Case4-1.『人間検定』
小学校の外周を一周してから、ルカとエミリオは館へ向かって歩き出す。
帰りの道としてエミリオが選んだのは行きに歩いた通学路とはまた違う道。
エミリオはルカが周辺の様子を窺える機会を進んで作っているようであった。
「……エミリオさんって」
「うん?」
短く適当な相槌に気を悪くすることもせず、他愛もない話を続けるエミリオ。
その様子にふと抱いた疑問をルカは本人へと投げた。
「こういう仕事向いてなさそうですよね」
ルカの呟きに、エミリオは目を丸くして口を閉ざす。
小学校へ向かう間の会話を思い出していている中でふと口を衝いて出ただけの、深い意味もない言葉だった。
しかし口に出してから、嫌味のように聞き取られても不思議ではない物言いをしてしまったことにルカは気付く。
「……仕事が出来なさそうとかそういう事ではなく、感性が普通の人っぽいなと」
他者を知った方がいいという提案はとても犯罪組織に属している者の言葉とは思えないものだ。それに加え、今までのエミリオの明るくて表情豊かな性質と組織の重く暗い雰囲気はあまりにも不釣り合いだ。
「あははははっ!」
数秒程不意を衝かれたように面食らっていたエミリオは突如として腹を抱えて笑う。
笑い過ぎて息が上手く出来ないのか、時折笑いに混じって苦しそうな声が絞り出される。
「普通じゃない人間が普通を語るのはおこがましいというものだよ、ルカくん」
「馬鹿にされてます?」
「少しね! ……あ、冗談だって、待ってよ!」
悪びれもなく肯定された声を聞いたルカは歩く速度を上げてエミリオとの距離を広げる。
おいて行かれそうになったエミリオは慌ててそれを追いかけ、再びルカの隣へ並んだ。
「いや、でもそうだね……ルカくんの言う通り、ボクは多分まともな方だ。組織の仕事も正直あまり得意ではない」
未だ言葉の節々に笑っている気配を醸しながらエミリオは話題を戻す。
そして自身の左手へ視線を落としながら呟いた。
「だから死んじゃったんだろうなぁ」
のんびりと間延びした声が言葉を吐く。
それは自虐や憂いによる言葉ではなく、ただただ事実を受け止めているかのような独り言。
掛ける言葉を持たないルカはそれを静かに聞き流した。
静かに吹き抜ける風を受け、二人は並んで歩く。
エミリオの呟きの後、沈黙が流れたが、それも長くは続かなかった。
館方面へ向かって移動する二人。その前方の建物前、掃除をしていた女性がふと顔を上げる。
そしてその瞳がエミリオを捉えると明るい笑顔を見せた。
「あ、エミリオさん!」
「お。アヤさん」
年は二十と少しくらい。エプロンを身に着けた女性はアヤと呼ばれた。
アヤの後ろにはガラス張りの窓があり、そこから中の様子を窺うに、そこは落ち着いた雰囲気のカフェであることがわかる。
「そちらの方は?」
「ああ、ルカくん。イタリアの方の後輩くん」
エミリオは自分達の立場や事実を自然にぼかして伝える。
その紹介は相手に違和感を与えなかったようだ。アヤははにかむとルカへ軽く頭を下げた。
「初めまして、アヤって言います。ここで働いていて……あっ、日本語大丈夫ですか?」
途中まで日本語で話し掛けたところでその顔には焦りが滲む。
感情が言動に出やすい性格らしいアヤは両手を忙しなく振り回しながら足踏みをした。
無駄な動きの数々がツボに入ったらしいエミリオは小さく吹き出すと肩を震わせる。
ルカはそれを横目に捉えつつ、柔らかく微笑む。
「初めまして。ルカです。お気遣いありがとうございます」
「あ、よかった! エミリオさんもですけど、すごいお上手なんですね」
「ありがとうございます」
ルカは外面の良い笑顔を浮かべ、日本語で言葉を交わす。
二人が互いに挨拶を終えたところでエミリオが店の扉へと視線を移した。
「ここ、ボクがよくお邪魔してるお店なんだけどね。コーヒーもご飯も美味しくって」
「そう言っていただけると嬉しいですね。……あ、今日は寄って行かれますか?」
「あー、どうしよ」
問うようなエミリオの視線がルカへ注がれる。
今館を戻ったところで機嫌を損ねたばかりのレーナと接触を図ることは絶望的だろう。その他の仕事を熟そうにも来て一日のルカは館の勝手すら把握できていない。急いで館へ戻ったとて、時間を持て余すだろうことは明らかだった。
更に時刻はもうじき夕方へと差し掛かる頃合い。移動中の襲撃やら館の案内、レーナとの衝突など立て込んでいたスケジュールのお陰でルカは昼食を食いっぱぐれていた。
「俺は別にいいですよ。昼食もまだでしたし」
「あ、そういえば! ボクも食べてないや。寄り道していこっか」
「はい、二名様ですね! いらっしゃいませー!」
ベルのついた扉をアヤが元気よく開ける。ルカとエミリオを先に店へ入れてからそれに続いた。




