001 主人公の友人キャラに転生する。
「……………………オルソンだ」
中世ヨーロッパ風な貴族の部屋。
鏡に映る自分の姿を見て、俺は呟く。
――オルソン・ディジョルジオ。
ファンタジーRPG『テスタメンティア・レガシー』の登場キャラの一人。
ステータスと念じると――。
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名前:オルソン・ディジョルジオ
性別:男
年齢:13
LV:1
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間違いない。ゲーム転生だ。
俺はオルソンに転生したようだ。
年齢は13歳。
ゲーム開始の二年前だ。
ゲーム転生といえば、主人公や悪役キャラに転生するのが定番だが、オルソンはそのどちらでもない。
彼の立場は――主人公のサポート友人キャラ。
『テスタメンティア・レガシー』――通称、『テスレガ』はギャルゲー要素も含んだRPG。
その中で、オルソンの役割は、主人公がヒロインたちを攻略するために、主人公にヒロインの情報を提供することだ。
「オルソン様、いかがなさいましたか?」
凜とした声。その中には僅かに不安が揺れていた。
聞き間違えがない。彼女の声に涙が出そうになる。
俺が振り向くと、予想通り、そこにいたのはメイド服姿のダークエルフ。
前髪を斜めに切りそろえた青いボブカット。
黄色い猫目は下が弧を描くように凹んでおり、猫のような印象を与える。
彼女の名は――アルダ。
オルソンの従者で、彼のためなら、死をも厭わない。
俺が『テスタメンティア・レガシー』で一番推していたヒロイン。
いや、推していたどころではない。一番愛した女性だ。
「オルソン様……」
黙り込む俺に、再度、アルダが声をかける。
よかった。生きている。アルダが生きてるんだ。
「大丈夫。なんでもない。少し、考えさせてくれ」
「承知いたしました」
彼女はなにか言いたそうだったが、俺が顔を背けたので口をつぐんだ。
俺は零れそうになる涙を彼女に見せないよう、窓際のソファーに座る。
これから俺はどうすべきか――と、ここまで考えて、俺は気がついた。
前世の記憶がない。
テスレガをプレイしていたことや、テスレガに関する情報は詳細に覚えている。
だが、それ以外のすべて、名前も年齢も、家族や知人のことすら、一切、覚えていない。
俺はテスレガにハマった一人で、人生をかけてプレイした――思い出せるのはそれだけだ。
――それにしても、オルソンか。
友人キャラであるオルソンは、男なのに人気キャラだった。
人気投票ランキングでは、多くのヒロインを押しのけ三位になったほどだ。
開発側も並々ならぬ思い入れがあるようで、設定資料集にはメインヒロイン以上の裏設定があったほど。
なぜ、彼が友人ポジションに甘んじていたのか。
主人公に並ぶイケメン。戦闘能力も高く。なにより、その人柄は誰をも惹きつける。
むしろ、主人公よりモテモテじゃん。オルソンが主人公やれよ――などと言われる始末。
実際、彼に好意を持っているヒロインは複数存在する。
それなのに、オルソンはどのヒロインとも距離をおき、一定以上の関係にはならない。
ゲーム内では分からないが、それにはちゃんとした裏設定――家庭の事情――がある。
設定資料集でそれが明らかになり、ますますオルソンの評価は高まったのだ。
そんなオルソンに転生した今、俺がすべきこと。
それをひと言で表すなら――破滅回避。
『テスタメンティア・レガシー』はキャラが死ぬ。簡単に死ぬ。
選択をミスれば、それだけでヒロインが死ぬ。
特定のヒロインを攻略すると、他のヒロインが死ぬ。
しっかり鍛えないと、主人公も死ぬ。
その中でも、オルソンは――どのルートを通っても確実に死ぬ。
俺を含め、多くのプレイヤーがオルソンの死を回避するルートを必死になって探した。
だが、いくらやっても見つからず、運営が「オルソンが助かるルートはない」と公式発表した際には、SNSで大炎上したほどだ。
オルソンの役目は友人キャラ。そして、もうひとつが絶対に救われないキャラ。
これこそがオルソン人気の最大の理由だ。
そんな彼に転生した今、最優先しなければならないのは、オルソンの死を回避すること。
そして、同じく最優先すべきは――。
「アルダ……」
オルソンが死ぬとき、アルダルート以外ではアルダも殉じる。
冷たくなっていくアルダの亡骸を抱えたまま、死んでいくオルソン――彼に感情移入しすぎて涙が止まらなかった。
