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スキル【エサ】発動~全モンスターが俺についてくる~  作者: 雨宮 徹


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第8話 旅立ち、そして交易都市の賑わい

 翌朝、村は早起きだった。


 昨晩、神をテイムするとという一大事があったにも関わらず、村人たちの顔には、不安よりも期待の色が濃い。


「リョウさん、本当に旅立つのかい?」


 村長が、名残惜しそうに声をかけてきた。


「ええ。このままだと、ここに監査官をもう一人呼ばれかねないので」


 俺の隣には、ルナが誇らしげに立っている。その横には、銀髪の監査官アリス。彼女は、まだ感情を出すのは苦手なようだが、昨夜の涙の痕跡を拭い去ろうとするように、やや強張った表情で立っている。


「安心しろ。私とルナの契約は、私が正式に指導役として同行することで、一時的に神界に黙認させた。ただし、神格存在が二人も人間に従属しているという事実は、前例がない」


 アリスが冷たく説明する。指導役という名目だが、要するに「リョウの作る次の料理」 を待っているだけなのは明白だった。


「リョウ様、これ。道中食べてください!」


 村の料理人マイが、ずっしりと重いバスケットを差し出してきた。中には、保存が効くように焼き込まれたパンと、燻製肉がぎっしり詰まっている。


「ありがとう、マイ。これがあれば心強い」


「リョウさん……また、帰ってきてくれよ。あんたの料理、最高だったからな」


 俺は村人たちに見送られ、神二人とスライムを引き連れて、リーフェン村の門を後にした。


「なんだか、大名行列みたいになってきましたね!」とルナ。


「二柱目と契約しなけりゃ、もっと静かな旅だったろうが」


 俺は呆れ半分、諦め半分だった。



 数日後。


 旅の道中、ルナとアリスの会話は、まるで夫婦漫才だった。


「アリス先輩、昨日、リョウ様からもらったハーブ団子、すごく美味しかったです! 先輩も、おかわり欲しそうでしたよね?」


「なっ……! 指導役として、貴様が食欲という原始的な欲望に囚われていないか、確認しただけだ! 貴様も、早く神界の規律を学ぶべきだ!」


 そう言いながら、アリスはリョウが差し出した携帯用の保存食を、ルナの倍の速さで平らげていた。


 戦闘能力ゼロの俺だが、旅は順調だ。道中、森で遭遇した動きの速い小動物モンスターは、ルナの図鑑を無視してハーブ入りのシチューでテイムした。


 ――スキル【エサ】は、着実に仲間を増やしている。


 そして、ついに。俺たちが目指す、次の舞台が見えてきた。


「あれが……交易都市ベルデか」


 巨大な石造りの城壁。その向こうには、数えきれないほどの屋根がひしめき合い、立ち上る煙と、活気に満ちたざわめきが、ここまで届いてくる。


 村とは比べ物にならない、文明と人の活気の塊だ。都市の門をくぐると、その喧騒は一気に増した。


「わぁ……人が、ごみごみしています!」


「ルナ、ごみごみって言うな。だが、すごい熱気だ」


 通りには、様々な民族、冒険者、商人が行き交い、異世界の食材や工芸品が所狭しと並んでいる。


 俺はプロの血が騒ぐのを感じた。


 特に、都市の中心にある巨大な市場。魚介類、見たこともない果物、巨大な獣の肉……。


「なんだ、これ……! この鱗の輝き! この肉の弾力!」


 俺は一目散に市場へ駆け出し、目を皿のようにして食材を見つめた。


「ちょっと! リョウさん、興奮しすぎです! まずは宿と、ギルドに……!」


 ルナが慌てて追いかけるが、アリスは静かに俺の背中を見つめていた。


「この男……。食に対する執着は、凡庸な神よりも強いかもしれん」


 ギルドへの登録は後回しにした。俺はプロの料理人だ。まずやるべきことがある。


 俺たちは、賑わっている市場の一角に、小さな空きスペースを見つけた。


「よし、決めた」


「決めたって、何をですか? 宿でしょう?」


「違う。ここで、俺の店を出す」


 ルナが目を丸くし、アリスは眉をひそめた。


「店? 資金は?」


「ある程度は村で貰った。それに、こんな場所だ。まずは、屋台から始める」


 俺は、村から持ってきた最小限の調理器具と、市場で買った新鮮な香草と、この都市の人間がまだ知らない食材を組み合わせて、即席の屋台を設営した。


「リョウさん、何を作るんですか?」


「交易都市ベルデの人間が、腹だけでなく、心を満たすための料理だ」


 焚き火を起こし、新鮮な肉を炭火で炙り始める。香草とニンニクを効かせたシンプルな塩胡椒の香り。そして、隠し味に、村で手に入れた少し酸味のある珍しい果実のソースを塗った。


 ――ジュワァアアアッ。


 焼ける音と、香りが、市場の喧騒を突き破り、人々の鼻腔を刺激した。


「なんだ、あの匂い!」


「たまらない……どこからだ?」


 人々が俺の屋台に集まり始める。彼らは、リョウの料理を一口食べた瞬間、目を大きく見開いた。


「う、うまい……! ただの肉じゃない。疲れていた体が、蘇るようだ……」


 リョウは、その様子を満足げに見ていた。


「よっしゃ、大成功だ。さて、ルナ、アリス。お前たちの出番だ」


「え、私たちも手伝うんですか!?」


「当たり前だ。神様二人とスライムを連れた屋台なんて、この都市で俺だけだ」


 ルナは、嬉しそうに客の呼び込みを始めた。アリスは、まだ戸惑っている。


「私が……? 人間の料理を手伝うなど……」


「指導役なんだろ? 神の仕事は、契約者の行く末を見守ることだろうが」


 リョウの言葉に、アリスは仕方なく、しかしどこか楽しそうな顔で、会計係を買って出た。


 その光景を見て、俺は確信した。この都市で、俺の「エサ」スキルは、さらに多くの人間(と神)を巻き込んで、大きな波を立てるだろう。

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