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Case5-6.『子供を手懐ける方法』

「俺はシアさんに声を掛けるときに返事を求めたことはないです。何か答えを求めるような話であれば他の人にするでしょう。……けど、それ以外の点でいうなら、俺はシアさんも、この館で従事する他の皆さんもそう変わらないと考えています」


 レーナは目を瞬かせる。シアが流浪者となり、抜け殻のようになった後、以前の彼を知っている館の者達は今までと同じように振舞おうと心掛けつつもどこかよそよそしさを漂わせていた。

 レーナやシアに気を遣うからこそ現れる形容しがたいぎこちなさはまるで腫物を触るかのようで、レーナはその違和感が好きでは無かった。

 だが、館にきて間もない目の前の青年はレーナが燻ぶらせてきた憂いを晴らす言葉を簡単に言ってのけた。


「話せずとも意識があって、俺達と変わらない景色を見て、音を聞いて、考える事も出来る。……俺達と変わりませんよね? 俺は敢えてシアさんを他の人と分けて考える必要はないし、そうする理由もないと思っています」


 気遣う声は何度か耳にしたが、シアに対し自分達と変わらないなどという評価を下した者は初めてだった。

 そしてそれは執着する程シアを大切に思うレーナが心のどこかで求めていた言葉でもあった。


「だから先程のレーナ様の問いについてですが……。シアさんと他の人を切り離して考えていないから……というのが答えかなと」


 どうですか、と言葉が添えられる。

 レーナは暫し口を閉ざし、ルカを真っ直ぐと見つめた。相手の心中を推し量るかのようにルカの顔色を観察していたレーナはやがて、彼から視線を逸らし、俯くと小さく呟いた。


「わたし、過去に戻ることが出来るの」

「はぁ……存じ上げていますが」


 ルカが求めた答え合わせも御座なりに、レーナは突如話題を転換する。

 突然振られた話に不意を衝かれたルカは相手の発言の意図を汲む余裕もなく、何とも淡泊な返事をした。


 そしてその返答から、自身の言葉の意味を正しく理解されていないと悟ったレーナは、いつの間にか両膝に添えられていた掌でワンピースの裾を握り締めた。


「誰かが死んでも、わたしが死にかけても、少し前までなら戻ることが出来るのよ」


 視線を落としたまま、レーナは掠れた声で呟く。

 告げられた真実は既にエミリオから聞かされていた情報と相違ない。故にレーナの言葉にルカが驚くことはない。


 だが、彼の中で気に掛った点があった。

 何故レーナは自らの能力について二度も強調したのか。『過去へ戻ることが出来る』と繰り返すことの裏には隠されたレーナの思惑とは何か。それがルカは気になったのだ。


 そしてそれを理解して初めて、ルカは『正解』を口にすることが出来る。

 故にルカは顎に手を当て、暫しレーナの前で考え込んだ。


(彼女は何を求めている? レーナ様の能力が過去へ戻ることの出来るものだという話はエミリオさんから聞かされているし、今更気にするようなことなんて――)


 ルカは来日初日、コーヒーを片手に話していたエミリオの姿を思い浮かべる。そしてそこである事に思い当たった。


(……いや、違う)


 エミリオは始め、レーナの能力について語る時、それは『未来予知』だと告げた。その後能力についてより正確に触れられはしたものの、一番初めに出た言葉こそがエミリオの認識により近い説明であるといえるはずだ。


(そしてエミリオさんの認識は館全体で共通している可能性が高い。彼が『過去へ戻ること』と『未来予知』を明確に差別化する必要がないと話していたことから鑑みるに、少なくともこの二つの違いについて館の人達が重要視しているということはなさそうだ)


 レーナ本人は自らの能力を『未来予知』だとは一言も告げていない。それこそが彼女の考えを知る為のヒントであった。


(『時間遡行』と『未来予知』の違いなんていくらでも出てくる。それこそ意味合いからして異なる訳だし……。問題なのは、その中のどれがレーナ様の考えと深く結びついているかだ)


 返答を考えるルカは自らがレーナの立場であったならと考える。

 覚醒者であるが故に幾度となく命を狙われる日々。自らが死ぬ間際、そして見知った顔が死ぬ瞬間に居合わせては時間を巻き戻し、十秒という短い時間を利用して未来を変えて来た。


 その時、レーナなら――一般的な感性を持つ少女ならば何を思うだろうか。

 何故、彼女は『時間遡行』と『未来予知』の違いを強調するような物言いをしたのだろうか。


 考えを巡らせた先生まれた疑問。そしてそれが頭を過った直後、ルカは一つの答えを見つけた。


「もしかして……心細いんですか?」

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