表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/90

Case11-8.『残虐な少年』

「案外しぶといわね」


 騒ぎが大きくなりすぎ、前方の車両はそのどれもが車道の端へ寄って停車しながら息を潜めている。

 それ故に後方の車から構えられる武器の射線を遮るものがなかった。

 どれだけ運転技術に長けていようと、直線的な道で後方からの銃弾を避けるのには限度がある。


 ミラーに映る追手を睨み、イザベラは舌打ちをする。

 その時、後部座席の扉が勢いよく開け放たれた。


 ルカは車外へと身を乗り出し、アサルトライフルを構える。


「ちょ……っ、ルカくん!」

「一台くらいならどうとでもなるでしょう」

「ほんとに死ぬよ!」

「その前に仕留めます」


 傷口の処置もおざなりに臨戦態勢を取るルカを止めようと、エミリオが後部座席内を移動する。

 しかしレーナと場所を入れ替わったエミリオの気配を感じながらもルカは攻撃の姿勢を止めはせず、そのまま引き金を引いた。


 放った銃弾が次々と敵の車体へぶつかる。中でも彼は自分と同じように身を乗り出す後部座席の敵へと狙いを定めた。

 だがルカの攻撃と同時、銃を構えていた追手の一人がその照準をルカへと変える。


「シアさん」


 ルカは怯む姿を一切見せず、銃を撃ち続ける。

 互いに身を隠す事のない交戦が繰り広げられる中、ルカを狙って放たれた弾丸が彼の眼前へ迫った。

 だが次の瞬間、助手席の窓を突き破った植物がルカの頭上を通過する。


 茶色の蔦はルカの視界を遮ると、彼へ迫っていた銃弾を須らく叩き落とした。

 あらぬ所へ散った銃弾はアスファルトを削るに留まる。

 銃弾を弾いた蔦は更に身を乗り出している敵へと伸ばされる。その先端が相手の銃に絡み付き、意図も容易くそれを圧し折る。


 攻撃手段を失い、狼狽える敵の隙をルカは見落とさない。

 連射型の銃の引き金を強く引いたまま、たった一人へ向かって十何発という鉛玉をお見舞いする。

 一般人の身体能力では真っ直ぐ迫る銃弾の速度に反応できるはずもなく、敵の体には次々と穴が空いた。


 息絶えた男の体が傾き、道路へと落ちる。

 死体はボールのように何度もアスファルトの上で跳ね、後方へと転がって姿を消す。

 後部座席に乗っていた別の男が仲間を一人失った事に気付き、仲間の穴を埋めようと座席内を移動して身を乗り出すも、銃を構えるまでに僅かなタイムロスが発生する。

 それこそが追手の車を直接叩く好機だった。


 ルカは後方を走る車の前輪へ狙いを定める。

 残弾数が残り僅かである事を悟っている彼は残された弾が命中するようにと慎重に照準を合わせ、引き金を引く。

 だがその時、何かを踏んだらしい車が大きく揺れる。


「ぐ……っ」


 車の大きな振動はルカの傷口に響き、激痛を伴った。

 手元が狂い、弾の軌道が逸れる。銃弾はタイヤを捉える事無くアスファルトにぶつかった。

 更に不運な事に、何発か連射した直後にアサルトライフルは動きを止めた。


(弾切れ……っ!)


 即座にリロードを試みるも、ルカが装填を完了させるよりも敵の体勢が整う方が早い事は明らかだ。

 遠くからはパトカーのサイレンが鳴り始めている。警察の目に留まる前に戦闘を収束させ、逃亡したい身としてはこの好機を逃したのは痛かった。


(落ち着け、相手の弾はシアさんが対処してくれる。もう一人殺した後にもう一度前輪を狙えば――)


 舌打ちをしつつ弾を入れ替えるルカであったが、不意に彼の腕を掴んで車内へと引き寄せる存在があった。

 エミリオはルカを車内へ押し込み、車外へ身を乗り出す。そして自身が所持していた拳銃を取り出すとそれを追手の車へ向けて発砲した。

 二発、三発と繰り返される発砲音の感覚は連射型のライフルに比べて遅い。安定しない姿勢、片手しか使えない状況に於いて、エミリオの射撃の精度は決して高くはなかった。それ故に、撃ち込まれた三発はアスファルトや車体の急所ともなり得ないような箇所を掠める程度であった。

 だが四度目に引き金が引かれた時、放たれた弾丸が車の前輪に呑み込まれる。


「おおっ、ラッキー!」


 ハンドルの操縦が思うようにいかなくなった車は右へ左へと向きを変える。

 突然車内へ押し込まれたルカは勢いに負けて座り込んだまま目を白黒とさせる。

 一方のエミリオは殺伐とした場にそぐわない明るい声を上げて笑うと、無邪気に口角を上げた。


 ふと、エミリオの右手から滑り落ちた拳銃が車内へ滑り込む。

 エミリオは驚いたように目を瞬いた後、右手を車内へと伸ばした。

 だが彼の手が向かったは拳銃ではなくルカの頭だった。

 茶色い髪へその掌がほんの一瞬だけ触れた直後、彼はその手を口元へ運ぶ。


 刹那、息を吐いた彼の全身の輪郭が溶けた。

 濃霧が外へ漂い、ルカ達の乗った車と追手の車を包み込む。

 フロントガラスの一寸先すら何も見えない程に深い霧に呑まれて数秒経った頃。後方で何かが激しく衝突する音が響く。

 残っていた一台が機能しなくなった音だという事は車内の誰もが察していた。


「……十秒後、左に曲がってください」

「了解」


 現在地から協力者が待つ目的地までの最短距離を割り出し、前方が見えずとも車の走行速度から左折の機会を適切に割り出す。

 漸く去った危機に深く息を吐き、ルカは後部座席に深く腰を下ろす。


(まずいな。瞼が酷く重い)


 強烈な眠気を悟ったルカは意識があるうちにと合流地点までの道筋を早口で捲し立てる。

 何とか目的地の共有を済ませた所で霧が晴れ、エミリオが後部座席に姿を現した。


(考えないといけない事は山ほどある……けど)


 上手く頭が回らず、瞼が落ちていく。

 己の名を呼び、慌てて近づいたエミリオを視界の端に捉えながらルカは小さく呟いた。


「……すみません、少し……休みます…………」


 睡魔に抗えず、結局ルカは思考を止める。

 レーナやエミリオの声を遠くに感じながら彼は深い眠りに落ちていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