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Case4-2.『人間検定』

 アンティーク調の装飾を壁に施した、落ち着いた雰囲気の小さなカフェ。

 店内には穏やかな曲調のクラシックが流れており、等間隔に配置されたテーブルや椅子は木製。カウンター席には沢山のコーヒー豆が並べられている。カウンターの奥にはコーヒーメーカーが設置されており、店員がコーヒーを淹れるところを間近で見ることが出来るようであった。

 昼食にもティータイムにも微妙な時刻だからか、客はルカ達の他にいないようだ。


「エミリオさん、いつもの席?」

「そー、いつもの席」


 アヤと短い会話を交えながらエミリオはルカを手招きする。

 そして一番奥の窓際の席を選んで腰を下ろした。

 窓の外も店内も良く見える席。ルカはその向かいの椅子に座る。

 それを見届けてからエミリオはメニューを開いた状態でルカへと差し出した。


「どーぞ」

「どうも」


 ルカはメニューへ視線を落とし、一枚二枚とページを順に捲っていく。

 その間、メニューを見ることもせず注文を決めたらしいエミリオは肘をついて窓の外を眺めていた。


「……良く来るんですか、ここ」

「そうだね。近場だし、コーヒーも美味しいし」

「コーヒーなら、館にもめちゃくちゃいい奴あったじゃないですか」

「そうだけどそうじゃないんだよねぇ」


 メニューへ視線を落としたまま、ルカはエミリオの言葉に疑問を抱く。

 怪訝そうな顔をするルカを前にエミリオは呆れた様子で大袈裟に肩を竦めた。

 そこへ水が注がれたグラスとおしぼりが二つずつ置かれる。


「ねぇ? アヤさん」

「えっ、何の話ですか?」

「ここのコーヒーが美味しいって話」

「ええっ、嬉しいなぁ。……あ、注文は決まりましたか?」


 足繁く通うからこそ生まれた親しそうな会話はエミリオが相当な頻度でこの店に足を運んでいることを表している。

 水とおしぼりをテーブルへ置いたアヤは嬉しそうに笑みを深めながら伝票を出した。


「ボクはコーヒーとオムライスで」

「ホット?」

「うん。ルカくんは決まった?」

「ホットとサンドイッチで」

「はい。注文確認しますねー」


 伝票の上でペンを走らせながら、アヤが注文の確認をする。

 そして誤りがないことを確認すると「おとうさーん」という言葉と共にカウンター横にある通路を通って姿を消す。


「飲む場所が違えば気分も変わってきたりするでしょ」

「そうですか?」


 ――味が同じであればどこで飲んでも大して変わらないのでは。

 そんな疑問がルカの言葉尻に滲み、全然わかってないとエミリオがため息を吐く。


「じゃあルカくんは談話室で飲むコーヒーとトイレで飲むコーヒーの幸福度が同じだと思うの?」

「例えが極端すぎるでしょう。トイレでコーヒーを飲む前提で話をしないでください」

「ほら、否定しない」

「そもそもの話が破綻してるんですよ」


 共感を得る為、無理矢理言いくるめようとする相手の態度にルカはこめかみを押さえた。

 どうも人が困る姿を見て笑う節があるらしいエミリオは顔を顰めているルカを出しにして、肩を震わせて笑い始めた。

 それが癪で、ルカは募る苛立ちを押さえ込むように息を深く吐いた。


「……真に受けなければよかった」

「ん? 何を」

「さっきの話ですよ」


 指示語で示されたものがわからず、エミリオは首を傾げる。

 ルカはおしぼりで手を拭いながら、今度ははっきりと明示する。


「他者を理解しようとしろと言ったでしょう」

「……ん?」


 エミリオは首を傾けたままの姿勢で数秒程考えを巡らせる。

 そして小学校へ向かう際受けた助言を参考に、ルカがルカなりの考えでエミリオの考えを探っていたことを悟る。

 しかしそこまで結論に至りながらエミリオが取った行動は――


「――はははっ、あはははっ!」


 ルカを指さして大笑いするというものであった。

 無人のホールに響くエミリオの声。その煩わしさと腹立たしさにルカは無言で椅子から腰を浮かす。


「帰っていいですか?」

「待った待った、ふふっ、ごめんって」

(……いちいち腹を立ててても仕方ない。この人はこういう人なんだ、割り切ろう)


 座り直すように手で示され、仕方なくルカは再び腰を下ろす。

 そしていい加減エミリオのツボの浅さに慣れなければと深呼吸した。

 一方でエミリオは時折堪えきれていない笑いを漏らしながらもそれを誤魔化すようにグラスへ口を付ける。

 そして軽い音を立ててテーブルへ戻してから口を開いた。


「いや、ルカくんって澄ましてばっかだけど、可愛いとこもあるんだなって思ったんだよ。案外素直っていうか、若さっていうか」

「そうですか」

「あ、さては全部聞き流すつもりだな」


 まともに取り合うことを止めたルカはエミリオと視線を合わせる事すらやめた。

 手持ち無沙汰になる為、何となしにメニューを眺めて時間を潰す。

 エミリオはルカの反応が素っ気なくなったことに口を尖らせた。


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