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Case3-1.『護衛対象との対立』

 日本異動の詳細をルカへと告げた上司は、重要な項目を再度確認するように話を纏める。


「君の使命は大きく二つだ」


 上司が人差し指を立てる。

 どこか可愛げのない部下が取り乱す様を期待するかのような視線がルカへと向けられる。


「一、レーナ様の傍に付き、御身を守りながらその信頼を勝ち取ること」


 つまりは護衛としてレーナに近づいた上で彼女世話をしながら機嫌を取れということだ。

 曲解するならば子供の御守りと媚売りをしろという任務内容。ルカはうっかり漏れ出しそうであった舌打ちをなんとか堪えた。


「二、流浪者であるレイ・シアの監視と処分」


 次いで中指が立てられる。

 一つ目に比べて物騒な仕事内容にルカはすぐさま気持ちを切り替える。


「彼の流浪者としての能力は我が組織に利益を齎すものだ。しかし同時に危険でもある。利用できる間は監視のみで構わないが、もし不利益を齎す存在となったならば……。その時は処分しろ」


 目の前の上司を見据え、ルカは冷静に耳を傾ける。

 命の重みを全く感じていないかのような淡々とした口調で詳細は語られ続けていく。


「尚、処分については必ずしも暴走を確認しなければならないという訳ではない。暴走の可能性が極めて高いと判断したなどの他、利用価値が無くなったと判断した時点で切って構わない。例えば……君が彼以上の信頼をレーナ様から得られた瞬間、とかな」


(――簡単に言ってくれる)


 レイ・シアが得意とする分野はいくつかあるが、その中には対人戦闘も含まれている。本来非戦闘要員の自分では真っ向からの戦闘になった場合、あまりにも分が悪い。

 それを承知で単独で送り出そうという上司の魂胆には、不安要素を排除したいという純粋な気持ち以外の醜い企みが含まれていると見るのが妥当だろう。


 若くして相応の功績を残してきたルカの立場は組織内でも盤石なものとなりつつある。そして倫理が欠如した世界で実力ある者が成り上がる事は案外簡単だ。幹部に取り入った部下が上司の役職を奪い、その立場が逆転するような話もざらにあるのだ。故に直属の上司の中には部下の昇進を警戒し、そういう者ほど優秀な部下へリスクある仕事を押し付ける。


 ――あわよくば任務に失敗し、どこかで死んでくれるように、と。

 しかしそれを察したとて、上司の命は絶対。背くことは出来まい。

 ルカは不満を押し殺して従順な部下を演じ続ける。


「ただし、レーナ様はレイ・シアにとても入れ込んでいる。レーナ様に取り入る事は困難を極めるだろう。多少時間が掛かるのは構わない。だが……いいか、どれだけ長くともレイ・シアの暴走までには彼女から強い信頼を得るんだ。彼の処分はそれから出ないと出来ないと思え」

(結局子守り前提ってことじゃないか……)


 レーナの機嫌を取れと釘を刺す上司の言葉にルカは先が思いやられる心地がした。



***



(あのクソジジイ……いつか絶対追い越して死ぬ程無理難題を押し付けてやる)


 良いように自分をこき使う上司に対し、沸々と怒りが湧き立っていく。

 ルカは頭を乱暴に掻き上げて舌打ちをした。


(とにかくレーナ様に接触するのが最優先か)


 シアの状況を詳しく把握できていない現状でどう動くべきか、最終的な着地点はどこかなどは見通しが立てられない。

 しかし先にすべきことは確立されている。

 シアの処分の機会や手段を考えたところで、レーナからの信頼が勝ち取れなければ行動に移すことは出来ない。

 それに加えて万一、シアの殺害がルカの仕業だとバレればそれこそ挽回の余地はなくなる。

 レーナの様子を窺いつつ、ボロが出ないよう綿密に計画を練る。目先の行動指針はこれで決まりだろう。


 優先すべき行動を明確化したルカは気持ちを切り替えるように深呼吸をし、談話室から退室すべく残っていたコーヒーを飲み干す。

 注がれてから時間が経ったコーヒーから湯気は消え、すっかり冷めきっていた。




 調理室で待っていたエミリオと合流し、ルカはレーナの部屋へと向かう。


「ボスはレーナ様に安全な場所で学力を養って欲しいらしいんだよね」

「みたいですね」


 ルカは先程の対話によってわだかまりが出来る可能性を危惧していたが、合流後のエミリオは相変わらずのお喋りっぷりである。

 わざわざ自分の手元から遠ざけ、日本という治安の良い国で生活をさせる。そこには何かしらの意図があって然るべきだ。

 投げかけられた話にルカは短い相槌を打った。


「一時期はシアくんが上手く促してくれて学校に行ったりもしてたんだけどね。残念ながら今は不登校だ」


 ボスの意向だというならば無視することは出来ない。レーナに登校を促し、安定した生活を送らせることもルカに求められていることのようだ。

 また一つ課題が増えたことにルカは気を重くした。


「レーナ様、元からあんまり懐かない子ではあったけど、シアくんがああなってからは特にそうだからさ。ちょっと骨は折れるかもしれないけど、頑張ってみて」

「正直、上手くやれる気はしませんけど」

「ルカくん、子供苦手そうだもんなぁ。出来る範囲で助け舟は出すよ」


 表情が乏しい上に気難しい性格。愛想を振りまくことも滅多にしない。

 それだけの要因が重なれば短時間の付き合いであっても何となく相手の性質が想像できるものだ。

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