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015 午後は実践授業だ。



 ――午後は実践授業だ。


 実践授業では物理コースと魔法コースに分かれ、戦い方を学ぶ。

 どちらを選ぶか――これがテスレガで最初の分岐点で、最も大切な分岐のひとつだ。

 この選択によって、一ヶ月後のクラス正式配属時に、登場するヒロインが変わるのだ。


「オルソンさんは、どっちにするんですか?」

「オルソンでいい。さん付けは不要だ」


 ゲームを知っている俺からすれば、リオンに「さん付け」で呼ばれるのはむず痒くてしょうがない。


「俺たちは対等な生徒だ。それに……」


 その先を言おうとして、恥ずかしさで止まってしまう。

 だけど、俺は勇気を振り絞って――。


「俺とリオンは……友だちだろ?」


 リオンは一瞬、ポカンとした表情を浮かべ、すぐに満面の笑みを浮かべる。


「うん! ボクたちは友だち!」


 リオンは顔を赤くして言葉を弾ませる。

 それを見て俺はドキッとする。

 女になったリオンの一挙一動が可愛いとは……。

 俺は誤魔化すように話題を戻す。


「俺は物理を選ぶ」


 理由はいくつかある。

 まず、魔法科は俺にとってあまり意味がない。

 一人で特訓した方が効率的だ。

 逆に物理科では、プレイヤースキルを高められる。


 そして、もうひとつ。

 ナタリアーナが魔法科に進むからだ。

 下手に絡まれて、好感度を下げるわけにはいかない。

 なにせ、彼女の好感度は崖っぷち。

 少し下がるだけで、一緒にパーティーを組めなくなってしまう。

 彼女ルートから離脱しないために魔法科は避けたい。


「じゃあ、ボクも!」


 リオンがピシッと手を挙げる。

 幼く見えるリオンは、背伸びした子どものようで可愛い。


「理由は? 俺がいる方って理由なら、止めた方がいいと思う」

「ううん。最初からそのつもりだった。オルソンに助けてもらった日から。あのときのオルソンの背中が忘れられないんだ」

「なら、いいと思うよ」

「ちょっと待ってよ。なに、二人でいい雰囲気作ってるのよ」


 ナタリアーナが割り込んできた。

 寂しがり屋さんだ。


「二人だけ一緒にはさせないわ。私も物理科にする」


 その言葉に俺は喜びも怒りもしない。

 淡々とした口調で告げる。


「そんな不純な動機で決めるの?」

「……っ。でも……」

「だとしたら、失望する」


 痛いところを突かれたと、ナタリアーナは唇を噛む。

 想定はしていたが、やはり、こうなるか。


 ゲームでは、リオンとナタリアーナの二人はハイブリッドタイプだ。

 残念なリシパとは異なり、物理も魔法も十分に使いこなせる。

 なので、二人は物理科と魔法科、どちらでも選べる。


 リオンは主人公補正で、どちらを選んでも最強(オルソンを除く)になれる。

 攻略したいヒロインに応じて選択するのだ。


 それに対し、ナタリアーナはリオンと反対を選ぶ。

 プレイヤーがどっちを選んでも、二人は物理と魔法、お互いに補い合って戦うことになる。


 ちなみにナタリアーナが反対の科を選ぶのは、彼女がツンしてるからだ。

 「アンタと同じ科なんて、絶対にイヤ!」というわけだ。


 メインヒロインがしょっぱなから離れていくとか、ギャルゲーとしてどうなんだ――それが一般的な感覚だろうが、そこはテスレガだ。


 ゲームでは異性のリオンを避けたがる。

 一方、この世界では同性のリオンと一緒にいたい。


 俺は試すような視線をナタリアーナに向ける。

 彼女はそれを避けるようにうつむく。

 リオンはどうしていいのか、おろおろしている。


 これ以上いじめるのはかわいそうだ。


「そもそも、ナタリアーナはリオンと一緒にいたいんだよね」

「…………」

「だったら、それこそ、別のコースを選ぶべきだよ」


 俺の発言意図が分からないようで、ナタリアーナはキョトンとしている。

 リオンもいまいち分かっていないようだ。


「俺はリオンとパーティーを組むつもりだ。リオンもそうだろ?」

「もちろんっ!」

「それがどうしたのよ」

「同じパーティーに三人も物理職はいらない」

「あっ……」


 ポンコツナタリアーナも、ようやく察したようだ。


「わかったわよ。魔法科にいけばいいんでしょ」

「それだけじゃだめだぞ。俺の強さは知ってるだろ。リオンも強くなる」

「悔しいけど、アンタが言う通りね」

「ついてこられないなら――分かってるよね?」

「見てなさいよ。強くなってビックリさせてあげるからねっ」


 捨て台詞を残して、ナタリアーナは魔法科の演習室に向かった。


□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□


