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昔好きだった子をイジメてしまったけど、高校で再会したらなぜか迫ってくる 


 小学生男子あるあるの一つに、好きな子にイタズラやちょっかいをかけてしまうという悲しいさががある。

 好きな子に少しでも気にしてもらって、かまってもらいたいという想いが生む悲劇だ。

 かくいう自分も、そういう間違ったアプローチを、小学生の頃していた。お母さんに構ってほしくてイタズラするようなものだ。


 

 だが。

 そんな黒歴史を小学生の頃に作った俺も、もう15歳、高校生である。

 男女の機微も分かるお年頃なのである。

 モテるために必要なことのだいたいを理解した思春期の男子なのである。

 よってーー。


 再会した初恋少女には近づかない。

 初恋を引きずれば、非モテコミットになると知っている。

 初恋は実らないって言うんです。少女漫画で学べそう。


 俺は初恋少女とは無関係を装って、高校生のうちは陽キャで不特定多数のjkと青春をするんだ。絶対に青春をコンプレックスにしない。むしろ青春をコンプリートする。

 




 彼女を視界に入れないようにして、半年が経った。

 幸いクラスも違うから、俺たちの距離は、小学生の頃は遊んだけど、もう話しかけない仲。

 これが王道だ。

 男子諸君、夢を見るな。

 女子は記憶を上書きしていく生き物だ。しかも改竄までする生き物だ。


 まぁ、俺が無視を決め込んだように、向こうも無視を決めている。

 俺たちの境界は堅固で、そこにあるのは交わって終わった直線の軌跡。二度とは交わらない軌道が僕たちを引き裂いているんだ。

 

 俺は、彼女には近づかないと決めていた。

 心に固く、硬く、堅く……。

 でも、俺はーー。

 俺はな、自分の失敗を、見せつけられる行為に我慢ができなかった。

 直線の軌道が曲がった。捻じ曲がった。


「サッカー部の水原くん、振ったってマジ?」

「どゆことっ。なに、好きとか言ってたじゃんか」

「最悪なんだけど」


 俺は、青春の一ページでみんなが夢見る。

 屋上の給水塔近くで、昼寝をするを実行していたんだ。

 いや、これも青春の大切な行事なんだ。

 屋上の鍵の入手に手間取ったので、半年もかかった。

 そして、そんな昼寝を終えて、戻ろうとしたら、屋上のドアの向こう側で、女子たちのキャットファイトが行われていったってわけ。

 

 聞いている限り、お膳立てしたのにフるとかサイテー、ということだ。

 まぁ、セッティングも大変だし、分からなくもないぞ。

 でもな、本人の気持ちというのは、空気の中で流されて、コロッと転がる岩のように押し戻せないスピードになることがあるんだ。シシフォスよ頑張れ。


「イジメ、カッコ悪いよ」


「「「きゃぁああああっ!!」」」


 いじめっ子たちの可愛い悲鳴が聴けた。まさか屋上のドアから美男子が出てくるとは思わなかったのだろう。

 冗談だ。


「って、マッキー、マジびびるから。てか、屋上、空いてんの?」


 なんだ、やっぱクラスの女子か。

 俺は波風は立たせたくないんだ。女子のキャットファイトより、もっと百合百合しい一面にこっそり鉢合わせしたい。屋上では、そういうことをしていてくれ。


「ちょっと頑張って開けてみた。それより、あんまり、集団で一人にあたるなよ。シワが増えるよ」


 おっと、つい昔のくせで意地悪なことを。


「分かってる。でもムカつくじゃん」


「こい。俺がサンドバックになってあげるから。今度ファミレスで愚痴でもなんでも聴いてあげる。ドリンクバーだけなら奢れるぞ」


「絶妙にケチー。まっ、機会があればね」


 女子生徒たちが、タッタッタと階段をおりていく。

 さて――。

 俺も逃げるか。

 

 「助けてくれて、ありがとう」


 初恋の少女が俺に上目遣い。慎重さがなせるワザ。

 でも、俺は初恋はやり直さない。

 幼馴染はな、負けフラグなんだよ。男にとってな。年上男子に憧れる女子にとって同級生の男子は攻略対象ではないのだ。


「お前と知っていたら、助けなかった」


 よし。

 これぞ、恋愛フラグを踏み壊す言葉。

 「お前」なんて言ってしまえば偉そうで言葉使いのなっていないサイテー野郎に進化できるのだ。


「……そっか」


 突き放すことも愛情。

 いや、これは恋愛的な意味ではないけど。

 

