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Logs.2

アレックにはお気に入りのマントが一着ある。


肘まで垂れる短めのデザインで、生地は悪くないが、高級品と呼べるほどでもない。

特別な魔法が込められているわけでもなく、ただ「これを羽織ると、なんとなくアーチャーっぽく見える気がする」という、なんとも曖昧な理由で、彼はそれに愛着を持っていた。


そんな大切なマントが、たった今、奪われた。


理由もちろん。こんな薄暗い地下遺跡で、裸一貫の少女を放置するなんて、どう考えても人道に反する。

それに、少女の処遇がまだ決まっていなくとも、まずは街まで連れ帰らなきゃ話にならない。見た目が14歳にも満たない少女を、生まれたままの姿でギルドに連れ込んだら、アレックたちはたちまち冒険者から犯罪者に転職するだろう。


だから仕方ない。仕方ないのだ——と、アレックは自分に言い聞かせる。


「なあ…後でちゃんと元に戻せるんだろうな?」


彼は半ば諦め顔で、この遺跡にそぐわない「異物」に問いかける。


そう、雑然とした道具や埃にまみれた四角い部屋のど真ん中に、簡易的なテントがなぜか立てられた。入口には「男子入るな」と乱雑な字で殴り書きされた板が貼られて、警告の矛先は明らかに外で待つアレックとマルケスに向けられている。中じゃ、アリアナがアレックのマントを手に持ち、即席のワンピースに仕立て上げようと苦戦している。


「アレッキョン、うちの実力を侮らないでよね~!『エルフの恩返し』って異名を持つこの私が保証するよ!元に戻せるって!…多分ね!」


アリアナは得意げに胸を張り、舌が唇を軽く撫でる癖が顔を覗かせる。


「そんな異名ねえし 、『多分』じゃ保証にならねえよ!」


「そんで、ミューファって言ったか、お前なぜ一人でこんな遺跡の深部にいるんじゃ?親はどうした?」


いつもの二人の口喧嘩を遮る音量で、アルケスがテント越しに、中の少女に話しかける。


「回答、何も覚えてません。」


アリアナのロープにくるまれた少女が至って冷静な口調で返す。


「ふむ...こんな状況でよく焦らずにいられる、器が大きガキじゃのう。」

「状況が分かってないだけだろ。まだ子供なんだから、パニックしすぎて頭が回ってないとか。」

「否定。」


テントの中からミューファの、まるで感情の揺れを感じさせない声が聞こえる。


「私は焦ったところで何も解決できませんと思います。だから、焦らないことにしました。」

「いや焦りってコントロールできるもんじゃねえだろ...」

「否定、頑張ればできます。髪の毛の長さをコントロールすると同じ要領で...」

「そっちの方がもっとできねえよ...」

「なんと?!ワシも頑張ればまだ生えるのか?!髪の毛が!」

「いや出来ねえよ!」

「ワシはどの方向に頑張れば良いのじゃ!」

「前にアリアナが蘇生魔法かけてやったろ、あれでも毛根を生き返さなかったからもう無理なんだよジジイ。」

「きっとあのときのワシは、頑張りが足らんかったんじゃ!」

「いや、かけられる側のお前が頑張ったって関係ねえだろ...」


「できた!」


しょうもない言い争いの中、アリアナの作業が終わった。


「さあ、ミューファちゃん着てみて~」

「...了解しました...」


気のせいか、ミューファの声は先ほどと同じ淡々とした口調なのに、なぜか少し嫌がっているように聞こえる。


テントの中で衣擦れの音がした後、入口の布が勢いよく開かれた。

「じゃんじゃん ~!」とアリアナがわざと声を出して、無理やり意味のない討論を続いている、男二人の気を引き寄せる。


彼女はまるで自分が世紀の大魔術を披露したかのように胸を張り、キラキラした装飾品をジャラジャラ鳴らしながらテントから飛び出した。その後ろに、ゆっくりと姿を現したのは、例の「ワンピース」をまとったミューファだった。

...が、その姿を見た瞬間、アレックとマルケスの表情が凍りつく。


「おおお!これは…その...何て言ったら良いのじゃ…」

「えっと…まぁまぁ…可愛い…かなぁ…うん…可愛いよ…」


マルケスが言葉を濁し、アレックは視線を泳がせる。


それも無理はない。

二人の前に立っていたのは、ワンピースと呼ぶにはあまりにも斬新すぎる「何か」を身にまとったミューファだった。

その姿は、まるで巨大な団子から手足と頭がニョキッと生えたような姿で、ところどころロープで無理やり縛られてはいるものの、歩くたびにずり落ちそうで危うい。


ワンピース作る話だったよね?なんでこうなる?という疑問が一瞬頭をよぎるが、次の瞬間で、笑いを堪えるのに精一杯で、二人はその答えを探す余裕ができなくなる。


「質問、これを『着用』しなければなりませんのですか?」


ミューファは無表情のまま、自分を包む「ワンピース」を見下ろす。


「当たり前じゃ~ん! すっぽんぽんで街を歩くわけにいかないでしょ! 変人扱いされちゃうよ、ミューファちゃん!」


いや、この姿の方も変人扱いされちゃうだろ。

「否定。この姿の方も変人扱いされてしまいます。」

代わりに突っ込んてくれるミューファに、二人は「うん、うん」と頷く。


「それに、道徳的な問題であれば、心配は不要です。私は服を着る必要がありません。」

「え?」


何言ってんのこの子の顔をする男二人を無視して、しれっととんでもないことを、ミューファは実行した。

ビリッ!

一瞬にして、ミューファは自分を「守る」一風変わった「ワンピース」を両手で破り捨てる。


「なっ?! ちょっ?!」「な、なんじゃと?!」


アレックとマルケスは目を剥き、反射的に顔を背けようとする――が、遅かった。二人はすでにその光景をガッツリ目撃してしまい、頭が真っ白になる。だが、次の瞬間、二人とも同時に違和感に気づく。


「な...ない?!」「ないじゃと?!」


そう、その綺麗すぎるボディーにには、その柔らかい小さな膨らみには、その両股の間には、あるべき突起とあるべき隙間が...

ない!


「私の身体には、隠すべき部位が存在しません。」

「えええええええ???!!!」

「アンドロイドですから。」

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