21話 お土産の罠
僕たちは、お土産屋さんに向かっている。もちろん、メインは父さんたちに渡すお土産ではある。
とはいえ、こよみとおそろいのアクセサリーを買うことにもなっている。もはや、反対しても無駄だろう。これまでの流れからして、母さんやあかねさんも敵に回ることは明らかだ。
それに、こよみがどうしても一緒が良いというのなら、わざわざ否定するようなことでもない。
ただ、いくらなんでもハートのアクセサリーがおそろいとかは勘弁してほしい。それだけは、なんとしても避けないと。クラスメイトにどんな目で見られることやら。
お土産屋さんの姿が見えてきて、なんだかすごくドキドキしてきた。さて、何を買うか。しっかりと考えないと。
こよみはとてもニコニコしている。嬉しそうだという感情が目に見えて分かるほどだ。
たぶん、アクセサリーを買うのが嬉しいんだろう。なら、できるだけ喜んでもらえるものを選んだ方が良いかな。もちろん、ハート以外で。
「はると君はー、どういうアクセサリーが良い? いくらなんでも、剣とかはダメだからね?」
無邪気な目で言ってくる。いくら僕でも、女の子に剣のアクセサリーを身に着けさせるつもりはないぞ。ちょっと、甘く見過ぎだ。
まあ、僕だけなら剣を選んだ可能性は否定できないんだけど。分かるだけに、あまり反論もできない。
実際のところ、こよみの意見はちゃんと聞かないといけない。女の子が付けて大丈夫なやつじゃないとね。
こよみが恥ずかしい思いをするのは、望むところじゃない。それに妙なアクセサリーでおそろいだと目立つ。しっかり選ぶのは、とても大事だ。目を皿にして選ばないと。
「はると、まずはお土産を選びましょう。大事なものは、ちゃんと時間をかけないといけないわ」
「くくっ、そうだね。はると君のセンス、見せてもらうとするかね」
母さんとあかねさんによって、本番はちょっと引き伸ばされた。今のうちに、よく考えよう。
とはいえ、お土産も大事だ。父さんとクラスメイトに贈るものだけれど。まあ、消え物でいいか。
食べ物をいくつか見ていって、それっぽいのが見つかった。
「こよみさん、とりあえずお菓子を買おうよ。魚型の和菓子とかどう?」
「ふふっ、良いんじゃないかな。私は、いちご味にするよ。はると君は、どうする?」
「じゃあ、抹茶味でいいかな。違う味を楽しめた方が、お得だよね」
「うん、そうだね。じゃあ、これで決まりということで」
こよみは笑顔で頷いていた。みんなへのお土産は、すぐに決まった。魚型の和菓子って、ちょっと面白い。お土産としては、悪くないんじゃないだろうか。
ということで、ここからが本番。おそろいのアクセサリーだ。
みんなと一緒に、アクセサリーが並んでいる場所にやってきた。さっそく、ハート型のものが目に入ってしまう。これだけは、なんとしても避けないと。
他には、星型とか花をあしらったものとか、魚をモチーフにしたものもあった。
ひとまず、僕は全体を軽く見回していく。候補としては、花が良い気がする。
「こよみさん、花を選ぶのはどうかな? この中になら、良いものがあると思うんだ」
「ふふっ、そうだね。魚は面白いけど、いつも付けていくには弱いかもね」
当たり前のように言われた。いつの間にか、いつも付けていくことになっている。くっ、これが力の差なのか。気づいたら、要求をいくつも飲まされている。僕は、弱い。
たぶん、母さんたちに助けを求めてもダメだ。つまり、もう決まったと考えて諦めるべき。なら、より真剣に選ばないと。
とりあえず、花に決まった。ハートは避けられたし、最低限のことはできたんだ。よしっ。
まず僕の提案が通ったんだし、次はこよみの意見を聞いてみようか。全部僕が選ぶのなら、おそろいとしては弱いだろうし。
「こよみさんは、この中ならどれが良いかな?」
