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Case16-9.『決戦』

『こちらルカ。敵を殲滅しました。増援が来る前に移動します』


 ライフルをギターケースへ押しやり、拳銃を回収したルカはビルを離れて人気のない道を走る。


『お怪我は』

「多少派手にやりましたが作戦続行には問題ありません。ただ、できればバイクの運転は避けたいですね」

『オーケー、なら私が拾うわ。そろそろ吹き飛んでもおかしくないような車でよければね』

「全くよくはありませんが……」

『現在地は確認しているわ。そのまま北上しなさい。五分後に迎えにいくから』


 やはりバイクを取りに戻ろうかと思案したルカであったがその話を切り出すより先にイザベラから指示を受ける。

 既にルカを迎える準備をしているであろうイザベラに無駄足を踏ませるわけにもいかず、ルカは顔を顰めながら言われた通りに北へと向かった。


 ルカが大通りへ出た時。

 遠くから発砲音や騒々しい破壊音が響く。

 それが徐々に近づくのを悟ったルカはイザベラが追手を引き連れて近づいているのだと理解した。



『見つけたわ。先頭の車よ』

「わかっています。車種もナンバーも覚えていますから。ただ……停まる気がなさそうなんですけど」

『ごめんなさいね。追い付かれちゃうからブレーキは一瞬しか踏めないわ』

「一応怪我人なんですけどね。無茶振りが過ぎるのでは」


 チェイスの先頭を走る車。その助手席の扉が蹴り開けられたのを遠目に見ながらルカは溜息を吐いた。


(車の速度と現在地の距離からタイミングは割り出せる)


 ルカは即座に車へ飛び乗るべき瞬間を割り出し、その時を待つ。

 そしてイザベラの乗った車が自分を通り過ぎる手前。ブレーキが踏まれる瞬間に彼は迷いなく道路へと飛び込んだ。


 開けっぱなしの入口から見事車内へ潜り込んだルカは体をソファに激しく打ち付け、呻き声を上げる。

 しかしすぐに扉に手を伸ばし、既に窓が破られているそれを閉めた。


「……いくら何でもボロボロ過ぎませんか」


 凹みや銃痕、割れた窓ガラス。外から見ただけでも異常な様相の車体は内装も蜂の巣のようになっていた。


「そのセリフ、そっくりそのまま返すわよ?」


 車のアクセルが再び踏み直される。

 煙草を咥えながらハンドルを片手に握るイザベラは、飛び込んだ姿勢のまま自分に凭れ掛かりつつ座席の下に座り込んでいるルカの姿を見やる。


「死に掛けを迎えに来た覚えはないわ」

「大袈裟な。急所は無事ですよ」

「その怪我でアレを倒すつもり?」

「はい。とは言っても、主に動くのはシアさんでしょうから。だからこそこの状況でも貢献できる事があるはずです」

「レーナ様が悲しむわ」

「そうならないように俺が行くんですよ」


 イザベラは溜息を吐く。

 そうではないのよ、というぼやきを不思議に思いながらもルカは体勢を立て直して助手席へ座る。

 そしてポケットに忍ばせていた新品のラムネ菓子をあげたかと思えばそれを口の中へ流し込み、瞬く間に完食した。


「じゃ、街を出るという事でいいのね」

「はい。目的地は事前にお伝えした場所で」

「わかったわ。それから……いいのがいたわよ」


 イザベラは後ろを見るようにと親指で後方を示す。

 割れたリアガラスから飛ぶ銃弾に気をつけながら追手を確認したルカは追手が乗る車の内、一台の中に他の構成員らとは違う特徴を備えた男を見つける。


 手を四本持つそれは間違いなく流浪者であった。


「あの腕、全部伸びるし馬鹿力なのよ。あいつに近づくと車ごと捕まるわ」

「相変わらず滅茶苦茶ですね異能って」

「あれは、流浪者の中でも厄介な部類でしょ?」

「恐らくは。だからこそ――都合がいい」


 イザベラは同意するように鼻で笑う。


「まあ、そういう事だから少しやんちゃするわよ。車も新調したいしね」

「は?」


 後半の言葉の意図が分からず聞き返すルカ。

 しかし彼の反応など気にも留めず、イザベラは運転席の扉を開け放つ。


「運転、よろしく〜」


 ルカへ振り向き、片目を閉じた彼女は次の瞬間、車の上へと姿を消した。


「っ、おいおいおい……!」


 運転手が消え、動揺を隠しきれないルカは助手席から慌ててハンドルを握り、アクセルを踏む。

 そして遅れて運転席へと移動した。


 いつの間にか街を抜けていた車を追う敵の数は館を出発する時に比べれば大幅に減っている。

 とはいえそれでも車を停めようとする敵が零になる気配はない。


そしてそんな敵が前方からも車やバイクが突っ込んできていた。


「っ、長くは持ちませんよ!」


 ルカはハンドルを切ってそれらを避けるも、イザベラのように運転が手慣れているわけではない彼に心の余裕はない。

 いつミスをして車が停まるともしれない中でルカは早く用事を済ませるようにと車上のイザベラへ伝えた。


「ええ」


 車上に立つイザベラは風を感じて目を細める。

 その口には笑みが刻まれていた。

 彼女は眼鏡をポケットへしまうと二つの三つ編みを解き、一つにまとめ直した。


 そんな彼女の視界の端。

 前方から迫るバイクに乗った構成員の姿が映る。


「あら、いいの乗ってるじゃない」


 イザベラは加えていた煙草を携帯灰皿に突っ込むと拳銃を構え、バイクの操縦者へ向けて発砲した。

 弾を胸部に受けた男の体が傾く。

 そしてその傍をルカが運転する車が通過する刹那。

 イザベラは足場を蹴って宙へ浮くとそのバイクへと飛び降りた。


「これ、貰うわね?」


 力が抜け、道路へ傾く体を押し除け、席を奪ったバイクのハンドルを掴む。

 元の操縦者は道路へ体を打ち付け、味方の車に跳ね除けられて絶命した。


 こうしてイザベラは車から敵のバイクへと器用に乗り換えたのだった。

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