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004 修行はもっと痛い。



 ――それから何時間たっただろうか。


 時間の感覚はとうに麻痺した。

 百体までは数えたが、何体倒したかも忘れた。

 手足に力が入っているかどうかすら分からない。

 ただただ、苦痛だけが、生きていると実感させてくれる。


 スケルトンの群れを倒しきり、肩で息をする。

 【生きるとは(トゥ・リブ・イズ)死ぬこと成り(・トゥ・ダイ)】を解除し、 ポーションをあおったところで――。


「もうお止めくださいッ!」


 アルダに後ろから抱きつかれた。

 ああ、そういえば、彼女も一緒だったんだ。

 戦いに夢中で、そんなことすら忘れていた。


「アルダか……グッ……」


 戦闘中には麻痺していた苦痛が、遅れてやって来て全身を這い回る。

 生まれて初めて感じる激痛。

 身体が千々に引き裂かれ、砕け散りそうだ。

 いっそ、殺してくれ――。


 アルダの腕を離れ、その場に崩れ落ちる。

 耐えがたい痛みに、のたうち回る――。


 ――永遠に続くかと思った痛みは、急にスッと消え去った。何事もなかったかのように。

 ポーションが効いてきたのだ。

 残ったのは全身びっしょりのアブラ汗と荒い呼吸だけだ。


「はあはあはあ――」

「オルソン様ッ! 大丈夫ですかッ?」


 深呼吸を繰り返し、だんだんと呼吸を整えていく。

 どれだけの時間がたったのか――気がついたら、アルダの腕に抱きかかえられていた。


 なんとか落ち着いてから、俺は立ち上がる。

 そして、アルダに視線を向けると――。


「なんで、泣いてるんだ?」

「とても見てられませんでした」


 スッとひと筋、彼女の黄色い瞳から涙が零れる。


「ああ……ごめん」


 謝る俺に、アルダは首を左右に振る。

 それがきっかけとなったのだろうか。

 猫のように光る瞳がぐにゃりと歪む。

 次の瞬間――彼女の涙腺が決壊した。

 その場にしゃがみ、両手で顔を覆う。

 すすり泣く音だけがしばらく続いた。


 あまり深く考えずにやってしまったが、自分の行動を客観的に見ると、アルダの反応は当然だ。

 彼女に心配をかけさせてしまったのは、大変申し訳ない。

 反省のために拳を固く握りしめ、彼女が落ち着くまで、目を逸らさず丸くなった背中をジッと見続けた。

 嗚咽が収まってきた彼女に言葉をかける。


「俺にはこれくらいしかできないから……」


 オルソンも強さを得るために、この痛みに耐えたんだ。

 俺は彼よりも強くならなければならない。

 彼の何倍もの苦痛とつき合っていくしかない。


 ――使っているときは我慢できる程度だったが、解除するとまとめて痛みがやってくるんだな。


 これからはこの痛みと一緒に歩いて行く。

 俺が強くなるに合わせ、痛みも強くなる。


「最強を目指すと言っただろ」

「でも……」


 目が腫れた彼女は、それ以上なにも言えなかった。


「君のオルソンを奪ったんだ。これくらい、罰のうちにも入らないよ」


 ここまで無茶をするのは、最強を目指すため。

 大切なアルダや他のヒロインを救うため。

 それが一番大きな理由だが、俺が踏ん張れたのは――自責の念があったからだ。


 俺は奪ってしまった。

 オルソンのすべてを。

 アルダのオルソンを。


 この日をきっかけに俺とアルダの関係は近づき始めた――。


   ◇◆◇◆◇◆◇


 ――修行を開始してから半年がたった。


 この半年で、俺は彼女の信頼を得た。

 身体を、命を賭けて修行に打ち込む姿で、彼女は俺を認めてくれた。

 修行開始当時では考えられないが、今では俺を気遣ってくれるまでになった。


 ちょっと無茶をすると悲しそうな顔をする。

 俺を止めたいのだろうが、グッと拳を握ってこらえる。

 彼女にそんな思いをさせるのは気が引ける。

 だが、それでも、俺は戦わなければならない。


 強くなったことも嬉しいが、彼女と心が近づいたことの方が嬉しかった。

 彼女の想いを感じられたから、俺は折れずにここまでやれた。


 今は俺一人。

 アルダはポーションや食料などの物資を買いに街に行っている。

 ムチャクチャな戦い方をしているせいで、最近は一週間でポーションが尽きてしまう。

 出かける際に、「絶対に無理はしないで下さいね」と念を押された。


 ともあれ、一人になっても、やることは一緒。

 いつも通り『 【生きるとは(トゥ・リブ・イズ)死ぬこと成り(・トゥ・ダイ)】』でバフと痛みを得て、モンスターを狩っている。


 モンスターを倒すと、レベルアップを告げる通知がピコンと鳴る――。


 そろそろ、来る頃だなとは思っていたが……。

 よりにも、アルダがいないときだったか……。


□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□


 名前:オルソン・ディジョルジオ

 性別:男

 年齢:13

 LV:15

 物理:D

 魔力:D

 メインスキル:闇魔法

  サブスキル:短剣術

 レガシー:


□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□


 ――レベル15。そして、物理・魔力ともにランクアップ。

 ここまで長かったが、ようやく修行の第三段階に移れる。


「ふぅ」


 【生きるとは(トゥ・リブ・イズ)死ぬこと成り(・トゥ・ダイ)】の痛みには慣れた――痛いのは変わらないが、戦闘に影響がでないようになった。

 だけど、この先は……。


「まあ、やるしかないよな……」


 ここまできて、止めるという選択肢はない。

 俺は覚悟を決める。

 さあ、行くぞッ!


 『――【我が友、それは(マイ・フレンド・)――苦痛なり(オブ・ミザリィ)】』




   ◇◆◇◆◇◆◇




「オルソン様ッ!」


 買い出しから戻ってきたアルダは、俺を取り囲んでいたモンスターに襲いかかり、あっという間に全滅させた。


「横取りはよくないよ」


 俺の言葉はアルダの耳には入らず、彼女の視線は俺の右腕に釘付けだ。

 いや、正確には、右腕のあった場所だ。


「ああ、気にするな。モンスターにやられたわけじゃない。自分で斬り落としただけだ」


 傷口を焼いて止血したが、俺の右腕は肩から先がなくなっている。


「汚れるぞ」

「そんな問題ではないです。なんで、そんな無茶を……」

「ああ、戦闘中に腕をなくしたからといって、戦えなくなったら困るだろ? そのための訓練だ」

「そこまで……」

「ああ、そこまでだ。そこまでしないと、最強には至れない」

「ですが……今すぐポーションを」

「必要ない……グッ」


 強がってみせるが、右肩に激痛が走る。

 戦闘中は気にならないのだが、気を抜くとこれだ。

 アルダは俺の身体をギュッと抱きしめる。

 身体が小刻みに震えている。

 傷口に彼女の涙がポトリと垂れる。


「心配してくれてありがとう。でも、やるしかないんだ」

「…………」

「新しく覚えたスキルを使うために、どうしても必要なことなんだ」

「新しいスキルですか?」

「ああ、【我が友、それは(マイ・フレンド・)――苦痛なり(オブ・ミザリィ)】。それが新スキルだ」

次回――『修行はムチャクチャ痛い。』


楽しんでいただけましたら、ブックマーク、★評価お願いしますm(_ _)m

本作品を一人でも多くの方に読んで頂きたいですので、ご協力いただければ幸いですm(_ _)m


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