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油汚れには酸性を

 乱れた米粒の隙間に手を入れる。ぷちっと梅干しをちぎり手を構える。逃げる道中それなりの米を落としてきたからだいぶ頭が軽い。重心がぶれて狙いは定まりそうにない。とはいえあいつは待ってくれない。俺の足元にマヨネーズを撒きつつ歩みをとめない。


「梅田、いい加減諦めろよ。海老野はただお前と話したいだけなんだから」

「悪いが油井、海老野は俺の事を人間(おむすび)だなんて思っていないんだ。あの子の元には死んでもいかない。いやむしろ行ったら死ぬ」


 律儀にも会話の最中は1歩も動かなかった。相手が口を開く瞬間、投げつける。口の中w狙ったが相手の頬米を削るに終わる。梅干しは何度も投げられるものでない。半分もちぎれば気を失うであろう。米が減っていることを考えればそれよりも早く力尽きる気がする。 


「オレは梅田のことを傷つけたいわけではないんだ。ただ...いや、悪く思うな」

 言うが早いか一気に距離を縮められる。掴まれそうになる度身を躱す。ぬるっ、靴裏の感覚に背筋がゾッとする。踏んでしまった。バランスを勢いよく崩して地面に顔面(おむすび)を強打する。一気に米が抜けてきた。意識に霞がかる。やっぱりマヨコーンの俊敏さ相手に戦う選択肢は最悪だった。


「友達だと思ってたのに、結局はあの子の味方をするんだな。それとも俺のこと嫌い? もう死ぬ未来しか見えないんだよ」


 うわ言のように浅い発音で必死に言葉を紡ぐ。一応梅田と油井は幼馴染、親友の設定だ。わずかなる憐れみにでも今は縋りたい。


「あぁ、友達だよ。だからこそ間違った道を行こうとする梅田を見逃せないんだよ。ちゃんとケジメつけてこい。お前のことは俺が死なせないから」

 死ぬ未来しか見えないんだよなー、なんて言える訳もなく脱力が止まらない。油井のなんともありがたくない言葉を最後に意識を手放した。




 

「ねえ、星くん。なんで逃げるの? ずっと一緒って約束したよね? やっぱり足はいらないよね。あーでも斬っちゃうとこのお洋服似合わないか、あっでもオーダーメイドなら関係ないかな。後でお父様に素敵なテーラー聞いておこう! 」


 いそいそと周囲を歩き回る軽やかな足音と、甲高くも艶のある声が頭に響く。目を開くのが怖い。意識がまだ定まらないけどわかる。命の危機。楽に死ねたらいい方かな。

 少なくとも俺を生かす気はあるみたいだ。今の所。こぼれすぎた米は詰められて居そうだし。頬米には包帯かなにか圧迫を感じる。



「あれーっ、もしかして星くん目が覚めた? 私とおはなしましょう!」


 目を閉じていたのにバレた。覚悟を決めて目を開けば、鼻先に海老野の顔がある。

うわっ、と思わず後ずさろうと動けばガチャガチャと音が鳴る。想像はしていたが手足の自由はないらしい。

 監禁の末に壊される気しかしない。逃げねば。あと油井絶対ぶん殴る。

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