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翌日の昼休み。
田中さんが和歌奈のところに来た。
「あの、調理実習の件なんだけど」
「うん」
「藤宮さんも大丈夫だって。4人で組もう」
「ありがとう!じゃあ決定だね」
和歌奈は、すぐに俺のところにも報告に来た。
「班決まったよ」
「マジでOKでたのか……」
「私と猿飛君と、田中さんと藤宮さんの4人」
「うぐ……緊張してきた……」
「だから土曜日に練習するんでしょ?」
「そういえばそうだった……」
「楽しみにしててね」
「楽しみって……お前が楽しむ気満々じゃねぇか……」
「当たり前でしょ?」
和歌奈は、満面の笑みでそう言った。
本当に、この人は容赦ない。
家庭科の授業。
先生が出席を取った後、連絡事項を告げる。
「調理実習の班、決まりましたか?では提出してください」
各班が名簿を提出する。
俺たちの班も、和歌奈が代表で提出した。
「来週はピーマンの肉詰めを作ります」
先生がそう言った瞬間、クラスがざわついた。
「材料は学校で用意しますが、事前に作り方は確認しておくように」
(ピーマンの肉詰めか……)
作ったことはある。
一人暮らしみたいな生活をしてると、ある程度は料理できるようになる。
授業が終わった後、和歌奈が話しかけてきた。
「ピーマンの肉詰めって作ったことある?」
「何回かは……」
「へぇ、意外かも。料理できるんだ?」
「まあ……一人だから、ある程度は……」
「ふーん……」
和歌奈は、少し何か考えるような顔をした。
でもすぐに笑顔に戻る。
「じゃあ当日頼りにしてるね」
「プレッシャーかけんな……」
「期待してるよ、猿飛君」
その笑顔が、やけに怖かった。
その日の放課後。
和歌奈が、いつものように俺の席までやってきた。
「じゃ、明日わかってるわよね。10時に駅前」
「お、おう……」
「遅刻したら許さないから」
「しないよ……」
「じゃあね」
和歌奈は、手を振って先に帰っていった。
俺は、その背中を見送る。
(明日……か)
緊張で、手に汗が滲む。
家に帰ってすぐ、ベッドに倒れ込んだ。
(明日……和歌奈と……)
何度考えても、現実感がない。
(何着ていけばいいんだ……?)
クローゼットを開ける。
そこには、同じような服ばかりが並んでいた。
黒いTシャツ、グレーのパーカー、ジーンズ。
バリエーションは皆無に等しい。
この装備で和歌奈というイベントボスに挑むにはあまりにも心もとない。
(いや、別に普段着でいいだろ……練習なんだし……)
そう自分に言い聞かせる。
一応、スマホを手に取り、検索バーに「デート 服装」と打ち込みかける。
「いや!これは練習だから!デートじゃない!」
一人で叫んで、スマホを放り投げた。
時計を見ると、まだ夜の9時。
(寝られる気がしない……)
結局、その夜はほとんど眠れなかった。




