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Case11-4.『残虐な少年』

(異能自体は確かに厄介だ。だが、あれの言動を見る限り精神も知能も年相応。あまりにお粗末だ。そこを上手く衝く事が出来れば正気はあるか。もしくはこちらの思惑を相手が知り得てから行動する間を与えない方法。頭で何かを悟ったとして、それが行動に移せなければ意味はない。人の範疇を越えた身体能力を持つシアさんなら可能かもしれない。それに、どんな異能であれ無制約である事は考え辛い。異能を使う事の出来る範囲や読み取れる思考の精度何かを把握できればより適切な対処法を考えつくかも――)


「お前……っ!」


 ルカの脳内を膨大な情報が行き交う。

 高速で組み立てられていく論理。声よりも早く構築されていく言語の集合は彼が彼の頭の中を埋め尽くしていた。


「ああ、すみません。視えるんでしたね」


 そう言葉を発する間もルカの思考は止まらない。

 彼は同時にいくつもの事を考えながらも、その苦労を顔に出すことなく淡々と話している。


「見下されたのが癪に障りました? ああ、それとも――」


 薄い唇が不敵につり上がる。

 緑の瞳が動揺を見せたズールイを鋭く射抜いている。


「――案外、的を得てたとか」

「っ、撃て! あいつを殺せ!」


 ズールイの怒り混じりの叫びを合図に、再び銃声がフロア中を満たす。

 それと同時にルカの周囲を霧が包み込んだ。


「こっち!」


 背中が押され、ルカはその力に従うように物陰へ転がり込む。

 また、同じ場所に身を隠したエミリオは半身を失ったまま肩で息をしながら呆れたようにルカを見ていた。


「挑発してどうすんのさ!」

「思った事を言っても言わなくてもどうせ結果は同じだったでしょ、ああいう能力なんだから」

「全く!」


 エミリオは自身と分離していた霧を再び吸収する。

 欠けていた体を取り戻した彼は物陰からズールイのいる方向を覗く。

 ズールイの傍では膝をついていたシアがガラス片を乱暴に抜き取り、放り棄てていた。

 彼の体に空いた穴は植物の蔦によって塞がれ、修復していく。


 流浪者は既に死した者。人であったならば致命傷となったであろう傷も修復させる事ができる。

 勿論この人ならざる体の働きも異形と化す要因ともなり得るが。


「……まさかきみがここまで執着を見せるなんてね」


 シアが武器を振るう。だがそれを阻むように周囲の異形が一斉に彼へと襲い掛かった。

 ガラス片が無数に放たれ、巨大な頭が骨ごと体を噛みちぎろうと大口を開ける。

 自身へ迫る攻撃を次々と顔から生み出される蔦で弾き、往なし、異形の頭を次々と貫いていく。


「全てにおいて無関心――流浪者からは程遠い在り方をしていたきみがまさか、ここまで自分の生とぼくの死に固執するなんて! 本当に滑稽だな!」


 個々の能力の威力はシアと同等かそれ以上。加えて数の差は圧倒的だった。

 不利な状況で無謀にも武器を振るい、ただ因縁の相手の命を狩る事にのみ執着するシアの姿にズールイは声高く笑う。

 しかし余裕綽々な彼の笑いも長くは続かなかった。


 ゆっくりとした歩みで彼の下へ集った異形のうち数体が、突如としてズールイへと牙を剥く。

 その攻撃は生き残っていた付き人が自身の命と引き換えに盾になり、更に周囲の味方による発砲によって届く事はなかったが、命を狙われた本人は心底不愉快そうに舌打ちをした。


「ほんっと馬鹿の手綱を握るのって面倒だよね。だから知能は残っててほしいんだよ。どちらが上でどちらが下か、わからないと従えないから」


 頭を撃たれ、胸を撃たれ、蜂の巣の如く無数の穴を空けられた異形が悲鳴を上げながら消えていく。

 体の輪郭が不鮮明になり、歪み、指先から灰となって崩れ落ちていく。


「歯向かっても勝ち目ないって事、なんでわかんないかなぁ。あー、腹立つ」


 ズールイは床へ散らばった灰を踏みしめた。

 使える駒は使い潰し、使えない駒は躊躇なく切り捨てる。ただの子供が持たぬその冷酷さは、ズールイが裏社会に通ずる組織に属しているからこそ持ち合わせたものであった。


 彼は灰からシアへと視線を移す。

 シアは多勢の妨害によってズールイへ攻め入る隙を作り出せずにいた。

 迫る攻撃に対応する事で手一杯な様子の彼が自分へ手を伸ばす事が出来るのはもう少し先だろうと踏んだズールイは、ルカやエミリオを探す。


 既に身を隠した敵を追い詰める為に海志幇の構成員がルカ達へと距離を詰めている。


「見つけたら全員殺しちゃっていいよ。……ああでも赤髪の方はいいや。ただの死にぞこないだから。茶髪と女の方を優先して」

「ほんっと、やーな言い方」

「……エミリオさん」


 エミリオが苦々しく笑う。

 ズールイの言葉やエミリオの反応が気に掛ったルカはエミリオの名を呼んだがすぐに思い直す。

 敵はルカ達の明確な居場所を悟っていないものの、着々とその距離を詰めている。見つかるまでの猶予はなかった。

 何か策を講じなければとルカは考えを巡らせる。


『着いたわ』


 その時、装着していた通信機からイザベラの声が発せられる。

 駐車場からショッピングモールの建物までは車を走らせればあっという間に辿り着く距離だ。

 合流先さえ提示し、ルカ達がそこへ辿り着く事さえできれば逃げ切れる可能性も上がる。


『正直、遠回りしている余裕はあまりないかも。外は異形だらけよ。それにそろそろ警察が着いてもおかしくない』

「了解」


(時間はない。俺達が海志幇の連中を撒ける可能性も低い。時間を掛けず、尚且つスムーズに合流できる地点を指定しなければ……)


 ルカはショッピングモールの構造を思い返し、いくつもの逃走ルートを頭の中で展開する。その中でも最適解を求めようとした彼はしかし、途中でその思考を止めた。

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