汚れより安全第一
「ご、ごめんなさいぃ~!」
私は何度もこの世界に来てからラスナグに謝ってる気がする。
土下座同様、私は柔らかな地面に膝をつきながら必死に頭を下げた。
「大丈夫ですよ。近くに他の魔物はいませんし、隊員も帰り道の確保ができ次第此方に駆けつけますから」
ラスナグしかいなかったのは、どうやらジャガイモが帰り道を寸断してしまったらしく隊員達が切り開いてくれているとのこと。
私の事はミアさんに頼んでいるので大丈夫だと思ってたらしいけど、やっぱり心配で単独行動をしていたというわけだ。
そして私が何で必死に謝っているのかというと。
「私がラスナグ引き倒しちゃったから…」
そう。足を蔦に掴まれパニックになった私は、助けようとしてくれたラスナグの腕を引っ張りあろうことか蔦の溢れる地面に差し出してしまったのだ。
反撃する間もなく私もいた事でラスナグは抵抗せず蔦に捕まり…地面に埋められた。首から下はしっかりと土に埋もれている。顔が生えている状態で怪我もなし呼吸も確保出来てるわけだが…。
どうやらジャガイモは魔物としては変わっていて、進行方向に存在する生き物を蔦で捕まえ土に埋めるだけらしい。負傷はしないが、実際埋められて三日間誰にも見つけてもらえず衰弱した人も見つかっているとか。何で埋めるんだろう…。
ラスナグが埋められた所でジャガイモは立ち去った。ミアさんは鬼神モードのまま追いかけていってしまったので私しかいない。
本当は私が埋められるはずだったんだよね。
「ジャガイモがあんなのと知ってれば私も取りに行こうって時に反対したのに…」
「いえ、ジャガイモは確かに巨大で厄介な魔物ですが滅多に深手を負うなどの怪我人は出ません。行動範囲も森の中だけなので被害に合うのは少ないですし、森に恵みをもたらします。干渉しない形で今までいましたからね…牛の肉がいると言われるより遥かにいいです。あれの皮膚は鉄より固いし好戦的で手に終えませんので」
はい、ビーフカレーは除外しましたー。
良かった肉類言わなくて!私はひとまず早急にこの世界の常識を学ばないといけない。じゃないと心臓いくらあっても足りないわ。
食材関係の書物とか一般常識とかそういった類いの本をフィノアに用意してもらおうそうしよう。
とりあえずラスナグの発掘…もとい救出が最優先。触れている地面はジャガイモが耕していったせいか柔らかい。道具がなくとも簡単に手で掘る事が出来る。
よいせ、と腕捲りするとザクザク土を掘る。白を基調とした服だから汚れが目立つのだ。まぁ土下座した時点でズボンが泥々なわけだが。
うん、洗う人が大変なのは分かるけど仕方ない。洗えって言われれば私が手洗いしよう。この服は気に入ってるし。
掘るぞーと気合いを入れた時、ラスナグが何やら戸惑った様子で待ったをかけてきた。
「止めてください、もうすぐミアが戻るか部下の誰かが来ます。その者に掘らせますからっ」
「え。私でも掘れるよこのくらい。大丈夫、変なとこ触ったりしないって」
「そうじゃなくて…お召し物が汚れてしまいます」
「今更じゃない?」
捕まってブンブンされた辺りでもうアウトだろう。
ラスナグだって白中心の服で土に埋もれてるっていうのに、変なの。
「何とか洗えば取れるでしょ。あ、ラスナグって残りの染みとか気にするタイプ?白なんだから漂白剤使えば平気だよ…あるかなこの世界…」
「普通、女性は衣装を気にするものでしょう?」
「私何処の貴族なの。確かに綺麗な服は目の保養だし楽しいけど、今服の心配する?大丈夫、ちゃんと助け出すから!」
じゃないと他の魔物が襲ってきたら私にどう対処しろというの。
ラスナグを囮にして逃げる手もあるけど、その後一人になったら困るし。
いや、囮にするって言っても流石に凶悪な魔物に食い殺させたりは…助けて貰っといてそこまで非情に成りきれまい。
とにかく相応の安全の為に発掘!服は二の次!
止めようとしているラスナグを無視して堀り続ける。
「人が困ってたら、何とかしたいと思うじゃない」
何とか出来る出来ないは別として。私は出来ない事が多そうだ。
黙々と堀続けるとラスナグの腕が自由になるくらい深く掘れた。
掘る事態に力はいらないけど、これが結構重労働。日頃の運動不足と山歩きの疲れで息絶え絶えで汗だくになる。うおぉ、匂ってない?
両手の発掘が終了。あと少し、と思った所で彼が両手を地面に当て力を込めた。引き抜くようにして下半身が自由になる。力業凄いな…。
ともかくラグナスが無事地面から出られた!これで安全圏になったわけだと満足げに一人頷いていると彼が早口で唱え始めた。
「水の精霊よ、我に汝の恩恵を与えたまえ」
瞬間、ボコリと空気が泡立つようにして目の前に水が出現した。
私の顔より一回りほど大きな水の塊がフヨフヨと浮いている。おおっ魔術!
いつ見ても摩訶不思議だとしげしげ水球を眺めていると「これで手の汚れを落としてください」と言われた。成る程、手洗い用か。便利だな。
触れれば割れる事なくひんやりとした水に手が包まれる。暑かった自分としては嬉しい温度。両手で汚れを落とすように擦れば澄んだ水に土が溶けて濁ってくる。
ザラリとした感覚が無くなって手を引き抜けば綺麗に土は取れていた。取れたよーとラスナグに両手を笑って見せれば苦笑いを返される。…若干子供じみた自覚があるので恥ずかしい。
ラスナグもいつの間にか洗ったようで手の汚れはない。その手が私の手を掴む。互いに濡れていて、ヒンヤリとした体温。
引き寄せられるように彼の方へ。
そっと、神聖な儀式のように触れるだけの口付けが手の甲へと落とされた。
「…ありがとう、ございます」
フラグ?が立ちそうです。