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Case8-4.『海志幇』

「能力についても大まかにではありますが聞いています」

「充分です。それ以上語れることもありませんから」

「最近の海志幇の無茶の仕方はその覚醒者のせいじゃないかって話もあるんだ。大きな権力を手にした子供が、それに甘えて規模の大きなお遊びでもしてる感覚なのかもね」

「はた迷惑な話ですね」

「全くだよ。……ま、何はともあれ気を付けた方がいい。子供とは言え彼の能力も非常に強力だからね」


 ルカは海志幇の覚醒者に関する情報を思い出す。

 現時点で対策という対策が敷かれていない能力。手の施しようがない、万能に近い能力とである。


(遭遇したら厄介だろうな。実際に見て見ない事には何とも言えないが)


 押し黙ったルカは海志幇、そしてレーナとは別の覚醒者について考える。

 アルノルドは食器を乗せたトレイを棚に置き直し、エミリオは集められたマグカップをぼんやりと眺めている。

 誰もが口を閉ざしていた時。廊下から走る足音が聞こえた。

 それが談話室に辿り着いた次の瞬間、扉が大きく開け放たれる。


 開いた扉からレーナが部屋へ転がり込む。

 そして息を乱したままソファに座っている面々を順に見回し、ルカ、シア、エミリオの姿を視認たところで険しい顔から力を抜いた。


「……怪我は?」

「ボクとシアくんは全然」

「俺も別に」

「せめてその腕手当してから言ってあげたら?」


 大した怪我ではないからと手当を後回しにしていた傷をエミリオが指さす。

 その指摘によってルカの負傷に気付いたレーナは顔を顰めた。


「イザベラ」

「はい」


 レーナの傍についていたのだろう。主人の後を追うようにして静かに談話室へ入室していたイザベラは名を呼ばれただけで何を求められているのかを悟り、持っていた救急箱を開け始める。


「……全く。お話合いくらい手当しながら済ませればいいのに。ねぇ、レーナ様」

「アルノルドさんはしてくれようとしてたよ。ルカくんがそれよりも先に報告をって譲らなかっただけで」

「これだから仕事しか脳がない男共は嫌なのよ」


 イザベラに促され、ルカは傷口を見せる。

 文句を次々と零される反面、施される手当の手際は非常に良かった。


「痛くないの?」

「痛くないですよ」

「嘘」

「……多少は痛いかもしれませんけど、慣れてますから」


 常に守られ、また子供であるレーナにとっては擦り傷や切り傷以上の怪我は見過ごせるような軽いものではない。

 問いに対し首を横に振ったルカの返答が気に入らなかったレーナが不満を滲ませた為、ルカは答えを言い直した。


「嘘は嫌いよ」

「……気を付けます」


 咎められる言葉にルカが素直に頷いたのを見てレーナは漸く機嫌を直す。

 彼女はシアに近づくとその膝の上に乗った。


 シアに擦り寄ったレーナは彼の温度を感じて安心すると今度はおずおずとエミリオの方を見やる。

 何か言いたそうな顔をしていながらも、レーナは何も言わない。

 だが、エミリオには彼女の心中が分かっていた。


「なぁに、レーナ様。心配してくれてるんですか?」

「してないわよ」

「嘘は良くないなぁ。今、自分で言ったじゃないですか」


 エミリオは身を乗り出すとレーナの頭へ手を伸ばす。

 そして彼女の頭を少々雑に撫でまわした。


「いつもはつれない癖にぃー。本当に可愛いんだから」

「触らないで」

「いーやーです!」


 シアへ対する執着が目立ちレーナだが、彼女は他の館の使用人達を思っていない訳ではない。

 特に一度命を落としているエミリオが危機に見舞われるた時、レーナはよく不安げな顔を見せる。


「……本当に何ともないの」

「ん! ぜーんぜん。平気ですよ。気にしてくれてありがとうございます」


 エミリオの返事にレーナは小さく頷く。

 レーナが眉を下げて息を吐き、安堵する。その様を見守る使用人達が皆優しげな表情をしている事にルカは気付いた。


 まるでただの金持ちのお嬢様とそこに仕える使用人――社会の裏に染まった人々が集まっているようには到底見えない光景がそこにはあった。


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