何度、泣いたか分からない。
あの悲劇は繰り返させない。
絶対にアルダを死なせない。
学園編開始までの二年。
神が俺にくれた猶予だ。
そのために、最初にすべきは――。
「父上に話がある」
俺は自分の運命を変えるべく、さっそく行動に移る。
二年間という短い時間。ひと時も無駄には出来ない。
俺はアルダを伴い、父の執務室を訪れる。
執務中だった父は俺の真剣さを感じ取ったのだろう。
書類仕事を止め、居住まいを正し、咳払いをひとつ。
「オルソンか。その顔、なにやら、話があるようだな」
「はい、父上」
「話してみよ」
「俺に二年間の猶予をください」
父は俺からアルダへと視線を移す。
背後に立つ彼女の顔は見えないが、父は感じ取ったのだろう。
俺の言葉が伊達や酔狂ではないと。
「二年……学園入学までか?」
「その通りです」
「どうするつもりだ?」
「やりたいことがあるのです」
「当家の役割は理解しておるな?」
「もちろんです」
ディジョルジオ家は中位貴族だ。
大きな権力は有さず、かといって、軽んじられるわけでもない。
どこの派閥にも与せず、どの派閥とも敵対していない、中立派だ。
毒にも薬にもならず、放っておかれている。
それがディジョルジオ家の立場だ――表向きの。
王家の者以外にはほとんど知られていない裏の顔がある。
真の役割は調整役――『バランサー』。
国内にはいくつかの派閥がある。
どれかの派閥が力を持ちすぎないように、裏で暗躍する仕事だ。
独自の諜報機関と暗部を持ち、必要とあればは汚れ仕事も厭わない。
目立たぬ中庸貴族というのは絶好の隠れ蓑だ。
この家庭の事情こそが、オルソンに友人キャラを強いるのだ。
ヒロインたちは皆、特定の派閥に属している。
ヒロインと仲良くなることは、その派閥と近くなること。
テスタメンティア学園に入学し、同世代の派閥争いを調整する。
それがオルソンに課された学内での役割のはずだった。
しかし、そこにひとつの異分子が混入する――主人公リオンだ。
彼の存在によって、オルソンの目的が変わる。
平民出身のリオンは、スタート地点ではどの派閥にも属していない。
だが、彼の力は王国のバランスを崩しかねないほど強力。
彼が特定のヒロインと結ばれても、派閥に取り込まれないようにする。
それがオルソンに新たに与えられる役割だが――現時点でそれを知っているのは俺だけだ。
「当家の方針は中庸中立。それは胸に刻んでおります」
リオンのことは話せないので、別の理由が必要だ。
父を納得させるための理由が。
「だが、違う方法も可能であると思った次第です」
「ほう。話してみよ」
父は笑みを湛える。
彼は家長として、冷酷に振る舞わねばならないこともある。
けれど、家族にとっては優しい夫であり、父である。
今も、俺が自発的に相談を持ちかけたことに好意を持っているようだ。
とはいえ、一切の甘さはない。
あくまでも優先させるのはディジョルジオ家の事情。
「誰かに取り込まれるのを避けるのではなく、すべてを取り込んでしまえばいい――それが俺の目指す道です」
一言のもとに切り捨てられる可能性もあった。
だが、父の表情はそうではないと告げている。
父も一度は考えたことがあるのかもしれない。
確かに、それができれば最良だ。
ただ、それは遥かに困難な道だ。
実現不可能として諦めて当然だ。
父は俺の目をジッと見る。
瞳の奥にある覚悟を視る。
「――そのための二年間か」
「はい。父上に満足していただけなかった場合には、それ以上はなにも望みません。ディジョルジオ家のために、すべてを尽くします。家督を弟に譲っても構いません」
「アルダよ。こやつはこう言っておるが?」
「私がついていれば、なんの問題もないかと」
彼女は俺の従者という立場だが、その忠誠は俺ではなく、ディジョルジオ家へ向けられている。
ゲームの進行を通じて、家よりもオルソン個人に忠誠を誓うようになるのだが、現時点では家を優先する。
俺の行動が家のためにならないと判断すれば、即座に俺の計画は中断させられる。
いわば、お目付け役だが、今はそれで構わない。
「俺は強くなります。二年間で、父上を満足させるだけの力を手に入れてみせます」
「よかろう」
しばらく考えた後、父は破顔した。
「二年後、楽しみにしておるぞ」
「必ずや――」
次回――『ヒロインたちを、世界を救うと決意する。』
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