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Case16-7.『決戦』

 爆散した異形の影から二、三体目の異形、そして遅れて接近する人の気配がある。

 ルカはそのうち一体をライフルで撃ち抜くとそれを手放して拳銃を拾い上げる。

 そして塔屋から飛び出し、三体目の影へと潜り込んだ。


 ルカの影を見つけた構成員が次々と発砲する。

 だがそれは全て手前にいた異形に命中する。頑丈な個体らしく、鉛玉を埋め込まれた異形自体は未だ存在を維持していた。


 ルカは構成員らの死角となった異形の影から発砲し、二人目の構成員の頭を貫通させた。

 だが異形の狙いはそもそも自身を盾とするルカの存在だ。


 異形は背中に潜む標的を仕留めるべくぐるりと体を反転させる。

 だがそこへ四体目の異形の攻撃が放たれる。


 全身の血肉を分離させ、針状に硬化させたそれは凄まじい速度で迫る。

 それを身を低くして避けたルカの傍で三体目の異形は全身に穴を空け、絶命する。


(力は驚異的。だがやはり――知能は低く、連携は取れない)


 灰となって消えていく異形。

 その横をすり抜けたルカは残った構成員達へと距離を詰める。


「な……っ、ガキじゃねーか!」

標的(ターゲット)の姿もないぞ!」

「焦るな。想定外だが殲滅対象には変わらない」


 遠目から一瞬見ただけではルカの容姿までは視認できなかったのだろう。

 圧倒的な戦力差の中躊躇なく飛び込んで来るルカの姿に構成員達は動揺を見せた。

 そして冷静さを取り戻すまでの間に一人の頭が撃ち抜かれ、更に真っ先に照準を合わせた一人が同じく頭に銃弾をくらう。


 一方でルカの方はというと数々の鉛玉を放たれながらも、一つとして彼の体を捉えるものはない。

 ルカは直線的な移動を避けながら、敵の銃口の角度と引き金を引くタイミングを見極めていた。

 相手の予備動作によって銃弾の軌道を予測するルカ。彼が構成員の元へ辿り着いた時。既にその数は四人まで減っていた。


 顔を歪める構成員の正面へ辿り着くルカはそのまま足を止めず、彼の傍をすり抜ける。

 刹那、驚きながらもルカを逃すまいと体を捻った構成員の首が蒸気を上げながら溶けていく。


 紫色のヘドロのような怪物がルカを狙った際に誤って構成員の頭へ触れたらしかった。

 頭を消されて絶命した構成員の体が怪物に呑まれて消えていく。


(あいつは後回しだな)


 ルカは死体の中から拳銃を拾い上げると元々握っていた方の銃の先を脇の隙間から覗かせる。

 彼は振り返ることなく後方へ発砲した。

 その弾はルカの背を狙っていた構成員の首に命中する。


 多量の血を噴き出しながら男が倒れる。彼が放った弾丸は自身が撃たれた拍子にあらぬ方向へと飛ばされ、ルカには当たらない。


「あいつ、こっちを見ないまま……!」

「ッ、化けもんが!」


 残された二人の構成員が左右から叫ぶ。

 刹那、素早く腰を落としたルカの頭上を二発の弾が通過した。


(あと二人――)


 味方同士で敵を挟み込むよう距離を置いていた二人。

 その丁度間を通るようにルカは走り出す。

 途中、大きく跳躍し、宙返りした彼は頭と足を逆さにしながら引き金を引く。


 頭の下を掠める銃弾達。それらとは対照的に彼が同時に放った二発の銃弾は二人の構成員の胸と首へ命中した。

 明らかな致命傷。彼らの死を悟ったルカは残された異形へ注意を割こうとする。


 だがそれよりも先、ルカの視界へ何かの残像が飛び込む。

 その存在を視認した直後。ルカは右肩を長く伸びた鎖で抉られる。


「ぐ、っ」


 小さく呻き声をあげたのも束の間、別方向から伸びた鎖がルカの横腹を叩きつける。

 完治していない傷が悲鳴を上げ、ルカは掠れた悲鳴と共に肺に溜まる空気を全て吐き出した。


 衝撃で肩に埋まった鎖が抜けた代わりに、ルカの体は大きく吹き飛ばされる。

 数度地を跳ねた体はその勢いを殺しきれずに屋上の外へと飛び出した。


「……ッ!」


 霞んだ視界の中で咄嗟に片方の拳銃を捨て、手を伸ばす。

 何とか足場の縁を掴んだルカは屋上の端で宙に浮く体勢になった。


 空いている腕は肩に傷を負っている為、体を持ち上げる程の負荷には耐えられないだろう。


(片腕でも這い上がることは出来る……が)


 ルカは異形達の言葉にならない呻き声を聞きながら顔を顰める。

 屋上へ戻ろうにも、そこには二体の異形が待ち構えている。

 復帰には小さくない隙ができる。必死によじ登ったとして、体勢を立て直す前に殺されるのが関の山だと彼は考えた。


(理性が消えた中でも異形が執拗に俺を狙えたのは、生前の心残り――恐らくはズールイに植え付けられた恐怖が本能に刷り込まれているからだ)


 主人であるズールイの期待に応えなければどうなるのか。それを生前から刷り込まれ、命を落とすその瞬間すらその使命感に囚われた海志幇の構成員達。

 彼らが心残りを清算する日は来ないだろう。


(あいつらはズールイの敵である俺が生きている限り執拗に殺そうとするはずだ。だからこそ人の何倍も大きな脅威を相手に隙を見せるわけにはいかない)


 その時、ルカの耳に鎖が擦れる音が届く。

 刹那。彼の頭をある思惑が過った。


(……いや、あるな)


 ルカはビルの遥か下を見下ろす。

 吹き上げる風を受けながら彼は歪に口角を釣り上げる。


「――自力でなくても戻る方法が」


 失敗すれば落下死。だが成功すれば形勢を立て直せるかもしれない。

 そしてルカという青年は元より命を懸ける選択に躊躇せず――寧ろ楽しむ質の男であった。

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