桃太郎「キジ採用!」 熊「ちょっと待ったア!」
桃太郎は鬼退治に出掛けました。腰の袋には日本一のきび団子。背中には日本一の旗を挿し、腰には刀、具足を着用して意気揚々です。
途中で犬、猿をお供に加え、山に差し掛かりますと、ケーンと一声鳴いたのは雉でありました。
「桃太郎さん、桃太郎さん、ものものしいいでたちでどちらにおいでに?」
「うむ。鬼ヶ島に鬼退治である」
「それはそれは素晴らしい! お腰につけたきび団子を頂ければ私もお供いたしますよ」
「うむ。頼もしい。よろしく頼む」
と三匹のお供が揃ったところで声でした。
「ちょっと待ったア!」
「なにやつ!?」
藪から飛び出てきたのは大きな熊だったのです。
「その雉がお供とはちゃんちゃらおかしいクマ。どう見ても戦力になどなりゃしないではないですかクマ。どうぞこの熊めをお連れくださいクマ。そのあかつきにはきっと勝利を飾ることでしょうクマ」
と語尾にクマを付けての自薦です。桃太郎が何かを言いかけると、今度は竹林からの声でした。
「熊に鬼退治はちょっと荷が重すぎやしませんか!?」
「それをいうのは誰だクマ!」
そちらを見てみると八尺はあろう大きな虎です。虎は身体を揺すりながらやってきました。
「あっしは大陸から出てきた虎でございますトラ。熊なんかより身体能力は高いですトラ。ジャンプ力は自身の身体の三倍トラ! 爪や牙で鬼どもを蹴散らしますトラ! どうぞあっしをお供にトラ!」
トラトラ続くと大変に読みにくい。自己アピールなのに、トラの文字に目が奪われて何がなんだかでした。と、その時!
「大陸の助っ人とは、日本に人なしとお思いですか!?」
「その声は誰トラ!?」
見ると海から大ジャンプしてこちらに着地。それは大きな鱶でした。鱶とは鮫のことなのです!
「私は数億年姿形が変わらない生きた化石フカ! なぜ変わらないか? それは進化する必要がないからだ! 下等な生物ほど進化をしたがるッ! この鱶こそ究極生命体なのだ、フカ!」
セリフの最後にフカを入れたのはどうやら途中から設定を忘れて最後に思い出しからでしょう。
だが言い終わると喘いでいました。
「大丈夫?」
「ゼィゼィ。一回海に戻っていいフカ?」
その時、山の中から声が上がりました。
「その程度で息切れとは、究極生命体が聞いて呆れウルウル!! この俺様こそ地上最強、狂暴な邪悪ウル!」
しかし現れる気配がありません。面倒くさいですが仕方なく一行は山の中に入っていきますと、その狂暴な邪悪はそこにいました。
「へいへい触って見るウル! こちらから攻撃せずともお前らは勝手にかぶれてくウル! この漆さまこそ究極生命体ウル! 鬼どもをかぶれさせて全身カユカユにしてやるウル!」
一同大きく頷きました。
「まあ魚類とか植物はおいておくとして……。桃太郎さん、一体誰を選ぶクマ?」
「当然一日千里を走るこのトラですよトラ?」
「ゼィゼィ。このフカさまを忘れるんじゃねぇフカ……。すいません、どなたか海水をフカ……」
「へいへい。オイ、誰か俺様を鉢に入れて運搬しろウル!」
黙っていた桃太郎でしたが、その重い口を開きました。
「うむ。私が求めているのは正面から突撃する勇猛果敢な強者ではない。我々は至弱を以て至強にあたらねばならん。弱いと見せかけて強くなくてはならないのだ。夜陰に乗じて山肌より猿が、空より雉が、正面から私が、後方より犬が奇襲をかければきっと鬼の砦は混乱して瓦解するだろう。それに雉ならば偵察や間違った情報を流し、相手を油断させることができる。それこその雉なのだよ」
と説明すると、全員目から鱗でした。
「こりゃクマった!」
「一本トラれた!」
「フカク! 目がサメました!」
「感動してウルウルシちゃった!」
みんな納得の二字でした。桃太郎は分かってくれたみんなの肩を叩きました。漆にだけは手袋をしてですが。
「分かってくれたか。どうだい。みんなで一つ歌でも歌おうじゃないか」
そしてみんなで楽しく桃太郎を称える歌を歌ったのでした。
雉は一人思いました。
自分は鳥だから夜は鳥目なのでその作戦はちょっと厳しい……。
でもこの雰囲気なので黙っていようと──。