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Case7-3.『住宅街の奇襲』

「便利ですね」

「ねぇ? チートだよ、チート」


 銃弾が次々と弾かれる音を聞きながらルカとエミリオは壁の内側で呑気に会話を繰り広げる。

 口を動かしながらも反撃の瞬間を窺う二人は発砲音の数や頻度が減った瞬間――リロードの為僅かに生まれた隙を見極め、壁から飛び出す。

 だがルカとエミリオが襲撃者らと距離を詰めるよりも先、植物の壁から針状に鋭く尖った蔦が飛び出す。


 数は四。それはルカとエミリオの脇を掠めると、敵の頭部や胸部を貫いていく

 残っていた四人の襲撃者は一瞬にしてアスファルトの上に崩れ落ちる。


「……便利ですね」


 拳銃を向けたまま敵との距離を詰めに掛かっていたルカは足を止めて唖然とする。

 瞬く間に敵を全滅へ追いやった植物がルカの視界の端で何事もなかったかのように宿主の元へと吸い込まれて消えていく。

 作られていた防壁もいつの間にか姿を消し、住宅街には死体と銃弾、静寂だけが残された。


「俺達必要なくないですか、これ」

「あはは! 心強いよねぇ、ほんとに」

「まあ……」


(攻防、どちらにも優れた強力な力は確かに心強い。……味方である間に限るが)


 去った一難にルカが一息吐いたその時。

 彼の視界の端で僅かに動く気配があった。


「……っ!」

(仕留め損なってたか……!)


 植物によって体を貫かれた男が一人、俯せに倒れたまま銃口を向ける。

 それが自分とシアの立つ方へ向けられている事に気付いたルカは大きく左へ飛び退きながら銃を構え直す。


 敵を見据え、引き金を引く。

 瞬間、一点を睨みつけた男の唇が動いた。


 ――う、ら……ぎ……。


 一つ目の発砲音と共に銃弾がルカの右腕を掠める。そして更に後方、ルカの背後に立っていたシアへ向かって行くがそれは即座に生み出された植物によって床に叩きつけられた。

 アスファルトが削れる音を背に、ルカは銃弾を受けた痛みを感じ、照準がぶれるよりも先に引き金を引いた。


 放たれた銃弾は相手の頭を撃ち抜き、男は今度こそ確実に息絶えた。


「ルカくん!」

「死亡確認。確かに強力ですけど、精度の面では少々粗削りですね」


 ルカの身を案じる声が掛かるが、それを聞き流しながらルカは淡々と呟く。

 不意を衝かれた程度でいちいち動揺するような感覚はルカの中にはなかった。彼は改めて倒れている襲撃者達を見回すと、頭部が無事である者に躊躇いなく銃口を向ける。


「う、うわぁ」

「行きましょう。長居し過ぎました」


 既に起き上がる気配もなかった相手の頭を的確に撃ち抜いてからルカは息を吐いた。

 ルカの負傷を見て具合を聞こうとしていたエミリオはルカの容赦のない行いに思わず言葉を失う。

 そこで離れた場所からサイレンが鳴るのをルカ達は聞く。

 警察が現場へ駆けつけた事を悟るとルカはエミリオとシアへ移動を促した。


「はいはーい」


 エミリオは頷きを返すと広範囲に漂っていた煙を自身の肩口に集める。

 袖から潜り込んだ煙はやがて人の腕へと姿を変え、実態を持った。

 彼は右手を握っては開く仕草を何度か繰り返して手の感覚が問題なく戻っている事を確認する。

 だが、彼は手の動きが問題ない事を確認し終えても尚、自分の掌を見つめたままそこに立ち尽くしていた。


「エミリオさん?」

「……え、あー。わかってるって。そんな急かさなくてもいいじゃない」

「どこまで能天気なんですか」

「ごめんごめん。行きまーすよ」


 怪訝そうな顔でルカが声を掛ける。

 エミリオは拗ねるような返事をしてから漸く走り出す。


 彼が移動を始めると、傍に立っていたもシアもその後に続いた。

 遠ざかっていくエミリオを視界に留め、ルカは静かに目を細める。

 だがその間も一瞬の事。彼は撤退に当たって必要な最低限の確認をすべく辺りを見回した。


(出血は酷くない。血液がどこかに付着してる訳でもないし、痕跡を残さないまま今すぐ立ち去れば足が付く事もないか)


 出血した箇所をハンカチで押し当てながら痕跡がない事を前提に視線を巡らせていたルカはしかし、現場に残された物の存在に気付いた。

 投げ捨てられたままアスファルトの上に放置された眼帯と手袋の片割れ。

 エミリオとシアの物だ。


 単に詰めが甘く軽率なのか、後片付けを丸投げされたのかの判別はルカには付かない。

 だがどちらにせよ、ルカにとっては呆れるべき惨状であった。


「……いや、痕跡残すなよ」


 彼は低く呟くと大きく息を吐いたのだった。

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