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Case16-4.『決戦』

『撃破確認。レーナ様とシアさんは』

「無事降りたわ」


 無線から聞こえるルカの声にイザベラは黒煙を突っ切りながら答える。

 後方車両から上がった黒煙は風向きの関係からイザベラの進路をも不明瞭なものとした。


 だが、大きな爆発は敵の注意を引く要因となり、広く道路を包む黒煙はいい目眩しにもなる。

 車から脱出するレーナとシアの存在を隠すにはうってつけだった。


『死ぬかと思ったわ』


 不満げに話すのはレーナだ。

 イザベラは荒い運転を続けながらも意識を無線の音声へ集中させる。


『ご無事なようで何よりです』

『このくらい、先に言ってくれてもいいじゃない』

『レーナ様とシアさんの居場所の秘匿は作戦の要ですよ。一番慎重になるべきです』

「お怪我はありませんか? レーナ様」

『……平気よ。シアが守ってくれているもの』

「よかった。困った事があればすぐに言ってくださいね」

『うん。ありがとうイザベラ』


 イザベラはバックミラーから映る追手の数や、正面から次々と現れる敵の姿を確認する。


「レーナ様がいなくなった事はまだバレていないみたい。もう少し引き付けられそうね」

『お願いします』

「オーケー。やれるとこまでやってみましょうか」


 イザベラに託された役割は敵の誘導兼囮役。

 レーナが敵を撒き、安全を確保するまでの時間稼ぎだ。


 イザベラは車体が限界がまだ先であることを確認しながらアクセルを全開に踏み抜くのだった。




***



「あっれぇ。だぁれもいないや」


 洋館の一階。周辺に設置されていた銃火器は呆気なく壊され、屋内は海志幇の構成員や異形によって占拠されつつあった。


 ズールイの傍に控えていた男は無線で他の仲間と連絡を取る。

 いくつか言葉を吐いた後、彼はズールイへ向き直った。


「ズールイ様。どうやら二、三階ももぬけの殻のようです。そして件の覚醒者の少女が乗っていると思われる車は騒ぎと同時に洋館を離れたと」

「んー、まあ想定内かなぁ。でも、追っかけてるんでしょ?」

「はい。しかしなかなか手こずっているようです」

「たった数人に? ほんと役立たずばっかだなぁ。じゃ、ぼくらもさっさとそっち向かった方が――」

「いいえ」


 ズールイの提案に異を唱える側近。

 彼はズールイの後方へ拳銃を向けると引き金を引く。

 発砲音と共にズールイの頭上から小型の機械が落下する。


「ドローンです。館中に配置されたオートマチックといい、恐らくは遠隔で操作をしている、機器に強い者が絡んでいるはずです。そして、これだけの機器を用いた大掛かりな仕掛けともなれば、必要な機材を別の場所へ移動させる事も不可能でしょう」

「という事は、この館の何処かに隠れてるって事ね」

「可能性は高いかと」

「ならさっさとそいつを潰しておかないと。ドローンでぼくらの動きを全て把握されているのは厄介だからね」


 ズールイは無線機で部下達へ通信を繋ぐ。


「皆んな、片っ端からここをぶっ壊しちゃってよ。逃げた女の子が帰る場所を消しておくんだ」


 それからすぐに至る箇所から発砲音や爆発音が響き渡る。

 耳をつんざくような激しい音の中、ズールイは歪に口角を釣り上げ、大声で笑ったのだった。



***



「さて、始まりましたかね」


 洋館を壊し始めた海志幇陣営の様子をモニターで窺いながらアルノルドは溜息混じりに呟く。

 洋館の隠し扉の先にある、地下へと続く階段。

 その先には有事の際の一時的な避難場所として用意されていたシェルターと、精密機器が揃えられた洋館全体の制御室が控えている。


 普段ならば静寂に包まれている地下空間だが、今は頭上から大きな振動や音が伝わっていた。


「アルノルドです。海志幇の構成員らが館の破壊行動を開始しました。ズールイの姿もあります」

『ルカです。了解しました』

「恐らく後二十分もすれば見つかるでしょう。その後は手筈通りに動きますが……ナビゲーションは最小限にしかできなくなります」

『問題ありません。深追いも無茶も必要ありません。機を見極めたらすぐに離脱してください』

「ふふ」

『……なんですか?』


 淡々としていてぶっきらぼうではあるが、仲間の身を案じるが故の忠告。

 その真意に気付いていたアルノルドはルカの大きな変化を改めて感じて小さく笑みを溢す。


「いいえ」


 だがそんなことを言えば白を切られるか、怪訝そうな反応を返される事だろう。

 司令塔の機嫌を敢えて損ねる必要もない。

 アルノルドは己の心情を伏せ、自分の仕事へ取り掛かる。


「さて、年長者に相応しい働きぶりを見せなければ」


 拳銃を目の前の机に置いた彼の周囲には何台ものドローンが飛行している。

 また彼は最低限の機器を身に付け、入室時に使用した隠し通路とは別の逃げ道を用意しておく。


 壁に擬態されていた出口がいつでも人を呑み込めるとでも言いたげに穴を見せた直後。

 一階から地下へと迫る複数の足音が響く。


 アルノルドは拳銃を取ると逃走経路を背に、入口の扉へとそれを構えた。


 そして入口の扉が蹴破られる。

 姿を見せたのは五名の海志幇の構成員と二体の異形。その後方からも次々と足音がやって来ている。


 絶望的な戦力差。

 しかしそれをひしひしと感じながらもアルノルドは品の良い笑みを崩さなかった。

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