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Case15-3.『納得のいく終わりの為に』

「シアさんの心残りなんですけど、大きく分けると二つの可能性があると思っていて」


 ルカの言葉にレーナは頷きを返す。

 一先ず相手の見解を聞こうという姿勢だろう。その意図を悟ったルカはそのまま話を続けた。


「一つ、海志幇の壊滅。シアさんは海志幇絡みで命を落としています。組織同士の関係に加え、個人的なしがらみや因縁もシアさんは強い。それに加え、ショッピングモールでの抗争で、日頃感情を表に出さないシアさんが冷静さを欠き、衝動に走った点から鑑みても、海志幇が彼の心残りに関係しているのは確かです」

「……そうね。あんなシアは初めて見たわ。流浪者になってからも、なる前も含めて。それで二つ目は?」


 レーナが同意を示して頷く。

 彼女は話の続きを促したが、ルカはやや呆れるように片眉を上げる。


「思い至ってないんですか」

「…………生意気さが戻って来てるわ」

「生意気というのは、遥かに歳上の人間に使う言葉ではありませんよ」


 腹立たしさを滲ませ、ルカの頬を抓ろうと手を伸ばすレーナ。

 それを片手で易々と受け止めたルカは大袈裟に肩を竦めた。


「本当にわかっていない訳ではないでしょう」


 レーナは静かに目を伏せる。

 視界の端に映るシアの気配を感じてか、小さな手が彼の袖を掴んだ。


「わたしの、無事……」


 袖を掴む指先に力が込められる。

 ルカは静かに頷いた。


「可能性としては充分にあり得ると思います。俺の記憶では、シアさんが能動的に動く時はいつだってレーナ様が絡んでいましたから」

「だから、ショッピングモールの事も同じかもしれないって事?」

「はい。事実として海志幇はラフォレーゼファミリーの覚醒者――レーナ様を狙っていますから。彼らの存在がレーナ様にとって危険だと判断した上で動いていたのだとしても不思議ではありません。それに……そっちの方が、都合がいい」


 ルカはぼんやりとしているシアを見ながら呟く。

 そして首を傾けているレーナへ、意地が悪そうな歪な笑みを浮かべた。


「どうせ、うんともすんとも言ってくれないんですから。レーナ様の都合がいい風に捉えた方が得じゃないですか」

「……ん」


 レーナが小さく頷く。

 頬が緩むのを堪えているのか、変に強張ったなんとも言えない表情をしていた。


「でも、シアの心残りをなくしてあげないといけないんでしょ。なら、どっちが本当の気持ちなのかははっきりさせないといけないんじゃないの」

「ところが、そうでもないんですよ」


 大きな瞳が不思議そうに瞬かれる。

 一方のルカは自身ありげな口ぶりで話を続ける。


「シアさんが海志幇の幹部――ズールイに過剰な反応を示したのは、彼や彼が率いる組織がラフォレーゼファミリーにとって脅威的な存在だから。そして今レーナ様の身を狙う存在として最も大きな存在だから。こんなところでしょう」

「……っ! つまり」


 合点がいったらしいレーナの反応にルカは頷きを返す。


「海志幇を壊滅させる事で、シアさんの心残りが消える可能性は高いです」


 レーナがシアの顔を覗き込む。

 相変わらずシアは何の反応も示さないが、レーナは何か思う事があったのか彼の膝をそっと撫でた。


「この館の人間だけで海志幇という組織を完全な消滅まで追い込むのは不可能でしょう。しかし今この国で海志幇の行動の決定権を握るのは間違いなくズールイです。そして彼は海志幇の最も希少で大きな戦力」

「彼を殺せば、海志幇は必然的に力を失う」

「はい。あとは組織の別の人間か他の組織が息の根を止めるでしょう。海志幇という組織は裏社会でもラフォレーゼファミリーに並ぶ強大な存在ですから」

「仮に残党を出したとしても、彼らが私達の組織に楯突くことは二度とないでしょうね」

「……慣れていますね」


 人を、それも自分より年上とはいえ子供を殺す話に平然と乗るレーナの様子にルカは小さく息を漏らす。

 それに、ただ話を聞くだけではなく理解した上で、ルカの意図を汲んだ返答をする。


 やはりレーナは賢い。

 そして裏社会の最大勢力、ラフォレーゼファミリーのボスの娘だ。


「当たり前でしょう」


 レーナは静かに微笑んだ。

 その瞳には冷ややかな温度が点る。

 仲間に対する人情は大きくとも、敵に対する冷徹さは彼女がボスの娘として生きる為に必要なものだったのだろう。


 人の命が軽い世界。

 この世界では隙を見せた者から死んでいく。

 自分の命を狙う者達の死にまで心を痛める余裕はない。


 ルカはそっと目を伏せた。


「……でも、いくら海志幇の本拠地が中国にあると言っても、ズールイを取り巻く構成員は数えきれないくらいいるわ」

「そうですね。ある程度はシアさんの異能で対処できるでしょうが、それでも流石にズールイの周りを固める人員全てを正面から相手取るのは不可能です」

「『は』という事は、何かあてがあるのね」

「俺が館に送られたのはここが優れているからですよ。こんな事も考えられないようじゃ立つ瀬がないです」


 ルカは自身のこめかみを人差し指で小突く。


「俺達から攻め込めば蜂の巣になるのも必然でしょう。だから……」


 黄緑の瞳が怪しく光る。

 ルカは美しい顔を歪め、底意地の悪そうな笑みを提げた。


「向こうから戦力を分散してもらうんです」

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