見ていませんが、奥の間には古い文献が沢山あるんですよ」




 ああ、そんな事もアスナが言ってたっけ。私も考古学者みたいだって思ったしね。

 だいぶ私の印象と神官は違う。過去の異世界人の記録か…それはそれで面白そう。機会があれば見せて貰おう。




「イオン君は異世界の知識に興味があるから神官になりたいの?」




 魔術長ではなく、神官長に。

 彼は強く頷く。大きな瞳はキラキラとまた輝いていて。




「はいっ!だって色々な事を知れば知るほど楽しくなるんです!」




 根っからの学者肌らしい。知識かぁ、私に対しての態度がなんとなく読めた。

 アスナもそういった気持ちで神官に勤めているのかな?



 少し思考がズレた所で目に入ったもの。様々な露店が並ぶ一角。

 鉢植えの置かれた店に釘付けになる。あの葉っぱ…!




「あのっ!」


「はい、いらっしゃい」




 声をかければ売り子であろう男性が笑顔で対応してくれた。

 私は隅に置かれている鉢植えを指差して問いかける。






「これっニンジンですか?!」






 青々とした細かい葉っぱ。見間違いでなければニンジンそのもの。

 見つけたよ食材!




「おや、お目が高い。確かにこれは貴重なニンジンですよ。今朝仕入れたばかりなんです」




 やったー!


 あんまり食材期待してなかったけど見つかった!




「イオン君!」


「はい?」


「後でアスナが払うから、立て替えてくれない?」




 子供に買ってくれと言っているようなものだ。

 抵抗はあるけど、お金はラスナグが全部持っているし…何より貴重と言われたなら見逃せない。陛下に言えば用意してくれるかもだけど、またアスナに文句言われる前に自分でチェックしておきたい。

 私の必死さに彼は快く頷いてくれて売り子と交渉してくれた。




「はい女神様。ニンジンが、カレーの材料なんですか?」


「そうなのっ。ありがとう!」




 鉢植えを手渡してくれるイオン君に笑顔でお礼を言うと、私は早速全体図を見ようと葉を掴んだ。


 そして一気に引き抜き――…





「め、女神様!?」

「お客さん何やってるんだ?!」


「へ?」





 …かけた所で、イオン君と売り子さんに止められた。

 な、何してるってニンジン見ようとしただけですが?




「ニンジンは土から引き抜くと同時に悲鳴を上げます!それを聞いた者は半月ほど体の自由が利かなくなって下手をすれば麻痺が残るかも…貴重な薬の材料にもなるけど、危険なんですっ。女神様、知らなかったんですか?」




 マンドラゴラかよ。






ニンジン登場。

マンドラゴラ、もといマンドレイク。よりは弱いです。きっと。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