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Case16-6.『決戦』

 アルノルドが手を加えたドローンにはGPSやカメラの他にもいくつかの機能を搭載したものがある。

 制御室で漂っていたうちの一つは小型の銃を隠し持っていたものだ。


 ズールイは持っていた拳銃で自分を狙ったドローンを壊す。


「いた……っ、い゛だい゛ぃ……っ!」

「ズールイ様、すぐに手当を……!」


 患部を抑え、肩を戦慄かせるズールイに側近は駆け寄る。

 その隙を逃さず敵へ銃口を向けたアルノルドだったが、それを許すまいと側近がナイフを投げ飛ばす。


 正確な軌道を描くそれを半身で躱したアルノルドは鋭い視線を向ける側近の様子を窺う。


 ――機を見極めたらすぐに離脱してください。


 そんな彼の脳裏を過ったのは無線を通して聞こえたルカの指示。

 アルノルドは自身の怪我の存在を同時に思い出し、小さく息を吐く。


(……ここは欲を見せる場面ではない。あとは――彼らに任せましょう)


 アルノルドはボタン型の機器をポケットへしまうと代わりに煙玉を投げ捨てる。

 そして充満する煙の中、静かに姿を消したのだった。


 制御室から繋がる通路は非常に長い。

 故に、その出口は洋館から適度に離れた場所であり――海志幇が把握していない地点であった。

 その為、外へ出た瞬間の敵との遭遇はなく、アルノルドは近くの路地裏に身を潜めて自身の無事を確保する事に成功する。


「こちらアルノルド。洋館を出ました。ズールイと側近が一人通路に残っている他、恐らくは大人数が洋館を占拠しています」

『ルカです。了解しました。そのまま近くから離れてください』

「それとすみません、ルカさん。恐らく貴方の居場所を抜かれました」

『……そうですか。わかりました、すぐに移動します』

「申し訳ありません」

『いえ、想定内です。寧ろレーナ様やシアさんでなかったのは助かりました』


 アルノルドは無線を繋いだまま路地裏を進む。

 道の先、停めている車が見えていた。逃走用に事前に用意していたものだ。


 それに乗り込み、イザベラが騒ぎを起こして回ったルートを避けるように車を走らせながらアルノルドは続ける。


「ズールイとの遭遇は想定内でしたからね。地下に気付かれた時点でレーナ様達の位置情報の共有は切っていました」

『レーナ様の居場所の次に重要なのは俺の存在でしょうから、カマを掛けられれば思考が働かないわけもありません』

「……それだけでは、ないのでしょうが」

『すみません、移動の支度をしていて音が。もう一度お願いできますか』


 海志幇の構成員らが地下へ乗り込む直前、アルノルドはルカと話していた。

 そして彼の心境の変化に少なからず心が動いた。

 だからこそ最後に見たレーナとシアの現在地よりも先にルカの存在を思い出してしまったのだろう、とアルノルドは結論付けていた。


(私も、影響は受けているのでしょうね)

「いいえ、なんでもありませんよ」

『そればかりですね、アルノルドさんは……――っ!』

「ルカさん?」


 会話の途中、ルカの言葉が途切れる。

 アルノルドが声を掛けた数秒後、ルカの低い声が返される。


『間に合いませんでした。迎撃します』

「…………ご武運を」


 返事はない。

 仲間の無事を祈りながらも、アルノルドはひと足先に街を離れるのだった。



***



『いいえ、なんでもありませんよ』


 アルノルドと会話していたルカはスナイパーライフルを背負いながらビルを降りる支度をする。

 相変わらず腹の底が見えず、言葉を濁すアルノルドの様子に、ルカは苦い顔をする。


「そればかりですね、アルノルドさんは……――っ!」


 その時だった。

 背後から凄まじい速度で近づく何かの存在に気付き、ルカは身を捩る。


 顔だ。

 人間の三倍はあり左右非対称な顔がルカの視界の端を横切る。

 首は直径五センチ程度の細さ。しかしそれが十メートル離れた胴体からルカの傍まで伸び、顔の輪郭を大きくはみ出した大口がルカを呑み込まんと開かれていた。


 異形だ。

 ルカは拳銃を取り出すと相手の両目へ弾丸を撃ち込む。


 それは断末魔を上げながら灰となっていく。

 だが襲撃はそれだけでは終わらない。

 ビルの屋上、その出入り口である扉から十名程度の敵と、五体の異形の姿があった。


「間に合いませんでした。迎撃します」


 ルカは拳銃を構え、引き金を引く。

 構成員の一人の頭が撃ち抜かれ、その場に倒れ伏した。


(とはいえ、流石に数が多いか。人はなんとかなるが、問題は異形の方)


『…………ご武運を』


 アルノルドの言葉に返事を返す余裕はない。

 次々と拳銃を向ける構成員を見たルカは塔屋の死角へと飛び込む。


 幸い距離もあったおかげでスナイパーライフルを構え直す余裕はあった。ルカはいつでも拾えるように拳銃を足元に置くと、ライフルを構えて敵を待った。


 数で押し負けるならば向こうから距離を詰めるのを待つ。

 相手とて命は惜しい。加えて拳銃の他にどんな策を隠しているかもわからない。


(となれば、恐らく先に現れるのは――)


 耳をつんざくような奇声を響かせ、ドスドスという足音が聞こえる。

 爬虫類の輪郭を歪ませ、膨らませたような怪物が塔屋の影からルカの前へと至近距離で姿を見せる。


 だがその軌道はルカの想定内――スナイパーライフルの銃口が向けられた先。

 引き金が引かれる。

 それは体の中央を弾けさせながら後方へ倒れ込んだ。


(異形は人より頑丈なものが多い。弾を渋っている場合ではない)


 追い詰められている状況下で尚、ルカは冷静に打開策を考えていた。

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