28話 悩んで悩んで
今日も二人三脚の練習をする。だけど、まだ僕が何をするべきかにたどり着けない。
たまにうまくいく時があるけれど、その次は確実にダメだという感じ。
こよみは根気よく付き合ってくれている。だからこそ、震えそうなくらいに悔しかった。こっそり、頬を噛んだ。
「はると君、まだまだ答えには遠いみたいだねー。いっそ、私に負けちゃう?」
そんな事も言われてみたり。だけど、すぐに首を振って返した。
こよみが諦めないというのなら、僕が諦められるわけがない。ただの意地だと言われようと、それだけは譲れないんだ。
「ううん。僕は、負けたりしないよ。少なくとも、勝負を投げ出したりしない」
「そっか。でも、根を詰めすぎたかもね。ちょっと、休んでみよっか」
こよみは僕を見守るような優しい笑顔だった。今回ばかりは、素直に受けるべきだよね。
実際、少し頭を冷やすべきなのかもしれない。行き詰まっている時に、ただがむしゃらに進むだけでは解決しないものだし。
こよみは、僕に休みが必要だと判断した。もしかして、疲れているからダメだとか?
いや、違うか。でも、さっきまでのまま続けていても成功しない。それは確信していた。
とりあえず、足をほどいて地面に座り込む。すると、こっちに近寄ってくる人の影が見えた。
「はるとー、今月金欠だから、ジュースおごってくれない?」
ゆりさんだ。ちょっと甘えるような顔で、僕に払わせようとしてくる。まあ、別に良いんだけど。
なんだかんだで、ゆりさんとは楽しくやっている。それに、ちゃんと返してくれるタイプだからね。
おごってって言っているし、実際おごりにはなるはず。ただ、中学の時は給食のメニューを少し分けてくれたりもした。義理堅い相手だから、結局お得というか。
まあ、利益が目当てってわけでもないけど。友達だからってこと。
とりあえず、自販機に向けて歩いていこうとする。そうしたら、声が届いてきた。
「ふーん。ゆりちゃんってば、そういうことするんだ?」
「こよみ、あたしは違うから。本当にお金が足りないだけだから……」
僕からはこよみの背中しか見えないけど、ゆりさんは両手をパタパタと振っている。
実際、金欠なのは事実だと思う。そういうところ、ちょっとだらしないイメージがあるし。
だから、僕は気にしていないんだけど。無理やり僕がおごらされているみたいに見えたんだろうか。
「じゃあ、なんで私に聞かないの?」
「いや、こういう時は男がおごるものじゃない……」
なんか、ゆりさんの目が必死に見える。そんなに、こよみが怖いのだろうか。まあ、いつもより声は淡々としている気はするけれど。
男がおごるという話も、まあ分からなくはない。別に恋人でもないけど、それを置いておいても。
それに、ゆりさんは貸し借りをしっかりするタイプだから。そこまで不快でもないかな。
ただ、こよみとゆりさんは問答を続けている様子。ひとまず、僕はこよみの分も買うことに決めた。
とりあえず自販機に向かって、ゆりさんのオレンジジュースと、こよみの紅茶、そして僕の炭酸飲料。
そうしている間にも、話は進んでいるみたいだった。
「他の人じゃダメな理由があるの?」
「いや、はるとは変な誤解しないから……」
「ゆりちゃんらしいね……。ほんと、仕方ないんだから。でも、分かっているよね?」
「もう二度としないって……。だから、勘弁して……」
とりあえず、ケンカにはならなかったみたいだ。一安心かな。ジュースをおごる程度の話で友達がケンカするなんて、困るどころの話じゃないし。
まあ、これで僕が入るのにも違和感がなくなった。ということで、ゆりさんにジュースを差し出す。
「のど乾いているんでしょ? これ、あげる。じゃあ、こよみさん。あっちで一緒に飲もうよ」
「そういうことだから。ね、ゆりちゃん」
「ほんとに悪かったわよ……。そういうつもりじゃなかったのよ……」
なんか、ゆりさんは疲れたように肩を落としていた。僕たちはベンチに歩いていって、隣に座る。
