Case16-14.『決戦』
「先に行きます」
睨み合う流浪者二人を一瞥し、ルカはシアの後ろから出口へ繋がる扉へ駆け込む。
それを見た側近が彼の思惑を止めようと地を蹴るが、その軌道にシアが割り込む。
振り下ろされた腕は蔦を重ねて生成された盾に受け止められた。
そしてシアの妨害のおかげでルカは出口まで逃げ込む事ができた。
扉を開け、中へ潜り込む直前、ルカはふと顔を上げてビルの外へ視線をやる。
そこには浮遊する小さな影がある。
シアや側近が気付いていないだろうその存在を確認するとルカは今度こそ屋内へと駆け込む。
「シアさん、ライオンはスタミナがありません。視野は狭く人程視野の側面は認識できません。それと、強い光にも強くない」
『光ですね。であれば私がお手伝いできるでしょう』
「長期戦に持ち込めば勝率は上がるかもしれませんが、そうすると――あいつは俺が仕留めてしまうかもしれませんね」
ルカは無線を繋いだまま挑発するように鼻で笑う。
そして拳銃の弾を詰め替えると外へと飛び出していく。
「地上の敵は俺が対応します。援護お願いします」
『任せて』
答えたのはレーナだ。
その声を確認し、ルカは直進する。
ズールイのもとへ駆け寄った構成員達がルカの存在に気付き、一瞬で敵意を向ける。
ルカは一人の頭を撃ち抜き、近くに停められていたトラックの影へ回り込む。
障害物を駆使して弾丸を避けつつ、攻め入る隙を狙うルカ。彼は身を乗り出して弾を撃ち込もうとした。
しかしその耳へレーナの声が飛び込む。
『待って!』
前のめりになりつつも反射的に動きを止めたルカの目先を弾丸が通り過ぎる。
更に後方から近づく僅かな足音に気付き、ルカは体を捻ると音のした方へ銃口を向け、引き金を引く。
発砲音に紛れてトラックを回り込んで来ていた構成員は腕に弾丸を受け、呻き声を上げる。
その頭へ二発目の弾が捩じ込まれた。
「助かりました」
ルカは視線を頭上へ向ける。
宵闇に紛れて飛行するドローンを見つけた彼はすぐに気を取り直し、トラックの影から飛び出した。
『右へ飛んで』
何名かの頭を的確に狙い撃った時、無線から指示が飛ぶ。
それに従って移動した時、元の立ち位置を縦断が通過していく。
その後も攻めの姿勢を崩す事なく着実に敵の数を減らし、標的へ距離を詰めるルカは何度もレーナの未来予知の結果に則った指示によって命を拾う。
そして構成員の半数以上が命を落とした時、ズールイとの距離が完全に縮まる。
(ズールイの能力は確かに強力だ。動きを全て読まれてしまうのは厄介極まりない。だが――)
ルカが引き金を引くより先、銃口を向けられたズールイは自分が頭部を狙われている事に気づき射線を避けるように移動する。
突如、無線からレーナの声がし、彼の死角で閃光が広がるが、それを今の自分には不要な情報だとルカは割り切った。
ルカは目の前の標的の事に考えを集中させる。
(身体能力はあくまで年相応の少年)
ルカの思考を読んだのだろう。ズールイが顔を歪ませる。
(――いくら動きを読まれようと、体が追いつかないような攻撃を仕掛けさえすればいいだけだ)
「ほら、倒しちゃいますよ」
ズールイが懐から拳銃を出すが、既に武器を持っているルカの動きには間に合わない。
ルカはズールイの胸ぐらを掴み、残った構成員側に立たせて銃弾の盾の代わりにすると薄らと笑みを浮かべる。
そしてズールイへ押し付けた銃の引き金に触れるのだった。
倉庫付近のビル、その屋上でシアはズールイの側近――獅子の流浪者と対峙する。
強力な力を持つシアであるが、彼の能力は中距離からの攻撃や遠距離の攻撃を阻害する事には向いていても、近接戦闘にはあまり向かない。
一方で側近は近接戦闘を得意とする上、速度も腕力も桁違いの個体だった。
そんな側近に距離を詰められ、シアは蔦による防御に傾いた戦闘を強いられる。
本人の生前のポテンシャルも揃い、能力に頼らずともある程度の攻撃は避けられる。
だが距離を詰められた状況でシアが自ら攻撃を仕掛けるには何かしらのきっかけが必要であった。
太い腕が爪を尖らせ、シアの首筋を狙う。
それを硬化した蔦が防ぐ。
太い足がシアの片足を折らんばかりの力を込めて迫る。
それを最低限の動きで避ける。
シアは避けた体勢を利用し、回し蹴りを繰り出す。しかしそれは毛並みで覆われた腕に命中するものの傷一つ与えられない。
純粋な力勝負でも距離感でも部が悪いシアは大きく後ろへ飛び退いて敵から離れようとする。
だがその思惑を悟った側近はそんな彼を追いかけて高く飛び上がると、シアへ向かって空中から蹴りを叩きつける。
シアは凄まじい音と共に叩き落とされたコンクリートに体を強打させる。
しかし痛みに悶える様子は見せず、彼はすぐに体勢を立て直すと正面に着地した敵を静かに見据える。
その時だ。
『シアさん、西側へ相手を引きつけてください』
アルノルドが指示を出す。
返事はなくとも指示に従う程度の知能がシアに残されているということ。
それをアルノルドも悟っていたからこそ、彼はシアが従ってくれると信じて声を掛けたのだ。
そしてシアは彼の想定通り、西側――倉庫の方向へ走り出す。
側近はそんなシアとの距離を詰める事に集中し、彼の腹部を蹴り付ける。
だが蹴られた体が吹き飛ぶ勢いすら利用し、シアは屋上の端へと辿り着いた。
彼が静かに着地した次の瞬間。
彼の頭上に現れたドローンが眩い光を放った。




