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Case11-2.『残虐な少年』

 互いの死角を補うように背を合わせるルカ達へ銃弾の雨が降る。


 しかしそれが誰かの体を貫くよりも先、シアの枝が襲いかかる銃弾全てを弾き返した。


(生存者は既に残っていないか。多少乱暴に動いても部外者に被害が拡大する可能性は低い)


 周囲には銃を構える者が散らばっている。

 一階の物陰だけではなく、吹き抜けの二階や三階の柵付近にも襲撃者の影があった。数は二、三十といったところだろう。


(敵の数が分からない以上真っ向から迎え撃つのは得策ではない。可能であればイザベラさんが戻るまでどこかで息を潜めていたいところだが――)


 シアの能力も万能ではない。衝撃を受け続ければ枝は脆くなるし、枝の隙間を練った銃弾がルカ達の下へ辿り着く可能性も大いにある。その場に留まる事はあまりに危険であった。

 先にイザベラの逃走を手助けした後、ルカ達自身も撤退する事が今の状況下では必須と言える。


 止まない発砲音が響く中、イザベラがルカへ目配せをする。

 動き出す合図。それにルカが頷きを返そうとしたその時だった。

 鼓膜を突き破るような煩わしさに包まれていた空間が突如として静まり返る。


 そして無数の銃声と入れ替わるようにフロア内を響かせるのは一つの足音とやけにゆったりとした拍手。

 シアが作った防壁の裏からルカ達は音のする方へ視線を向ける。


 低い背丈とあどけない顔立ち。血と肉塊の海と化した廊下を堂々と進むのは後ろに数名の大人を付き従えた少年であった。

 その面影に既視感を覚えたルカは、目の前の少年こそが先程ショッピングモールですれ違った者の正体であると気が付いたが、今となってはその気付きも有用な情報足り得ない。


「いやぁ、素晴らしい、素晴らしいね。やっぱり何事も派手にいかないと面白みに欠けてしまうからね」


 艶のある黒髪が彼の歩み似合わせて僅かに揺れる。

 元は愛らしい作りだったのだろう顔の半分は痛々しい火傷によって歪められていた。


(あれが海志幇の覚醒者、フォン・ズールイ……)


 銃器を抱える大人達を挙って制するだけの権力を持つ少年。そしてエミリオやイザベラが予想通りだと苦い顔をしている点からルカは相手の正体を容易に見破った。


「演出がしょぼいハリウッド映画なんて存在しないだろ? ぼく達が作るショーもそのくらいの華々しさは持ってくれないと――」


 大仰に両手を広げて語るズールイ。

 しかしその声は目にも留まらぬ速さで放たれた植物によって遮られる。

 ズールイが話し終えるよりも先、シアは先の尖った蔦でズールイの小さな体を貫こうとした。


 肉が抉られる音。飛び散る鮮血。


「ちょっと、まだぼくが話してるでしょ」


 獲物を捕らえた植物が血に塗れるも、ズールイは声色一つ変えなかった。

 植物が捉えたのは別の人物。ズールイは後ろについてた大人の腕を弾いて自身の前に立たせるとそれを盾にして身を守った。

 何が起きたのか理解が追い付かないままに崩れ落ちる男。だがズールイは足元に転がる死体に一切の興味を示さなかった。


 狙いを外したシアは今度は至近距離からの攻撃を試みる。蔦の一部が斬り落とされ、当てを傷つける為の刃として彼の手中に収まる。

 ズールイの下へと駆け出したシアへ、周囲の敵が一斉に発砲する。


 怯むことなく最短距離を走るシアの体を数発の銃弾が掠める。

 だが幸いにも彼の足を止める程の傷は与えられない。


 そして一方のイザベラは周囲の敵の注意がシアへ向けられた事を悟り、彼の進路とは真逆の方面へと床を蹴り上げた。


「あっ! 逃げた!」


 イザベラが外へ向かって走り出して数秒後、彼女の撤退に遅れて気付いたズールイが声を上げるも、彼がそれ以上の言葉を紡ぐよりも先にルカが動く。

 ルカは素早く拳銃をズールイへ向けるとその引き金を引いた。


「馬鹿正直に目の前だけ見てろ」


 放たれた鉛玉の照準は性格だった。

 だがまたもやズールイの付き人の一人が迫る攻撃の軌道に立つ。


 銃弾が腹部に命中し、呻きながら膝をつく付き人。

 イザベラの逃走やルカの攻撃の間も距離を詰めていたシアはその付き人の立ち位置を利用してズールイの死角から飛び出す。


 間近から突き出された刃にズールイは目を見開く。

 だが完全に不意を衝いたかと思われた攻撃がズールイへ届こうとしたその時、鈍い音と共にシアが動きを止めた。


 遅れて彼の口から多量の血が零れる。

 シアは自分の腹部へと視線を落とした。


 透き通ったガラス片が腹を貫いている。

 大人の胴体程の巨大さを誇るそれはシアの背中から腹にかけて突き刺さっていた。

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