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猿でもわかる彼女の作り方 ~口の悪い美少女が俺を恋愛強者にするらしい~  作者: 磯野 京


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朝のホームルーム。

 担任が出席を取り終えた後、連絡事項を告げ始めた。


「えー、来週の木曜日、3・4時間目に家庭科で調理実習があります」


 クラスがざわついた。


「4人1組の班を作るので、次の家庭科の授業までに決めておくように」

 俺――猿飛仁は、その言葉を聞き流していた。


(調理実習か……)


 どうせぼっちだし、適当に余った人間同士で組むことになるんだろう。

 いつものパターンだ。

 別に気にならない。

 というか、気にしてもしょうがない。


「はい、じゃあ次は――」

 担任の声が遠くに聞こえる。

 

 休み時間。

 スマホをいじっていると、突然視界が暗くなった。


「ねぇ、調理実習の班決めた?」


 顔を上げると、和歌奈が机に手をついて覗き込んでいた。


「うおっ!?」

「ビビりすぎでしょ」

「お前が急に来るからだろ……」


 和歌奈は気にせず続ける。


「で、班は?」

「いや、まだ。つーか決めようがないだろ」

「じゃあ私と組む?」

「……は?」


 一瞬、言葉の意味が理解できなかった。


「だから、私と組もうって言ってるの」

「いや、でも……お前、他に友達いるだろ……」

「いるけど?」

「じゃあそっちと組めばいいじゃん……」

「でもこれチャンスじゃん」

「何のチャンスだよ……」


 嫌な予感しかしない。

 和歌奈はニヤリと笑った。


「決まってるでしょ。女子と自然に会話する練習」

「うっ……」

「調理実習って、作業しながら話すから会話のきっかけ作りやすいの。しかも共同作業だから、自然に距離縮められる」

「お前、どこまで計算してんだよ……」

「褒め言葉として受け取っとく」

「褒めてねぇよ!!」


 和歌奈は俺の反応を楽しそうに見てから、続けた。


「で、4人組だから、あと二人必要なんだけど」

「誰か友達誘えばいいじゃん」

「んー、そうだね。田中さんとか誘ってみよっかな」

「たっ、田中さん!?」


 思わず声が裏返る。


「そ。ほら、この前『パン買うの?』で微妙な空気になったでしょ?」

「思い出させるな!!」

「だからリベンジのチャンスじゃん」

「いや、でも……向こうから見たら俺、完全に変な奴だぞ……」

「今更でしょ」

「今更って言うな!!」

「だから印象変えるの。今度はちゃんと普通に話す」

「普通にって言われても……」

「大丈夫。私がちゃんとフォローするから」

「それがまた不安なんだが……」


 和歌奈は俺の不安など一切気にせず、立ち上がった。


「じゃ、昼休みに田中さんに声かけてみるね」

「ちょ、待て!」

「待たない。決定事項だから」


 そう言って、和歌奈は自分の席に戻っていった。

 俺は、ただ呆然と見送るしかなかった。


(終わった……完全に終わった……)

 

 昼休み。

 和歌奈は、さっそく田中さんに話しかけに行った。

 俺は、自分の席から遠目にその様子を見守る。


(頼むから断ってくれ……)


 そんな願いも虚しく、二人は楽しそうに話している。

 田中さんが、こっちを一瞬見た。


(うわああああ)


 目が合った。

 いや、合ってない。

 俺の存在を確認しただけだ。

 でも、その視線だけで胃が痛くなる。

 しばらくして、和歌奈が戻ってきた。


「どうだった?」

「多分大丈夫」

「多分って……」

「藤宮さんも誘って4人でやるって。明日返事くれるって」

「マジか……」

「何、嬉しそうな顔して」

「嬉しくねぇよ!絶望してんだよ!」

「大げさ。別に田中さん、いい子だよ?」

「それは……まあ……そうだろうけど……」

「じゃあ問題ないじゃん」

「問題しかねぇよ!!」


 和歌奈は、俺の悲鳴を完全に無視して笑った。


「まあ、頑張って」

「他人事かよ!」

 

 放課後。

 いつもの帰り道を歩いていると、和歌奈が突然言った。


「ねぇ、調理実習までまだ時間あるし、練習しとく?」

「練習って?」

「共同作業中の会話練習」

「どうやって?また屋上で話すのか?」

「んー……それは前回やったしな。そうだ!週末、どっか行く?」

「……は?」


 一瞬、言葉の意味が理解できなかった。


「だから、一緒にどこか行って、実践練習」

「い、いや、それって……」

「デートじゃないよ?練習」

「で、でも……」

「嫌なの?」

「嫌じゃないけど……」

「じゃあ決定」

「早い!!」

「土曜日、駅前集合ね」

「ちょ、待て!」

「10時に駅前。遅刻したら許さないから」

「え、ちょっと……」

「じゃ、また明日」


 和歌奈は、そう言って先に歩いていった。

 俺は、その場に立ち尽くす。


(いや、これは練習だから……練習……)


 自分に言い聞かせるが、心臓の音は静まらなかった。

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