009 リオンが原作と違うんだけど。
「ナタリアーナちゃん、苦しいよぅ」
「あっ、ごめんね。痛かった」
「ううん、平気だよ」
俺に対する警戒心のあまり、ナタリアーナはリオンを強く抱きすぎたようだ。
その腕から解放されたリオンは大きく息を吐く。
そして、あらためて俺を見る。
「えへへ。オルソンさんと一緒のクラスだね」
「そうか。ちゃんと頑張ったんだな」
懐くリオンの頭を撫でる。
リオンはニッコニコだ。
主人に出会えた飼い犬のように。
俺はライバル意識を持たせるつもりで煽った。
だが、リオンの性別が女であれば、俺の行動は俺様キャラムーブ以外の何物でもない。
そして、それがリオンの好みにバッチリとハマったのか。
ステータスを見てみると――。
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名前:リオン
性別:女
年齢:15
LV:1
物理:D
魔力:E
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うん。やっぱり女の子。
レベル1スタートなのは、きっとゲーム準拠のせい。
レベルが上がった俺が特殊ケースなんだろう。
だが、原作ではEである物理値がDに上がっている。
物理値・魔法値を上げるのは容易ではない。
これは、本気で頑張ったんだな。
本来なら、復讐心に燃え、過酷な訓練を行ったはず。
だが、リオンはそれよりも厳しい修行を自分に課したのだ。
並大抵な覚悟ではない。
リオンが頑張った理由は、ステータスを見ればすぐに分かる。
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好感度:72
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好感度は最低が0で、最高が100。
初対面のヒロインは40~60。
リリアーナは50スタートだ。
80あれば、恋人関係。
すなわち、リオンは俺の彼女に近い状態だ。
コイツ、俺に認められたくて、こんだけ頑張ったのか……。
リオンの攻略が簡単そうなのはいいのだが、他のヒロイン攻略は任せられないだろう。
今のところはなんともも言えないが、この点は覚悟する必要があるな。
ともあれ、リオンはその努力によって、ゲーム通りにSクラススタートだ。
テスレガでは、Sクラススタートのヒロインが二人いる。
一人はここにいるナタリアーナだ。
もう一人は王女さまのファヴリツィア。
ナタリアーナはメインヒロインでツンデレキャラだ。
そして、一番チョロいヒロインだ。
あえて嫌われるような行動を取らない限りは簡単に落ちる。
プレイヤーのほとんどすべてが最初に体験するのはナタリアーナ・エンドだ。
ギャルゲーには、複数のヒロインが登場する。
それはプレイヤーの多様なニーズを満たすため。
メガネっ娘じゃなきゃダメ。
金髪ツインテ以外認めん。
巨乳こそ正義。
プレイヤーは自分の好みの女の子を落とそうと必死になるのだ。
だがそこに、制作会社アトランティックという大きな壁が立ちはだかる。
エンディングにたどり着くまでに迎える何十回ものバッドエンド。
投げ出したくなる気持ちを必死に抑えつけても、たどり着くのはナタリアーナ・エンド。
自分好みのヒロインのエンディングにはたどり着かない。
頭おかしいんじゃないか、と思うが、実際、頭がおかしいんだろう。
――ナタリアーナ・エンドまでがチュートリアルだよ。これで好きなヒロインを攻略できるようになるんだ。頑張ってね(笑)
とプレイヤーを嘲笑うかのごときアトランティックの悪意。
インタビューでこのようなコメントを発し、炎上騒ぎになったのだ。
そのときは殺害予告が出たとか出なかったとか……。
ともあれ、そんなチョロインなので、ナタリアーナは重要視していなかった。
放っておいても勝手にリオンとくっつくから問題ないと思っていたのだ。
けれど、こうなってしまったら話は別だ。
ナタリアーナ攻略も考えなければならない。
そんな俺の悩みをよそに、ナタリアーナは俺を睨みつける。
「首席だからって、調子に乗らないでよね。リオンは渡したりしないんだから」
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名前:ナタリアーナ
性別:女
年齢:15
好感度:35
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ナタリアーナは子どもをかばう猛獣のように殺気を隠そうともしない。
初対面だというのに、完全に敵認識。
対象が主人公から俺に変わっただけで、ゲームと一緒の反応。
いや、それ以上か。ゲームのときより好感度が低い。
ナタリアーナ攻略の難易度が上がってる……。
ちなみに、好感度が30未満だと、一緒にパーティーを組んでダンジョンに潜れない。
これは、ちょっとでも気を抜けない状態だ。
「ねえ、ナタリアーナちゃん。オルソンさんに失礼だよ」
リオンは落ち着いた穏やかな声でナタリアーナをたしなめる。
「でも……」
「オルソンさんはボクの恩人だし、彼がいなかったらボクはこの場所にいなかった」
その目からは悲しみが伝わってくる。
「ナタリアーナちゃんもオルソンさんと仲良くして欲しいな」
ああ、真っ直ぐで良い子だ。
現実になっても、性別が変わっても、リオンはリオンだ。
オルソンが大好きになったリオンそのままだ。
リオンはオルソンにとって初めてできた友だちだ。
オルソンが情報提供する友人キャラという立場をよしとしたのは、家庭の事情もあるが、リオンが彼にとって大切な存在だったことも大きい。
ゲームではハッキリとは描かれないが、要所要所で匂わされる二人の友情。
その結果、オルソンは人気投票で上位に選ばれたのだ。
「うん……」
本来、強気なはずのナタリアーナが勢いをなくして頷く。
俺もリオンに笑顔を向ける。
「安心して。向こうから突っかかってこない限り、俺はなにもしない」
そもそも、この対応が最適ルートなのだ。
ナタリアーナは「追えば逃げ、逃げれば追う」が行動方針だ。
軽くあしらうのが一番。
俺に素っ気なくされ、ナタリアーナは少し寂しそうだが、好感度は下がっていない。
「遅くなった。教室に向かおう」
「うんっ!」
「そうね」
俺たちは急ぎ足で教室に向かった――。
Sクラスの教室に到着する。
このクラスは20人。
主人公のリオン。
友人キャラのオルソン。
メインヒロインのナタリアーナ。
王女のファヴリツィア。
残りはモブキャラだ。
いや、もう一人いたな。
全員が席につき、担任の教師が説明を始める。
この担任も男性のモブキャラだ。
どこにでもいそうな中年男性。
現実となったこの世界で彼がどう関わってくるか分からないが、現時点ではどうするか保留だ。
簡単な挨拶、自己紹介が済み、明日以降の日程など、ガイダンスが続く。
教師が話してしているとき、ファヴリツィアがずっと俺の方を見ていたけど、無視だ無視。
さすがの王女さま、圧が凄い。
やがてガイダンスが終わり、解散になる。
待ちきれなかったとばかり、ファヴリツィアが立ち上がりかけたところで――。
「おいっ! オルソン! たかが木っ端貴族のディジョルジオ家が、姫様や俺を差し置いて、どういうつもりだ。目障りだからおとなしくしとけ」
次回――『決闘はワンパンだった。』
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