Case16-12.『決戦』
ズールイは側近を引き連れ、本拠地へと戻る。
そこへ四本腕の流浪者が辿り着いた。
「遅くなりました」
「ほんとだよ。とっとと寝たいのにさ」
「もう暫しお待ちいただけますでしょうか」
「は?」
「先に私が確認してまいります」
「…………とっととしてくれる? 大怪我までして、ほんとに疲れてるんだから」
四本腕の流浪者を見たズールイは彼の思惑を悟り、深々と溜息を吐いた。
一礼し、ビルへ入っていく背中を彼はは見送る。
「ここは本拠地ですから、あの戦力でそう易々と襲撃される事はないと思いますが……抗争中ですし、何か仕掛けられていないとも限りません。念の為に」
「わかってるよ! 聞こえてるに決まってるでしょ。いちいちうっさい――」
その傍で側近が口添えをした。
だがそれは余計にズールイの機嫌を損ねることとなり、彼は声を荒げる。
――その時だ。
途轍もない爆発音が二人の鼓膜を貫いた。
瞬く間に火炎と黒煙が巻き起こり、入口の窓が割れる。
爆発音は一度には止まらず、入口からビルの奥、二階、三階……と大きく広がった。
ビルの窓ガラスが一瞬にして飛び散り、瓦礫と共に地上へ降り注ぐ。
それに気付いた側近はズールイを抱き上げると瞬きをする間にビルから距離を取る。
「ズールイ様、ご無事ですか!」
「…………なんだ、これ」
ズールイは唖然とする。
洋館の襲撃よりも多くの人員が残っていたビルが一瞬にして崩壊寸前の姿へと変えられたのだ。
爆発の光景。
それを何度も脳裏で反芻させる内、ズールイの頭は更に前の記憶を引っ張り出していた。
以前の本拠地。コンテナが並んだ屋外。
致命傷を負った裏切り者の死を確信し、彼を嘲笑っていたときのことだ。
血に塗れた男はボロ雑巾のようになりながらも不気味な薄ら笑いを浮かべ、持っていたボタンを押した。
刹那、ズールイの周辺は爆発によって瞬く間に火の海となる。
男は自分諸共爆発に巻き込み、ズールイを殺そうとしたのだ。
「ズールイ様、先程の者とも通信が途絶えました。また、近くに敵がいてもおかしくはない……ここを離れます」
「…………あいつだ」
側近に抱えられ、撤退しながらもズールイは視線を遠ざかるビルから離せずにいた。
ズールイはこの状況を作り出した男の正体を直感的に理解する。
「黎 仔空……ッ」
***
「そうそう。GPS付けておきましたよ、アルノルドさん」
イザベラは運転の片手間に無線機でアルノルドへ声を掛ける。
『ズールイと干渉したのですか?』
「いいえ。けど、恐らく重役と思われる流浪者に」
「ズールイが怪我をすれば身を守る為に彼は撤退するでしょう。とはいえ抗争を仕掛けた側ですから、状況が落ち着くまでは安全の確保に戦力を割きたい……そうなれば、流浪者――それも、強力な力を保有した存在はズールイの近くへ置きたいと考えるはずです」
「彼はきっとズールイと合流するわ。明らかに強すぎたもの」
『……なるほど。事前に掴んだ本拠地、取り付けたGPSがビル内へ入ったという事はズールイは共にいる可能性が高いと』
「そういうこと、みたいですよ?」
イザベラが四本腕の男の胸倉を掴んだ目的は決して挑発する事ではない。
彼女はその時襟の裏にボタン型GPSを取り付けていたのだ。
イザベラはアルノルドの言葉に頷きながらも、更なる詳細を語るようルカへ促す。
「アルノルドさん、イザベラさんが取り付けたGPSの位置が例のビル内に入ったら合図をください。可能であれば、近くまで来た時点でこまめに報告いただけると助かります。……レーナ様、シアさん、聞こえていますよね」
『ええ』
短い返事が無線機から聞こえる。レーナの声だ。
『あの後、シアにビルへ行かせたわ。潜入するにあたって何人か殺したみたいだけど、外から見ている感じ、騒ぎにはなっていなかったようだからうまく隠したのね。戻ってきた時には持っていた爆弾も全部無くなってたから、全部取り付けたんだと思う』
「爆弾……ああ、そういう事」
「シアさん、アルノルドさんの合図と同時にビルを爆破してください。レーナ様、もしシアさんが俺の指示に対応できない時は……」
『わかってるわ』
「な……っ! 貴方、レーナ様に……っ」
非難の声が隣から飛ぶ。
想定内の反応にルカは一度無線を切って答えた。
「なりません」
「……っ!」
「そんな事にはなりません。……させないはずです」
「貴方……シアさんを焚き付ける為に…………はぁ、性格が悪い男ね」
「言われ慣れました」
唖然としていたイザベラは安堵から肩の力をゆっくりと抜いていく。
『……畏まりました。お任せください』
アルノルドも何かを悟ったのか、僅かな沈黙ののちに返答する。
そして予定通りに、アルノルドはGPSが海志幇の本拠地のビルと重なる直前から無線によるカウントダウンが始まり、『今です』と告げる。
その数秒後。
『……大丈夫。シアがやってくれたわ』
落ち着いたらレーナの声にルカやイザベラは安堵の息を漏らすのだった。




