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猿でもわかる彼女の作り方 ~口の悪い美少女が俺を恋愛強者にするらしい~  作者: 磯野 京


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3/9

3

翌日の放課後。

 和歌奈は昨日と同じように、当たり前の顔で俺の席まで来た。


「今日も練習するよ。ほら行く」

「お、おう……」


 こうして連日美少女に引っ張り回される男子高校生の気持ちを、俺はまだ正しく処理できていない。

 そもそもこれは“恋愛練習”という名の晒し上げだ。

 なのに、昨日より少しだけ嬉しい――なんて、そんな甘い感情が胸のどこかで生まれていた。


(……俺、どうしたんだろ)


「ほら、ボーッとしないの。置いてくよ?」

「あ、待てって!」


 軽く笑いながら歩く和歌奈の後ろを追いながら、俺は昨日と同じ帰り道に出る。

 春の風が少し暖かくて、なんか、気恥ずかしい。


「さて。今日も質問タイムいくよ」

「昨日もしたじゃん……」

「恋愛練習ってそういうもんでしょ。ていうかアンタの場合、基礎から叩き込まないと何もできないでしょ?」

「……否定できないのが悔しい」


 和歌奈は俺の横で、腕を組みながら歩く。


「じゃ、昨日の続き。猿飛君ってどんな子が好みなの?」

「うっ……またそれ……」

「昨日は“黒髪で落ち着いてて優しい子”って言ってたよね。でもさ、あれって絶対テンプレでしょ」

「う……まあ……」

「アンタ、見た目にこだわるタイプじゃなさそうだし。じゃ、本当に大事なのって何?」

「そ、それは……」


(言うのは恥ずかしい。でも、嘘はつきたくない。俺みたいな陰キャが、女子に夢見てることなんてただ一つ……)


「……自分のことを……好きになってくれる人……」


 ぽつりと言った瞬間、和歌奈の足が止まった。


「…………は?」

「俺なんかに興味持ってくれる人じゃないと無理だし…そもそもこっちから好きになるとか、怖いし……」

「あーーーーー……なるほどね、うんうん」


 和歌奈はこめかみを指で押さえ、なんか深い溜息をついた。


「出た。“陰キャ男子の量産型願望”」

「りょ、量産型!?」

「そう。“自分を好きになってくれた子を好きになる”ってやつ。恋愛偏差値が低い男子の八割が言うやつ。アンタ、まさにド真ん中」

「悪口のオンパレードやめて!?」


 俺は耳が熱くなるのを感じた。

 否定できないから余計に痛い。


「てか、それってさ……」


 和歌奈は俺の目の前に指を突きつける。


「『自分から好きになる勇気がないから、好きになってもらえるという安全地帯に逃げてるだけ』だよね?」

「うっ……ぐ……」

「“傷つきたくない”って気持ちはわかるけどさ。それって恋愛じゃなくて、“保険”でしょ?」

「……ぐぅの音も出ない……」


 本当に痛いところを刺してくる。


 俺は完全に言葉を失っているのに、和歌奈は容赦なく続けた。


「アンタの場合、それに拍車かけて卑屈じゃん?」

「ぐはっ……!」

「自信ないくせに、プライドだけは妙にあるし。

自分から動けないのに、相手に全部求めるって……」

「もうやめてくれ……致命傷だ……」

「まだ続くよ?」

「続くんかいッ!」


 和歌奈は楽しそうに笑ったあと、急にまじめな声になった。


「でもさ。本当に誰かと付き合いたいなら、“好きになってもらう”だけを望むのは違うよ」


 俺は少しだけ顔を上げた。


「……じゃあ、どうすればいいんだよ」

「簡単。アンタが『誰かを好きになれる自分』になればいいの。そしたら、相手から好かれる確率も上がるよ?」

「そんな簡単に言うけど……」

「だから練習してんでしょ?ほらまず、逃げずにちゃんと顔見て話すところから」


 そう言って、和歌奈はぐっと顔を近づけてきた。


「ほら、見て。私でもクラスの女子でも同じ。話すときはちゃんと目を見る」

「ち、近い……!」

「このくらい普通でしょ?」

「普通じゃねえよ俺には!!」


 顔が熱い。

 マジで熱い。

 こんな距離で美少女に見つめられたら、そりゃ誰だって固まる。


 和歌奈は俺の反応を見て、満足げに笑った。


「はい、今日も満点のリアクションありがとう」

「俺、完全にオモチャじゃん……」

「もちろん。でも、オモチャにしてるだけじゃないんだよ?」


 その声だけ、少しだけ優しかった。


「アンタみたいなタイプ、変わり始めたら絶対面白いし――本当に誰かを好きになったら、一気に表情変わりそうだしね」

「……そんなこと言われても……」

「いいの。ゆっくりで。そのための練習なんだから」


 夕陽の中、黒髪が揺れる。


 自分のことを好きになってくれる人がいい――

 そう口にした俺に対して、

 和歌奈は、毒を吐きながらも決して否定はしなかった。


 むしろ――


「ま、アンタを好きになる変わり者なんてそうそういないと思うけどね」

「最後に毒がデカい!!」

「でも、ゼロじゃないよ?」

「…………」


 その言葉だけは、不思議と胸に残った。

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