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Case15-5.『納得のいく終わりの為に』

「いや、レーナ様の部屋は流石に」


 睡眠の監視を兼ねて主人の部屋へ連れていかれそうになるルカは慌ててそれを拒絶する。

 しかしレーナは彼の言葉に顔を顰め、納得を示さない。


「でも、ルカは一人にしたら寝なさそうだもの」

「寝ますよ」

「なら私が見張ってたって問題ないはずよ」

「…………ならせめて客室で寝かせてください」


 何としてでも傍から離れようとはしないレーナの押しに負けたルカは彼女に見張られながら眠る事には同意するが、せめて場所だけは変えて欲しいと頼む。

 主人を差し置き、彼女の部屋のベッドなどで眠った事や年端もいかない少女の部屋で寝たことが他の者にバレれば、主にイザベラ辺りが黙っていなさそうだと考えたのだ。


 どす黒いオーラを纏ったような圧の強い微笑み。それを浮かべる彼女を想像しながらルカは顔をこわばらせる。


「わかったわ」


 一方のレーナはルカの心中など何も気付いていないのだろう。

 きょとんとした顔を見せた後あっさりと頷きを返した。




(どういう状況だこれ)


 この館は割かれている人員の割に非常に広い。

 故に空室は多く、その一部を客人の宿泊用として用意している。


 その内の一つ。

 必要最低限の家具が揃えられた部屋のベッドで仰向けになりながらルカはやや困惑していた。


 視界の隅ではルカが眠りにつくのを待っているレーナと、相変わらずぼんやりとしているシアが映っている。


「早く寝なさい」

「逆に寝辛いですよ、これ」

「文句言わないで」


 ルカの口から小さな溜息が漏れる。

 レーナが満足するまでは世話を焼かれているフリを続けたほうがいいだろうと判断したルカはそれ以上異論を唱える事はせず、ゆっくりと目を閉じる。


「眠くなったら寝てくださいよ」

「ルカが寝たら寝る」

「はいはい」

「シアもルカがちゃんと寝るように見張っててね」


 このやりとりを最後に口を閉ざすルカ。

 暫くそのままじっとしていたが、閉ざした視界の先からすぅすぅと寝息が聞こえ始めたところで彼は目を開ける。


「眠いなら素直に部屋で寝てくださいよ」


 寝息は傍でベッドに突っ伏したレーナのものだ。

 文句を言ってはいるものの、これはルカの想定した通りの展開だ。


 ルカは起き上がるとベッドを降り、眠ってしまったレーナを抱き上げる。

 空いたベッドに彼女を寝かせてやり、大きく伸びをした彼はふと視界の隅から視線を感じる。


 シアだ。

 彼はレーナの傍に立ったままルカを真っ直ぐ見つめていた。


「……何ですか。別にレーナ様の気遣いを無碍にしようとしてるわけじゃ――」


 ただ部屋に戻って休むつもりだと、ルカが自身の意志を告げようとした次の瞬間。

 ルカの視界からシアの姿が消える。


「は?」


 突然の事に目を瞬いたのも束の間。

 頸に衝撃を受け、ルカの視界がブレる。


「っ、な…………」


 ぐらりと傾く体。

 床と激突するより先、シアが腕でそれを受け止める。


 体が支えられる感覚を覚えながらルカは無理矢理顔を持ち上げる。

 シアは涼しい顔をしたまま、ルカを見下ろしていた。


「あん、た…………」

(……絶対、理性残ってるだろ…………)


 こんなくだらないところで積極性を出すなと心の中で吐き捨てながらルカは意識を手放したのだった。




「あらあら」


 廊下から客室をこっそりと覗くイザベラ。

 音を立てないように部屋へ足を踏み入れた彼女は、ベッドの傍らに一人立っているシアの隣へ並ぶ。


 瞼を閉じていた彼は途中で目を開く。


「起こしてしまったかしら。全く、貴方もしっかり休めばいいのに」


 立ったまま浅い眠りについていたシアへ言葉を投げ掛けながらもイザベラの注意はベッドの上へ向けられる。

 そこには安らかに眠るレーナとぐったりとしたまま動かないルカが並んで横たわっていた。


「これ、貴方の仕業ね?」


 これ、と指されたのはルカ。

 眠るというよりも気絶している彼の様子が愉快らしく、イザベラは満足そうに口角を上げるとくつくつと笑った。


「こうなってから初めてじゃない? こんな面白い事をしてくれるの」


 イザベラの問いに答える声はない。

 眼帯で晒された片目は静かにレーナとルカを映していた。


「そろそろね、きっと」


 イザベラはふと窓の外を見る。

 強い意志と憂い、そして切なさが孕むような小さな呟きは部屋に反響し、静かに消えていった。



***



 都内某所、高級ホテルのVIPルーム。

 窓際に置かれた一人掛けのソファに深く腰を下ろし、ローテーブルに足を掛けながらズールイは外を見ていた。


 部屋の中は武装をし、上質なスーツに身を包んだ屈強な男と、異形化の進んだ流浪者、そして拘束具をつけられた完全な異形らで埋め尽くされている。


「あっつ苦しいなぁ。折角の広い部屋も、これじゃあ台無しだよ」

「申し訳ありません」


 謝罪したのはズールイの傍で膝をつく男。

 ズールイの側近だ。


「ま、こんな生活もあと少し……でしょ?」


 側近は頷く。

 ズールイはそれを見て歪に笑みを深めた。


「レーナ・ラフォレーゼの居場所を特定しました。あちらは現在非常に手薄。いつでも攻め込めます」

「うんうん、やっぱりすぐ見つかったね。とはいえ、今はもう夜明けだ」


 ズールイはこの場にいる部下達へ聞こえるよう声を出す。


「決行は明日にしよっか」

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