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Case2-4.『館の案内』

「で、レーナ様の能力についてだね」

「はい」


 自分へ向けられた視線の意図に気付いたエミリオは再びコーヒーを一口流し込んでからルカの疑問に答える。


「簡単に言うなら未来予知だ」

「……なるほど」


 ルカがあっさりと納得したのは実際にレーナが言葉一つで危機を回避した事実を目の当たりにしていたからだろう。

 腑に落ちたと頷くルカの様子を視界に捉えたままエミリオは自身の言葉に補足を入れる。


「本人曰く、『過去に戻る』能力らしいんだけどね。どちらでも繋がる結果は同じだから、わかりやすい方で認識してくれれば大丈夫だよ」

「未来を視る能力と過去へ戻る能力だと随分意味合いが違う気も……いや、なるほど」


 未来視により知った未来の危機を回避しようが、一度目の当たりにした危機を知った上で過去へ戻り、二度目の危機を回避しようが結果としては身の安全という新たな未来へ繋がる。

 時間遡行を体験できない当事者以外からすればここに大きな差は生まれない。

 エミリオの言わんとしていることを悟ったルカは否定の言葉を途中で呑み込んだ。


「見ることが出来る未来は最長で十秒先までという制限はあるけど、正直その制約込みでも十分強力な力だ」

「ほぼ確実に危機を避けられる能力……。確かに味方なら心強いですが敵なら厄介ですね」

「そういう事。一部の組織は覚醒者(ウェイカー)への執着が凄まじいし、同時に強い警戒心を抱いている場所もある。だから彼女はその身柄を狙われやすい。誘拐であれ殺人であれね」


 常識的に考えれば、真昼間に公衆の面前で襲撃するなどというハイリスクな選択は取るべきではない。しかし実際にそのような事態が発生した今、そうするだけの理由があると認識している、それ程までに覚醒者に対し過敏になっている敵対組織が存在するという事実があるのだ。

 ボスの娘としてという理由だけであれば正体を隠し、息を潜めているだけで脅威から逃れることもできたかもしれない。しかしそこに覚醒者であるという条件が上乗せされたことにより、一層事態は複雑と化していると言えるだろう。


「……というか、それってつまりレーナ様の正体がバレてるってことですよね? 情報漏洩じゃ」

「それねぇ。本来、レーナ様の日本移住っていうのは安全の確保と社会的な常識を培う為のものだったんだけど……ちょっと前に他組織に寝返った奴がいたらしい。既に処分されてるけど、情報ってのは金と一緒にすーぐ回っていくからね」

「その結果がこれ、と……」


 エミリオがカップを置いた右手で親指と人差し指を擦り合わせる。

 それを視界に留めながら、ルカは目頭を押さえ込んだ。


「残念だけど、頭が痛くなる案件はこれだけじゃない。こっちに関しては詳細も聞いてると思うけど」

「把握してるからこそ頭が痛くなってきてるんですけど」


 ただでさえ厄介な事態に陥っている周辺の事情に加えて付き纏う問題。

 それを理解しているルカはエミリオが説明するよりも先に新たな話題を展開する。


流浪者(ワンダラー)についてですね」

「そ」


 覚醒者と切っても切り離せない関係にある流浪者(ワンダラー)という存在。

 その名を出したルカの声をエミリオは肯定する。


「流浪者は簡単に言えば腐敗してないゾンビみたいなものだね。歩く死人だ」


 エミリオの言葉にルカは頷く。

 その視線は相手の手元へと向けられていた。


「生前、覚醒者と接触したことがある。死の間際に何かしらの強い感情……まあ大抵が生への執着や心残りとかかな? それを抱いていた。この二つの条件を満たすことで死者は流浪者となることが出来る」


 革手袋に隠された右手が二本の指を立てる。

 その指先へ注目するルカの姿を見つめながらエミリオは目を細めて微笑んだ。


「流浪者もまた、人ならざる力に目覚める。但しこれには覚醒者の能力とは決定的に異なる部分がある」

「――体の変形を伴った能力。そしてその力を酷使することや時間経過によって異形へ近づくというデメリット」


 ルカは咎めるような視線をエミリオへと向ける。

 その物言いたげな視線の意味を理解したエミリオはわかっていると言うように軽く両手を上げた。


「そう。流浪者は二つ目の命と強力な能力を得る代償に見た目や感覚、思考も徐々に人から遠ざかっていき、怪物と形容すべき存在へと変貌していく。そしてラフォレーゼファミリーにも……もっと言うならここの関係者にも流浪者がいるという訳だ。そして……」


 エミリオは上げていた右手で左手の手袋を取っ払う。

 革袋に隠されていた左手。そこには虚無が広がっていた。

 手袋の下には何もなかった。彼が晒したのは手首から先の消えた左腕と不自然にその先を失った手首の断面だけ。


「ボクもその一人」

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