冷蔵庫がゆく
2080年。世界が極度の緊迫に包まれるなか、日本は深刻な兵員不足に直面していた。
国家の防衛線を支えるべく白羽の矢が立ったのは、経済疲弊の波に押され、全国の空き地や河川敷に打ち捨てられた無数の「粗大ゴミ」たちである。
これは、国の命運を託された2万9千台の不法投棄冷蔵庫が繰り広げる、冷酷にして熱い(そしてどこか間抜けな)救国と反撃の記録である
第一部
時は西暦で2080年━━。
国際情勢は悪化する一方で、いよいよ主要先進国同士の全面戦争がいつ勃発してもおかしくなかった。
一方で、日本国の自衛隊は、80年あまり前と相変わらずに、人員不足に悩まされ続けていた。
もう、外国から人員を呼び寄せる他はないように思われた。
そこで白羽の矢が立ったのは、全国に不法投棄された冷蔵庫の存在であった。国民は経済的に疲弊しており、冷蔵庫が壊れても、とてもではないがリサイクル費用など捻出できる状態ではなかったから不法投棄されるのであったが。
統合幕僚長が言う。
「投棄された大量の冷蔵庫を修復改造し、ロボット兵器へと作り替えるのだ。冷蔵庫ならきっと強靭な兵士になってくれるに違いない。急げ!敵はすぐそこまで来ているぞ」
第二部
29000台の冷蔵庫が敵の領有を許した北海道に向けて進軍していた。
しかし、いざ北海道に上陸した冷蔵庫軍団だったが、致命的な欠陥が発覚する。彼らは「冷蔵庫」なのだ。試される大地・北海道の極寒の地においては、外気の方が冷たく、保温機能が働いて機体内部のメカが凍結。次々と動作不良を起こしてしまった。
「くそっ、寒すぎて冷やせない……!」
「我が隊も冷却ファンが凍りついた! 救援を!」
進軍はピタリと止まり、敵軍の哨戒部隊が警戒しながら近づいてくる。だが、敵兵たちが目にしたのは、武器を構えたロボットではなく、雪原に整然と並び、ドアから凍りついたペットボトルや賞味期限切れのキムチをポロポロと吐き出しながら震える、不気味な白物家電の群れだった。
「な、なんだこれは……? 兵器なのか……?」
困惑した敵司令官は、本国に連絡を入れた。
「こちら前線。日本軍の極秘兵器らしきものを発見……いや、確保した。だが、怪しすぎる。敵の罠かもしれない。至急、解析に回せ」
こうして2万9千台の冷蔵庫は、攻撃されるどころか、敵軍の手によって一台残らず慎重に回収され、敵国の軍事基地へと運び込まれてしまった。
数日後。敵国の巨大司令基地。
暖房がキンキンに効いた基地内で、冷めきった機体が温められた瞬間、冷蔵庫たちの人工知能が奇跡の再起動を果たした。
「……ピピッ! 室内温度上昇を感知。通常運転を開始します」
深夜、敵兵たちが寝静まった頃、一斉に冷却システムがフル稼働を始めた。強力な冷気ガスが基地内に噴出し、すべてのドアが「勢いよく開閉する」という肉弾戦(物理)で敵兵を撃破。さらに、自動製氷機から無数の氷の弾丸をマシンガンのように乱射した。
「うわあああ! 卵ケースに殴られた!」
「冷風がすごい! 寒い! 寒すぎる!」
温かい部屋で完全に油断していた敵軍は、突如として暴れ出した2万9千台の「自走式強力冷凍庫」の前にあえなく全滅。北海道の基地はあっけなく奪還されたのだった。
後日、功績をたたえられた統合幕僚長は記者会見でこう胸を張った。
「見よ! これぞ我が国の『冷え切った日韓・日露関係』ならぬ『冷え冷えの自動作戦』である! ……ちなみに現在、さらなる戦力強貨として、全国の不法投棄された電子レンジを回収中だ。次回は敵をチンにしてやる」
本作をお読みいただき、ありがとうございました。
「近未来の深刻な人手不足」と「捨てられた家電の山」という、一見重めのテーマから生まれたシュールコメディです。極寒の北海道で使いものにならないというポンコツぶりから、温かい敵基地で真価を発揮する展開まで、家電特有のメカニズムを活かしたアクションを楽しんでいただけたなら幸いです。
次回、電子レンジ部隊が放つ「アツアツの猛攻」にもご期待ください




