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Case15-1.『納得のいく終わりの為に』

「貴方、もう少し動き方を考えた方がいいわ」


 そう言ったのはイザベラだ。

 彼女はルカが目を覚まして少し経った頃に医務室へ姿を見せた。

 その傍には鍋を乗せたワゴンと、鍋のスープを器に装うアルノルドの姿がある。


「このままだと、無茶をさせられなくなるわ」

「すみません」


 会話の傍、アルノルドはスープの入った器をルカへと差し出す。

 礼を述べながらそれを受けとったルカは器の中を見て安堵の息を小さく吐く。


 見た目や匂いに異常はない。

 恐らくは、イザベラではなくアルノルドが作ってくれたものなのだろう。


「レーナ様が落ち着いたのも、無事に連れ戻してくれたのも良かったけれど。抗争でもない、こんなところで死なれるなんてたまったものじゃないのだから」

「……次から気を付けます」

「まあ、ルカさんのような方はすぐに直すというのは非常に困難だとは思いますが」

「……そこは肩を持ってくれるところでは?」


 イザベラにもスープを配るアルノルドの何気ない言葉にルカは肩を竦めた。


「それにしても、ぐっすりですね」


 ふと、ルカの意識はレーナへと向かう。

 イザベラやアルノルドが現れてからそれなりに会話を続けていても尚、レーナはルカの傍で突っ伏したまま寝息を立てていた。


「色々あって疲れたのでしょう。……沢山泣かされたようだしね?」


 意味深長な笑みを向けるイザベラからルカは顔を逸らす。

 彼女が仄めかしているのはルカが意識を失った際に取り乱していたレーナの事だ。

 三回どころでもなく、嬉し涙でもない。それについてイザベラが物申したげにしているという心理に気付いたからこそ、ルカは肩身の狭い思いを覚えた。


「そろそろお部屋に連れて行ってあげましょうか」

「……すみません。もう少しだけ待っていただけませんか」


 レーナを移動させようと、シアへ目配せをしたイザベラ。

 彼女へルカは待ったを掛けた。


「レーナ様と話しておきたいことが、まだあります」


 ルカの視線の先にはシアがいる。

 彼は真剣な面持ちをしていた。


「……そう」

「では私達は離席しましょうか」

「ええ。キリがついたら呼んで頂戴」

「ありがとうございます」


 気を利かせたイザベラとアルノルドがそれぞれ部屋を離れようとする。

 二人の背を見送りながらルカは声を掛ける。


「それと……後程、今後の方針についてお話が」


 廊下へ出た二人が振り返る。

 アルノルドは静かに眉を下げ、イザベラが深々と溜息を吐く。

 何故そんな顔をするのかとルカが怪訝そうに眉を顰めれば、呆れたような溜息と共にイザベラが口を開いた。


「それ、貴方の休息よりも急がないといけないこと?」


 ルカは数度瞬きを繰り返す。

 そしてあっさりと頷きを返した。


「そうですね」

「……では致し方ありませんね」

「ただでさえ人手不足なのに、過労で更に一人減りそうだわ」


 イザベラとアルノルドはどのようにしてルカへ休息を与えるべきかと意見交換をしながらその場を去る。

 呆れられている当の本人は閉まる扉を眺めながら腑に落ちない様子で首を傾けた。


(……いや、本当に急を要する案件なのだが)


 すっかり無茶をする印象がついてしまったルカは何故そのような事になってしまったのか、あまり自覚できていなかった。

 休みを取ろうとしていない訳ではないと心の中で呟き、溜息を零した。


 その時だ。

 すやすやと寝息を立てていたレーナが身動ぎをする。


 ルカはそれに気付くと、彼女の様子を静かに見守る。

 小さな呻き声と共に、レーナに両目が開かれる。


「ん……」

「レーナ様」


 寝ぼけ眼で瞼を擦るレーナ。

 彼女は頭上から聞こえる優しい声に反応して顔を上げる。

 ぼんやりとルカの顔を見上げた彼女はやがて、双眸を見開くと飛び上がった。


「っ、る、ルカ……!」

「はい。おはようございます」

「傷は……? 気分は悪くない?」

「問題ありません。お騒がせしました」


 レーナはルカへ顔を近づけ、詰め寄る。

 自身の問いにルカが応えても尚、信用できないというように疑る視線を彼女は向けていた。


「問題ない人は突然顔を青くして倒れたりしないわ」

「……丁寧に手当てしていただきましたから」

「信じないわ。ルカは嘘吐きだもの」

「すみません」


 素直に言葉を返せないレーナはあっさりと非を認めるルカの姿を見て、バツが悪そうに視線を逸らす。

 暫くは沈黙が続いた。

 先にその空気に耐え切れなくなったのはレーナだった。


 彼女は逸らしていた視線を静かにルカへと戻す。

 目の隅で彼の顔を伺えば、黄緑色の目と視線が交わる。


 何か言うべきかとレーナは躊躇う。

 そんな彼女が気まずさを感じないようにとルカは静かに微笑みを見せた。


 どこか弱々しい微笑。不器用な笑みだった。

 レーナは初めて巧妙に作られた以外の彼の笑みを見た。

 大きな安堵と胸の奥に広がる温もりに包まれ、レーナの体から緊張が抜けていく。


「スープはいりますか?」

「……シアに入れてもらう」


 気を遣い、ベッドの上から動こうとしたルカを制するようにレーナは首を横に振る。

 内心絆されながらも、視線は鋭く尖らせて自分を顧みないルカを責めるような空気を作る。

 咎める意図に気付いたルカは困ったようにその場に留まった。


 シアはレーナに招かれ、残されたワゴンの上、新しい器にスープを装った。

 それを受け取り、数口飲んでからレーナは息を吐く。


 そんな彼女と、その傍に控えるシアを交互に見ていたルカはやがて口を開く。


「レーナ様。少し、話し合いをさせて頂けませんか」


 言葉の続きを促すような視線だけが返される。

 ルカはすぐに続けた。


「……シアさんの今後について」

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