「はると君、気を使わせちゃったみたいだね。ごめんね。後で払うよ」
「気にしなくて良いよ。いつも世話になっているんだし、安いくらいだから」
毎日ご飯を作ってもらって、起こしてもらう。それでジュース代までケチったら、もはやヒモ。今でも怪しいという意見は聞かないけれど。
とにかく、これくらいで遠慮されても困ってしまう。僕の方が、圧倒的に借りが多いのだから。
まっすぐにじっと目を見ると、こよみも納得してくれたみたいだ。少し、顔が緩んだ。
「ちょうど良いし、今日はここまでにしよっか。ゆっくり休むのも、大事だからね」
「分かったよ。明日、また頑張るからね」
「うん。はると君が答えにたどり着くかどうかだよ。ダメだったら、今度こそ足つぼマッサージかな」
お互いに笑って、その日は帰ることになった。結局、答えは分からないまま。
だけど、急ぎすぎてもダメなんだと思う。こよみは、そう言いたいはず。だから、今日は素直に休むことにしたんだ。
そして次の日。休み時間に、ゆりさんに呼び出された。こよみの方を見ると、手を振っている。
ひとまず着いていくと、まずは何か紙のようなものを差し出された。
「これ、プラネタリウムのペアチケット。これでこよみと出かけていいから、あんたが謝っておいてくれない? お小遣い前借りしたんだから、お願いよ……」
お小遣いを前借りって、かなり奮発というか頑張ったみたいだ。さすがに、そこまでしなくてもいいと思うんだけど。
確かにちょっと危うさを感じはしたけれど、普通に終わったはずだし。
「あれ? こよみさんが怒っているようには見えなかったけど……」
「普通にしているから、怖いのよ。変なことを言ったら、あたしはおしまいよ……」
一般論としては、まあ分かる。でも、おしまいとかないだろうに。
こよみは猛獣でこそあるものの、かなり手加減ができる方だ。僕だって、的確に弄ばれているくらいなんだし。
ゆりさんの心配しすぎだと思うけど。一応、軽く否定しておくか。
「そんなこと、無いと思うけど……」
「断言するわ。あんた、絶対に尻に敷かれるわよ」
「そうかな? まあ、ちゃんと伝えておくよ」
「頼むわよ……。あたし、こよみだけは敵に回したくないのよ……」
そう言って、ゆりさんは僕の手にしっかりとチケットを持たせてくる。
僕が謝らなきゃ絶望しそうなくらい、目を揺らしている。完全に、思い込みじゃないだろうか。
でも、買っちゃったものは仕方ないよね。受け取っておいた方が、無難か。ペアチケットなら、誘う相手も必要だろうし。
「そんなに怖い人じゃないと思うけど……」
「良いやつなのは確かよ。うっかり嫌いって言われたら、周りも敵になっちゃうくらいにはね……」
「まあ、分かったよ。じゃあ、こよみさんに伝えておくね」
「ほんと、お願いね。誘うのだって、怖かったのよ……」
ということで受け取って戻る。そして、こよみにチケットを渡す。
「これ、どうしたの? プラネタリウム、行きたいの?」
「ゆりさんから、お詫びって。かなり不安そうだったから、もらっちゃった」
「そこまで気にしてないのに。じゃあ、私からお礼を言っておくね」
「お願い。ゆりさん、お小遣い前借りまでしたらしいし」
「そんなに……。私をなんだと思ってるのかな……」
こよみはちょっと頬を膨らませている。まあ、それはそうだ。いくらなんでも、怖がり過ぎだと思う。
でも、もう買っちゃったものはどうにもならないし。捨てるくらいなら、使った方がマシだ。ゆりさんの気持ちも、晴れるだろうし。
「まあ、受け取ったんだから行ったほうが良いよね」
「そうだと思うよ。このチケット、期限が体育祭のちょっと後だね。お疲れ様会に行こっか?」
ということで、体育祭が終わった後に行くことになった。
お祝いの会にできるように、しっかりと勝ちたいよね。ゆりさんのためにも。
もともとやる気はあったけれど、更に高まっていくのを感じたんだ。
できるだけ早く、答えにたどり着かないとね。




