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Case3-2.『護衛対象との対立』

「おっと、ここだ」


 けらけらと笑っていたエミリオは一枚の扉の前で足を止める。

 使用人達の居室は一見して異なる頑丈且つ大きな扉。隣の扉との感覚がやけに開けていることから、中の広さも随分なものだと推測できる。


 エミリオはノックを三度してから明るく声を掛ける。


「レーナ様ぁ! ボクですボク、エミリオですー。ルカくん連れて来たんですけど、入ってもいいですかー?」


 返事はない。

 しかし館を一通り歩き回った時に姿が見られなかったことを考えればレーナが自室へいる事は確実である。


(まあ、さっきまでの様子じゃ拒絶されるよな)


 入れて貰えないのならば仕方がない。そう踵を返そうとしたルカをよそに、ガチャリとドアノブが捻られる音がする。

 ルカが視線をそちらへ向ければ、エミリオが何食わぬ顔で扉を開けていた。


「失礼しまーす」

「ちょ……っ!」


 いくら幼いとは言え、レーナは館の主人だ。

 許可なく押し入る等許される行為ではない。

 しかし咎めるようにエミリオを呼び止めるルカの声に効果は見られなかった。


 一瞬だけルカを見たかと思えば片目を閉じてみせ、さっさと部屋に足を踏み入れるエミリオ。

 その堂々とした姿に呆気に取られるルカだったが、連れが強行したのを放っておくことも出来まい。仕方なくその後へ続いた。


 一人の部屋にしては広すぎる部屋。

 大きな天蓋付きのベッド、凝った造りのテーブルとそれを向かい合うように挟み込んだ二人掛けのソファ二つ。

 レースカーテンで覆われた大きな窓の先には館の外を眺める事の出来るベランダが広がっていた。

 他にも勉強用に配置された書斎机や本棚、大きなクローゼット、娯楽の為に用意された物品を整理する為の棚など、必要な家具は一通り用意されている上にそれら全てが一級品だとわかる物ばかりであった。

 それでも尚、広い空間を余らせた部屋に幼い声が降る。


「入って良いなんて言ってないわ」


 ルカとエミリオは声のした方を見る。

 視線の先、入口から背を向けて二人掛けのソファにレーナとシアは腰を下ろしていた。

 レーナはシアの腰へ手を回し、抱き着いた姿勢を維持しており、ルカ達へ振り返る様子はない。

 一方で抱き着かれているシアはというとぼんやりとどこか遠くを見つめたまま身動ぎ一つしなかった。レーナを抱きしめ返したり、ルカ達の接近を気に掛ける様子も一切見られない。


(そりゃそうなるだろ)


 許可のない入室を咎めるレーナの主張は尤もだ。ただでさえ良い印象のない相手が勝手に部屋へ侵入したとなれば気分を害するのも当たり前の話である。

 しかしエミリオは悪びれた様子を見せることもなく明るく振る舞った。


「ごめんなさい! 駄目って言われなかったので、良いかなって思いました!」


 口先だけの軽い謝罪。それに加わる浅はかな言い訳。

 それを聞いていたレーナはついにルカ達の方へと顔を向けて、エミリオを睨みつけた。

 しかし鋭い視線を受けても尚、エミリオはへらへらと笑う。


「レーナ様、どうせルカくんとまともに話してないんでしょう。自己紹介だけでもしちゃおうよ」


 促すような視線がルカへと向けられる。

 少々無理矢理ではあるが、折角得た対話の機会だ。相手にされない可能性もあるが、試しに話してみようとルカはその場で頭を下げる。


「先程も名乗りはしましたが……改めて。ルカ・ヴァレンテです。此度のご無礼をお許しください」


 可能な限りの丁寧な挨拶を心掛けるが、それに対する返答はない。

 レーナはエミリオからルカへと視線を移しはするが、それ以上反応するつもりはないようだ。

 その態度がルカの配属を認めていないと告げている。

 しかし空港の時のように遮られたり距離を置かれたりという事はない。


(もう少し粘れそうか……?)


 立場上、レーナに出て行けと命じられてしまえばそれに従うしかない。しかし逆に言えばそれまでは退室を命じられていないことを理由にその場に居座ることもできるという事。

 相手の警戒心を薄める為にルカはレーナへと更に話し掛ける。


「一応、レーナ様の身の回りのお世話と護衛としての役目を命じられて来ました」

「わたしはいらないと言ったはずだわ」


 一度目の自己紹介を遮った時と同じような言葉が返される。

 レーナはシアの背に回していた腕の力を強め、その体を引き寄せる。


「シアはここに居るもの。シアの代わりなんていないし、求めてもないわ」


 幼い少女の青い目が揺れる。

 レーナは絶対に離れないと主張するようにシアにしがみ付き、険しい顔でルカを睨みつけた。

 敵意を剥き出しにした表情。しかしその顔を見たルカが感じ取ったのは怒りや嫌悪ではなかった。


(怯え、か)


 自身の手を汚し続けてきたルカが幾度となく見てきた表情。だからこそ怒っているような態度によって隠されていてもレーナが抱く本音に気付くことが出来た。


(恐らくは俺がレーナ様とシアさんを引き離そうとしている存在だと思っているんだろう)


 それは事実だ。しかしそれをルカが認めればレーナの警戒はより一層強固なものとなり、更に拒絶されてしまうことだろう。

 ここでルカに求められるのは真実を伝える事ではなく警戒心を解すことだ。その為には嘘でも何でも、レーナの敵ではないという主張をするしかない。

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