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Case10-3『ショッピング』

 一行は数時間という時間を買い物だけに費やした。

 服屋を何件も周り、目についた子供服を次々とレーナへ試着させては大喜びをするイザベラ。満更でもない様子でイザベラに乗せられ、次々と服を買い込むレーナ。

 気が付けば彼女達が選んだ服を山のように持たされたまま無言で立ち尽くすシアの荷物を少しずつ手伝いながらルカとエミリオは買い物の様子を遠目に見守っていた。


「よくもまあ、飽きないものですね」

「ねぇ。楽しそうで何よりだよ」


 服に満足したかと思えば次は靴屋へ、そしてその次はアクセサリーショップへ。

 更にいくつもの店舗を回り、シアだけではなくルカやエミリオの手すら埋まった所で漸くレーナとイザベラは満足したらしかった。

 一度駐車場へ戻り、車のトランクに荷物を詰め込んだ後はゲームセンターへ立ち寄り、レーナの欲しがる景品をルカとエミリオが根こそぎ搔っ攫っていく。

 途中、一つ断りを入れて離脱したイザベラがゲームセンターの一角に設置された音楽ゲームに興じ、脅威のゲーム捌きで恐ろしい数字を叩き出す様を他の四人は目撃したが、他人のふりを装ってその場を静かに離れた。

 エアホッケーやカーレース、太鼓を用いたリズムゲームなど、日頃あまりゲームに触れないレーナの興味を引く物を次々と回っていく。

 対戦物のゲームに付き合う時、ルカはわざとらしくならない程度に忖度してレーナを勝利へ誘導しつつ、ゲームが得意らしいエミリオが相手の時は容赦なく対戦相手を叩き伏せた。

 大袈裟に悲鳴を上げるエミリオの反応にレーナは暫く笑い続けていた。


 やがてゲームに満足した四人がイザベラと合流を果たした所で、エミリオが休憩を提案する。

 ゲームの景品である緩い顔をした動物のぬいぐるみを抱えながら、昼食を食べ損ねていた五人は食事と間食を兼ねてカフェへ足を踏み入れる。

 ケーキやお茶の種類が豊富なカフェはレーナの希望に沿って選ばれた店だった。


 一階に位置するカフェで遅めの昼食を取り、皿が空いた頃にケーキを選ぶ。

 自分とシアのケーキを選んだレーナはルカを見た。


「ルカは何にするの」

「俺は別に何でも……」

「ルカくん、ルカくん」


 食に拘りを持たないルカへ、隣に座っていたエミリオが耳打ちをする。

 彼はメニュー表で横顔を隠しながら囁いた。


「レーナ様はね、多分ケーキが食べたいだけじゃないんだよ」

「はぁ……」

「人の好みを知るのも、何を食べるのか一緒に選ぶのも、楽しみの一つになり得るって事だよ。キミは特に顔に出る感情の変化が乏しいから、こういうのを口実に少しでもキミの事を知りたいんだと思うよ」

「……そういうものですか」

「そういうものだよ」


 確かに、自身が望めばすぐにでもケーキを与えられる環境に置かれておきながらもレーナはルカとケーキを買いに行く事に対して期待のようなものを見せていた。

 その理由に好物を食べる以外のもの事が含まれていたのだとすればルカとしても納得出来る。


「俺はこれで」


 ルカはメニューに載っているショートケーキの写真を指す。

 ケーキと言われて真っ先に思い浮かびそうな王道。王道と呼ばれるものにはそれだけ多くの人間に好まれてきたという歴史があり、それ故に選んだ理由を探られてもこじつけやすかった。ルカは自身がケーキ選びに興味がない事を隠すのにも都合が良いと判断したのだ。


「ふふ、随分可愛いものを食べるのね」

「ケーキを選ぶ時点でどれを選んでもそうなるのは避けられないでしょう」

「良いでしょ別に! 男だって甘いもの食べたくなる時くらいあるんですよ! あ、ボクはフルーツタルトで」


 イザベラが意味深な笑みを浮かべる。

 その視線に若干の気まずさを感じたルカは逃れるようにルカが顔を背ける。

 ルカがケーキに大して興味がない事やレーナに合わせている事くらいは悟っているだろうにも関わらず、敢えて揶揄うような事を言うイザベラを、ルカは性格が悪いと評した。


「レーナ様は何にするんでしたっけ」

「シアは期間限定の奴で、私は……チーズケーキにする」

「あら、珍しい。甘い物じゃなくていいんですか?」

「シアと分けるからいい」

「またそうやってシアくんのもの横取りしてー! 今の体型が許されるのも子供の内だけですからね。最近だって歳を取ると痩せにくくなるってイザベラさんが――あだだだだっ、痛い痛い!」


 エミリオの言葉が最後まで告げられる事はなかった。

 イザベラが言葉を遮るように片手を伸ばし、エミリオの顔へ掴みかかった。

 凍り付いた笑みを浮かべる彼女の手からは見た目からは考えられない程の負荷が掛かり、エミリオが悲痛な叫びをあげた。

 だがそれもレーナにとっては見慣れた光景で、彼女はため息を一つ吐くと備えられていたベルを鳴らした。


 大の大人が醜く争っている様を横目に、ルカは全員分の注文を店員へ伝えた。

 やがてコーヒーや紅茶と共に彩り豊かなケーキたちがテーブルへ並べられた。

 それぞれが自分の注文したケーキを口に運びながら他愛もない話を交え、穏やかな時間を過ごす。


(……甘い)


 ショートケーキを口に含んだルカはしつこく舌に纏わりつく甘さに対し、当たり前の感想を抱く。

 食べられなくはないが、進んで食べたいとは思わないような味。生クリームの脂っぽさとラムネとはまた異なった質の甘さはルカにとって少々煩わしかった。

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