ナタリアーナ


好感度:35→36


□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□


 今のやり取りでナタリアーナの好感度が1上がった。

 うん。だいたいこんな感じでやればオッケーなんだな。

 ナタリアーナの好感度上げ方法が分かり、俺は安心した。


「ボクたちも行こっ、おっ、オルソン」


 慣れない呼び捨てに、少し頬が赤い。

 純粋で真っ直ぐなリオン。

 原作とは違う展開だが、良い友だちになれそうだ。

 問題はその先だが……今は考えないで行こう。


 俺の手を掴み、リオンは歩き出す。

 小さな手。温かい手。柔らかい手。

 散歩に連れて行かれる犬のようだ。


 リオンに手を引かれ、物理科の演習室に向かった。


 物理科の教師はマッチョで脳筋なオッサンだ。

 テスレガでは要所要所で濃いオッサンが登場する。

 この教師も名前のないモブキャラだけど、後に生徒をかばって死ぬという設定だ。


「おう、ガキども。俺はビリーだ。Sクラスの物理科を担当する」


 当たり前だが、この世界ではモブキャラでもちゃんと名前がある。

 Sクラスの物理科を選んだのは10名。

 俺、リオン、リシパ、後はモブだ。


 皆、制服姿で手には各々、得意な武器が握られている。

 俺はダガー。リオンは直剣だ。


 ゲームにおいては、ほとんどのキャラに得意武器が決まっている。

 例えばおれのセカンドスキルは【短剣術】。アルダは【双剣術】。


 しかし、主人公とメインヒロインであるナタリアーナにはそれがない。

 どんな武器や魔法でも使える。どれを選んで育てるかはプレイヤー次第だ。

 だが、死にスキルという罠がふんだんに散りばめられて、選択次第では確実に詰みというのがテスレガだ。


「俺の授業は甘くねえ。なに、演習場ではどれだけボロボロになっても、怪我も死にもしねえ。だから、容赦は一切ねえからな」


 ビリー先生の言葉に、何人かが唾を呑み込んだ。

 平気なのは俺とリオン。

 リシパも気合いが入っている。


「気ぃ抜いてると、一ヶ月でお別れだ。根性入れろよ」


 実際、ゲーム内ではこのうち何人かがAクラス落ち。

 入れ替えで新しくヒロインを登場させるためだ。


「本来なら、最初の授業は俺とのタイマンだ」


 教師とのタイマンがゲーム通りなんだけど、この言い方だと違いそうだ。


「名門テスタメンティア学園。そのSクラスに入れたことで調子に乗ってる奴が多い。お前たちの実力を把握するとともに、お前らの鼻っ柱をへし折ってやるってのが恒例なのだが――今年は予定変更だ」


 ああ、なんとなく展開が読めた。


「俺の代わりに――オルソン、お前が戦え」


 やっぱりか。

 俺としても、都合がいい。

 昨日のリシパ戦は瞬殺したので、クラスメートとの差がどれだけあるのか分からなかった。

 それを確認できるのは、良い機会だ。


「いいか、オルソン?」

「ええ、もちろんです」

「昨日、決闘騒ぎがあったようだな。見た奴は分かるだろ? オルソンは強えぞ。半端な気持ちで挑むなよ。ぶっ殺してやる、くらいの気持ちで挑め」

「はいっ!」


 クラスメイトは皆、元気な返事をする。

 モブとはいえ、この学園のトップSクラスに入学したエリートだ。

 それなりの気概は持ち合わせている。


「ちなみに、バフ含め、魔法の使用は一切禁止だ。いいな?」

「はい」

「じゃあ、最初は――」


 呼ばれた生徒が戦闘の開始位置に移動する。

 俺も移動しようとしたところで、ビリー先生に声をかけられる。


「オルソン」

「なんですか」

「一分は待ってやれ」

「倒し方は?」

「ぶっ殺して構わねえ」

「分かりました」


 その気になれば、一瞬でケリがつく。

 だが、この模擬戦は生徒の能力を測るものだ。

 しっかりとビリー先生の期待に応えよう。


「よし、最初は――」


 一番手は弓使いの生徒。

 昨日と同じく20メートル離れて向かい合うが、戦う前から腰が引けている。

 よっぽど、リシパとの決闘が衝撃的だったのだろう。


 ビリー先生が彼の元に歩み寄る。


 ――パァン。


 彼の尻を思いっきり叩いた。


「気合い入れろやっ!」

「はいっ!」


 活を入れられ、彼の顔から怯えが消えた。

 模擬戦では怪我したりしない。

 そのことを思い出したのだろう。

 ビリー先生は優秀な教師のようだ。


 俺はダガーを構え、始まりの合図を待つ。

 二年間、愛用したダークダガーではなく、ゲームの初期装備である学園支給の普通のダガーだ。


「では、始め――」

次回――『オルソンVS残り全員。』


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