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Case2-1.『館の案内』

 車を変え、回り道をした上で辿り着いた先は東京都内の某所にある洋館。

 敷地の手前に手停車が確認されると正面で構えられていた立派な正門が自動で開く。

 それを通過した車は広々とした庭の真ん中に設置されたロータリーで再び動きを止める。


「私は車を置いてから向かいます」

「お疲れ様です」


 ロータリーで降車したルカ、レーナ、シアの三人へ、アルノルドが車内から声を掛ける。

 降ろされた荷物を抱えるルカはその声に頭を下げた。


 アルノルドのお辞儀を最後に遠ざかっていく車。

 それを三人が見送っていると、背後から数名の人影が姿を現す。


「おかえりなさいませ。レーナ様、シアさん。そして……」


 使用人服に身を包んだ数名とスーツを着こなす青年が一人。そしてその先頭にはメイド服に身を包んだ一人の女性が立っていた。

 ルカが事前に受け取っていた書類には彼女達に関する情報も記載されており、それら全ては既にインプットが済んでいる。

 中でも着目すべき人物は二人。ルカは正面に立つメイドを見据えた。

 一人目。イザベラ・ベルティ。表面上はメイドとして振る舞っている女性だ。


「初めまして、ルカさん」


 長い黒髪を二つに分けて編み込んだイザベラは、丸く大きな眼鏡の奥にある茶色の瞳を細めた。

 ルカへと向けた柔らかな声音と穏やかな微笑みは相手の緊張を解す手段としては最適解であると言えるだろう。

 しかし同業者且つ、相手の情報を事前に得ているルカにとってはその完璧な振る舞いこそが警戒の対象になり得る。

 イザベラは護衛と諜報の能力を評価され、敏腕と称えられる女性だ。日頃浮かべる優し気な表情とは裏腹に、その性質は冷酷であり、任務の邪魔となるものは何であったとしても躊躇なく切り捨てると言われている。


「初めまして、イザベラさん」


 ルカは彼女の挨拶を真似するように作り笑いを浮かべる。それが示す意図は『取り繕っていることはわかっているぞ』。

 イザベラは何度か瞬きをした後に笑みを深めた。どこか不敵さの滲む妖しい表情は、彼女の本心の一端だろう。

 その顔の正体は怒りを滲ませたものではなく、ある種の称賛を表したものである。

 腹の底を見せない微笑で、且つ視覚情報のみに流されず対応したルカの冷静さと聡明さを評価した故での種明かし。

 イザベラはこの一瞬でルカのことを評価するに値する者として認めたらしい。


「長旅ご苦労様。エミリオさん、彼のお荷物を持って差し上げて」

「はい!」


 当初見せていた笑顔を貼り付けて、イザベラがスーツの男へと指示を出す。

 それに返事をしながら男はルカの前へと出た。


「ルカくん初めまして! ボクはエミリオ。よろしく!」

「よろしくお願いします。……あ。ありがとうございます」


 エミリオ・モンターレ。戦闘面に於いては聊か心許ないものの、情報収集の面に於いては頭一つずば抜けている青年。

 赤髪が特徴的な青年は明るく挨拶をするとルカのキャリーケースを右手で受け取った。


「そのケースは自分で持つ?」


 エミリオが左手でルカの楽器ケースを示す。

 キャリーケースとは違い、受け取る前に敢えて確認を入れる。その中身が何であるかを推察してのことだろう。


「はい」

「りょーかい、了解」


 武器を不必要に手放すことは好ましくない。ルカは短く返答をした。

 予想通りの返答だったからか、その反応について特に気にした様子もなくエミリオはあっさりと頷いた。

 ルカとエミリオが荷物の受け渡しを終えた直後、だんまりを決め込んでいたレーナがその脇を通り過ぎる。

 その手にしっかりと掴まれたシアもまた、腕を引いて歩く相手へ続くように先へ進む。


「ああっ、レーナ様! まーたそうやって一人で動こうとする!」


 二人が向かうのは館の玄関だ。レーナ達と、それを慌てて追いかける複数の使用人達へ視線を向けながらエミリオは咎めるような口調でレーナを呼び止める。

 しかしその声に従う素振りは見られず。レーナは追いついた使用人へ扉を開けさせるとシアを連れて屋内へと姿を消した。


 扉の奥へ姿を消す直前、レーナはルカを一瞥したが、その瞳は相変わらず警戒心に満ちていた。


(やっぱり嫌われてるよなぁ)


 レーナの警戒心を解す算段が立たず、ルカは小さく息を吐く。

 傍に立っていたエミリオはさっさと姿を消したレーナに対し困ったように眉を下げて頭を掻く。


「今日は一段とご機嫌斜めなようだから。そっとしておいてあげましょう」


 イザベラの声に耳を傾けるルカは同時に、空港でのアルノルドの言葉を思い出していた。レーナの虫の居所が悪い理由を聞いていたルカは自分の異動が彼女の気を悪くさせているらしいことを再認識する。


「さて、私達も入りましょう。エミリオさんはルカさんに館の案内をしてあげて」

「はい! 行こうか、ルカくん」

「はい」


 ルカはエミリオに促されてその場を後にする。

 遅れて館へ向かうつもりらしいイザベラは二人へと愛想の良い笑顔で会釈をしてそれを見送った。

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