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女神と呼ばれた日

「ふん、ふふん、ふぅ~ん」




 鼻歌を歌いながら鍋の中身を掻き回す。ちょっと配分間違えたけど、まぁ一人で食べきれなかったら明日にでも回そう。寝かせても旨味は増すからね。




「うし、後は煮込むだけだね」




 まだ少し固い野菜をつつきつつ鍋に蓋をした。それまでにさっさと洗い物を済ませてしまおう。



 ジャガイモ、ニンジン、タマネギ、肉、ルー。この全てが混ざれば言わずと知れたカレーの出来上がり。



 材料さえあればお手軽に出来る大鍋料理は主婦の味方。いや、私結婚してないけど。

 特に料理が得意でもない私でも出来る料理の一つ。大学のレポートが滞り最近まともな食事をとってない。作ってくれる両親も田舎に置いてきた…もとい上京した私には自炊という選択しかなかったのである。


 まぁ今の時代コンビニという利点はあるから困りはしないけど…あ、レポートも終わったし食べ終わったら久々にネサフしよう。お気に入りのサイトさんも更新してるかもしれない。


 ウキウキと洗い終わった食器を伏せておくとカレーのルーのパックを手に取った。

 そして充分に煮込んだであろうカレー鍋の蓋を開けると中から湯気が…。















 出てこなくて瞬間、私は別世界にいた。




「……は?」




 あまりの事に間抜けな声が口から出た。

 鍋の蓋、カレーのパックを持ったままの体勢で。



 目の前に広がる光景。それは独り暮らしの狭いキッチンなどではなく…ほら、あれだ。よくあるファンタジー展開で、勇者とかに跪いてるやつ。

 私の部屋が何個入るのってくらいの空間で、まるで協会のような神聖な室内。それでいてゴージャスな赤い絨毯の上に騎士のような格好や昔の貴族が着てそうな服を着込んだ人達がへへーっと跪いてるのだ。


 え、えーと?どんな展開だ?レポート疲れで立ったまま寝たのか私。










「ようこそ、お越しくださいました。女神よ」










「…へ?」




 女神って、誰。



 一番手前にいた男が顔を上げる。どうやら今喋ったのもこの男らしい。響く、凛とした声にも好感を持ったが容姿も良かった。

 黒髪にひと束だけメッシュのように青の入った、いかにも真面目そうな顔立ちの整った男。目はメッシュの色と同じ青。着ているものは、清楚な白い鎧だ。


 コスプレ…というには馴染みすぎてるけど…。






「我が国、レナーガルをどうかそのお力を貸し、危機からお救いください」






 真っ直ぐ私を見る目は真面目だ。どっからどう見てもマジだ。

 これってもしや…もしやもしやの異世界召喚?!


 マジか!必死こいて終わらせたレポートがちょい勿体ない気がしなくもないけどトリップじゃん!やった!!

 しかも王道で勇者ネタか!あ、でも女神って言われた?言われたよね?私は美人よりは可愛いと言われる容姿だ。それなりにモテるくらいには整ってるが「喋ると残念な子」という悲しいレッテルを貼られている。だがここにそれを知る人間はいない。そう、この貴重な体験ものにすべし!


 なので女神っぽく畏まってみる事にした。鍋蓋とルーはご愛敬。高校時代のジャージ姿である事も気にしない。気にしたら負けだ。だって楽だもん。部屋着にいちいち洒落っけ求めんな。




「私を呼んだのは、あなた?」



「いえ、女神。私は言伝てを賜った代表に過ぎません。正しくはこの国の王で在らせられるラビスラル=ルファーナ陛下が望まれたのです。儀式を行ったのは、こちらの神官、アスナ=リヒルです」




 ほうほう、国王が呼んで神官が実行したと。正に王道。

 神官、と言われた男も膝まずいていた一人で名前を呼ばれた時点で顔を上げた。銀色の髪にまたひと束メッシュを入れている。赤だ。見つめてくる瞳の色は同じ赤。もしかしてこのメッシュ、目と合わせてるのかなぁ?


 しかし神官さん、普通柔和な表情してそうなのに目付き悪い。ニコリともせず凝視する姿は神官というより魔王のようだ。またそれが魅力だけども。絶対ツンデレだこの人。

 隣の騎士さんは視線は強いけどキツさは感じないんだけどなぁ…美形だし。


 ところで呼んだ本人こと国王陛下はどこ?

 言伝てって言ったから来られない理由でもあったのか…まぁいいや。そのうち会うこともあるでしょ。送還されない限りは。


 とと、本題本題。さぁて、国の危機とは何だろうな~。戦争とかは血生臭いから勘弁願いたい。チートな能力なしに前線出されたら瞬殺だよ。





「私を何故呼んだか理由を聞いてもいいかしら?」





 なるべく優しげに見えるように首を傾げながら微笑んでみた。効果があったかは分からないが、青メッシュのイケメン兄ちゃんが目を輝かせた。か、可愛いじゃねぇか。








「是非、カレーを作って欲しいのです!」








 ………あっれ、おかしいな。幻聴が聞こえたよ?


 カレーカレー…思い付くのは手に持ったカレーのルーのパッケージにある茶色の物体。お子様から大人まで愛される栄養満点スパイシーご飯。

 まさかね。国をかけての召喚で庶民の味方であるカレーを作ってくれってそんなバカな事…。





「我が国の危機を救ってください。女神の作れるカレーで!」





 …幻聴じゃねぇ!!

 いやまて、もしかしたらこの世界では『カレー』ってものが違うかもしれない。でも作れって…いいや、聞いてみよう。




「カレー…確かに私の世界には存在します。しかし、あなた達が望むようなものではないのですが…」


「やはりカレーをご存知なのですね!」




 おおぃ、遮るなよ。





「カレーという料理を知る女神。あなたを我が国一同、歓迎致します」





 …………………、




 マジだ!




ギャグ寄りで王道から斜め横走っていきます。

どうぞよろしくお願いします。

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