「こ、今度お礼に、何かする、よ」


「期待しないで待ってるよ」


 俺は逃げた。これ以上いれば、俺の演技力が砕けるから。

 なぁ、第二次性徴って卑怯だよな。

 小学生からの異性の発育にご勘弁。


 それに、俺は知っている。

 いじめっ子を惚れさせて、こっぴどくフるというラノベ的な展開を。

 つまり、彼女は、裏ではこう考えている可能性がある。ガールだけに。

 復讐だ。

 元いじめっ子につけられた心の傷を、やり返すために俺に一生残る恋愛のキズを負わせようと。

 惚れさせて、フる。そういう青春リベンジはあるのだ。隣の席のあの子がそういうゲームをしていたり、昔太っていてバカにされたからリベンジする遊びが。

 ラノベの常識ですよ。


 俺は、甘い花には棘があることを知っている。

 恋愛は男が歩んで進む。棚から牡丹餅は、罠だ。

 詐欺なんだ。美人局なんだ。

 車やバイクを売ってストーカーになる前に、気づくんだ。いただかれる前に。




 テクテク、テクテク、テクテクテクテク。

 女子にストーカーされている。

 しかし、警察に行っても、男性は相手にされないんだ。まぁ、俺は強者男性の道を邁進しているからいいが。


 これは、監視という復習、いや復讐になるに違いない。

 見られるというのはキツいものがある。

 俺はルックスがいいから見られ慣れているが、それでも、見られてはいけない部分はある。白鳥のバタ足は、ドキュメンタリー番組でしか出さないのだ。



 目線があるのは気の所為。

 彼女が俺のクラスによく来るのも気の所為。

 ああ、俺は初恋には期待しない。

 パリピは初恋になんてこだわらない。俺は、青春をラブコメ風ではなくリア充風に過ごす予定だ。

 心に一人の女性を選ぶには若すぎる。男は馬鹿だから、四人目ぐらいに付き合った女性と結婚したほうが良いらしい。男に女を見る目はない。経験で学ぶしかないんだ。15歳で恋愛して、いい感じに三、四人目でゴールイン。

 これが男の恋愛の人生ゲームの方程式だ。

 決して、お互い恋愛初心者で初体験を互いに連続してゴールインではない。


 しかし、避け続けるのも、また気にしすぎている気がする。

 それは初恋を消化しきれていない証なのかもしれない。いずれ発酵して、美味しいお酒になればいいけど、ただ腐るだけかもしれない。


 最適解は、初恋少女を、クラスメイトAにすること。ただの同級生。正解にはクラスが違うけど。

 ただの友達みたいな。男女に友情は成立しないから、異性の友人はだんだん離れていくのだ。

 それから少し挨拶する知人にまで落とす。大学生のよっ友というやつだ。


 オールグリーン。

 赤信号から黄色信号から青信号になりました。

 よし、初恋少女と交流しても理論武装は完璧です。




 惚れた。

 撃沈。

 俺の心の、感情の、制御不可能性について。

 なんで夢にまで見ちゃうかな。

 おかしいな。女なんて35億いるだろう。

 気づけば、初恋のように落ちていた。

 だって、卑怯じゃん。お弁当とか持って来られたら、食べるじゃん。男子じゃん。当たり前じゃん。

 俺の椅子に座ってるんだよ、彼女。いや、もうそんなの間接ふとももでしょ。生あたたかい椅子に、俺はどうすればいいんだよ。

 俺に教科書を借りに来るんだぞ。クラスの他の女子と仲いいのに、おかしいだろ、それって。


 意識しないほうが無理でしょう。

 俺は分かった。振られてもいいと。

 俺を惚れさせて、振るゲームだろうと。

 戦いに負けようが、一時の夢が見れた。

 え、将来、キャバクラとか風俗に行くなって? 弱者男性には必要な最後の潤いなんだ。安心しろ、俺は勘違いしない。

 

 俺は敗者の階段を登る。

 屋上で彼女が待っている。

 彼女の言いたいことは分かっている。

 残念でした。今までの演技でした。惚れちゃった~、ざまぁ〜みたいな感じだ。

 しかし、成長したメスガキにやられたと頭の中で再構成したら、かろうじて屋上から紐なしバンジーをしなくてすむだろう。


 

「来てくれた」


 彼女は、風がたなびく屋上でスカートを抑えていた。

 リボンが揺れ動きに、赤が強調された。

 うん、進むな危険。

 俺は振られる。しかし、これは勝利だ。

 俺はこれで完全に初恋にトドメをさせる。

 期待するな。期待するから失望する。サプライズは常に悪いことが起こる。


「好き――」

 

 それだけだった。

 彼女は、そう言って、視線を下に向けた。

 怖い。

 彼女は、ここまでするのか。

 俺は、まだ振られゲーが終わってないことを知った。

 彼女は、数ヶ月、まだ淡い期待を俺に見せようとしている。

 ああ、ノッてやる。このビッグウェーブに。


「俺も」


 まだ、このゲームは続くんだ。



 あれから四十年。

 まだ彼女とのゲームは続いている。

 退職金がそろそろだ。ここで、熟年離婚をしかける算段に違いない。まさか結婚までしてくるとは思わなかった。復讐の人生の無意味さを少年漫画で教えてあげたい。

 財産分与を狙っているのはわかっている。そして定年退職した俺が社会的な関わりがなくなり孤独死するのを楽しむつもりなのだ。なんて執念深いんだ。

 俺はあの手この手で彼女の記念日にカンフル剤をぶち込んだが、効いたかどうか。


 おかしい。離婚しないだと。

 まさか火葬場で俺の骨を粉々にするのが目的なのか。そして骨壺を、どこか樹海にでも捨てて――、俺の輪廻転生が狙いか。昨今は転生ブームだしな。やめてー、普通に葬って――。

 これは長生きしなければ。


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