「ふふっ、この3つかな。どれが良いか、はると君が選んでくれる?」
こよみさんは、それぞれ赤いバラとチューリップ、ひまわりの花をモチーフにしたアクセサリーを選んでいた。確かに、どれも見栄えが良い感じだ。原色がしっかりと映えていて、デザインとして強い。
となってくると、どれを選んでも悪くないとは思う。だけど、できる限り真剣に選ばないとね。
「くくっ、こよみらしい選び方だね。さすがは、私の娘だよ」
「そうね、あかねさん。はるとは、どれを選ぶのかしら。楽しみね」
なんか、ふたりとも笑顔で僕たちを見ている。そんなに注目されても、何も出てこないぞ。僕はもう、ハートを逃れるという戦略目標は達成したんだ。
だから、後はできるだけ良い感じのアクセサリーを選んでしまえば良い。ふふっ、ちょろいものだよ。
まあ、ちゃんと真剣に選ぶつもりではあるけどね。僕もこよみも、アクセサリーとは長い付き合いになるんだし。
それぞれのアクセサリーを、こよみの顔をイメージしながら見比べていく。
いつものこよみは、僕をからかってくる猛獣だ。だから、元気いっぱいなイメージのひまわりかもしれない。あるいは、情熱のバラとか?
ただ、チューリップも悪くない。華やかさという意味では、こよみに合っていると思う。
後は、こよみの外見に合わせるというのも手だけど。栗色の髪という印象に近い花は、特にない。やっぱり、イメージで選んだ方が良い気がする。
こよみの顔を見る。穏やかに微笑んでいる。僕が選ぶものに、任せてくれるつもりらしい。なら、ちゃんと僕が決めないとね。
僕にとって、こよみがどんな存在か。ずっと、僕を支えてくれる人だ。毎日ご飯を作ってくれて、勉強を教えてくれたりもして。だから、ひまわりやチューリップがイメージに近いのかもしれない。
ただ、猛獣であるこよみだって、間違いなくこよみなんだ。それなら、さっき考えた2つも候補になる。
両方混ぜると、ひまわりになる。でも、少しだけ違う気がした。
しばらくアクセサリーとにらめっこしていると、ある言葉が思い浮かんだ。きれいな花にはトゲがあるというもの。こよみに、ピッタリじゃないか?
そう考えてすぐ、僕はバラのアクセサリーを手に取っていた。
「これで、どうかな。一番こよみさんのイメージを感じる、バラを選んだんだけど」
「はると君が真剣に考えてくれたのなら、それが一番なんだよ。じゃ、行こっか」
そう言って、こよみは優しい笑顔を見せてくれた。ふたつ手に取って、僕はレジに向かう。お金を払って受け取って、片方をこよみに渡した。
すると、まさに花開くような笑顔を見せてくれた。アクセサリーより、ずっとキレイだと思えるような。
「ありがとう、はると君。これ、絶対に大切にするからね」
「ふふっ、二人の関係にピッタリね。はると、良いものを選んだわよ」
「そうだね。はると君らしい選び方だったよ。うん、良い感じだ」
母さんとあかねさんも、それぞれに笑顔で僕たちを見守っていた。なんだか気恥ずかしくなって、あっちこっちを見てしまう。
それでも、最後にはこよみがニコニコしながらカバンにアクセサリーをしまう姿を見ていたんだ。
僕もこよみと同じように、自分のカバンにアクセサリーをしまっていく。
それを終えてこよみを見ると、とても楽しそうな顔をしていた。まるで、いつも僕をからかってくる時のように。
「同じ日に、同じようなお菓子をお土産に渡したら、みんなはどういう顔をするんだろうね?」
……あっ! アクセサリーの事ばかり考えて、そっちを忘れてしまっていた!
こよみは最初から、お土産で勝つつもりだったんだ。今回も、手のひらの上。こよみマジックは、またもバッチリ決まってしまった。
でも、こよみが喜んでくれているのは事実だろうし、それで満足しておこう。
とはいえ、どうやって言い訳しようか。それが、頭の中でぐるぐると回り続けていた。




