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シノノメナギの恋わずらい  作者: 麻木香豆
第三章

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会いたい会えない

 手術は無事成功したと慶一郎さんから連絡があった。だけど体力的にもかなり消費してしまったとのことで話すこともできないって。でもわたしの声は聞きたいとか言ってたみたい。


しばらくはあっちから連絡が来るまでは控えておこうと思った。ああ、今すぐ抱きしめたい! でもできない。もどかしい気持ちであった。

 慶一郎さんの声が不安を少し和らげてくれる。少し声が似てるから常田くんと話している感じもしたけどやっぱり違う。



 それから数日経ち、連絡は無かった。メールだけでも慶一郎さんのところに送ろうかしら。


「梛、常田くんから連絡はあった?」

「術後には連絡あったんですけど、それからは……」

 夏姐さんも心配しているようだ。なんとなく彼女は最近穏やかで柔らかくなった気もする。服の色も明るめだし。マスクの色もピンク。少し前の彼女ならグレーか黒を選ぶだろう。

 次郎さんとのお付き合いがうまくあってるのかしら。羨ましい。


「やっぱり、梛があまり元気ないから何かあったんじゃないかって心配してたの」

「でも大丈夫です、来月にはあっちに行く予定なので」

「おうちは見つかった?」

「なかなかいい条件のところが見つからなくて。最悪しばらく常田くんの実家にって家族の方に言われて」

 夏姐さんはそれを聞いてわたしをじっとみてる。


「あっちの家族と同居だけはやめな。どこでもいいから二人で暮らしたほうが絶対いいから!」

 ……お母様もそういうこと言ってたけどお父様がどうしても見つからなかったらしばらくはいいぞ、と言ってくれたけど、離婚経験ありの夏姐さんからそう言われると説得力あるのよね。

 でも給料下がるし、それに見合った家賃のところがないし、家賃を下げると通院や通勤が不便になる。

 簡単に常田くんのそばにいる! というのは難しいことだ。

 しかも常田くんとは連絡取れないからとわたしが探すね、とドーンと言っちゃったからなぁ。


「梛、また連絡取れたら教えてね」

 夏姐さんも常田くんのことを心配してくれている。なのに連絡がない。

 夜、とりあえず慶一郎さんにメールを入れた。でも返ってくることはなかった。




 一方、周りの状況が少しずつ変化してきた。図書館だけでなく建物や行く先々の店の前には消毒スプレーが置かれるようになり、マスクを着用する人が多くなった。

 ニュースでは新型ウイルス関連のニュースが日に日に増えてきてマスクも品薄になってきた。わたしは見つけたらすぐ買うようになった。

 常田くんはマスクあるかしら。それも気にして多めに買おうとしたら1日二箱まで。転売して高く売るという悪どいことをする人もいて本当に必要な人に届かないってなったらどうするのよ、と嘆くしかない。


 いつものように仕事をする。変わらず仕事をするが世の中はだんだん不安の渦に巻き込まれているようだった。


 そしてようやく慶一郎さんから電話が来たのだ。仕事中だったので休憩中に折り返し電話をする。


『梛さん、すいません……なかなか連絡できなくて。元気にしてます?』

「元気にはしてますが、常田くんに何かあったのかって心配になって」

『そやろな、と思ってたんです。こっちでいろいろあって、そのね』

 なんか穏やかでない口調。よそよそしいというか。それよりも常田くんはどうなの? 大丈夫なの?


『そのですね、おかんが家出しましてね』

「ええっ!」

 と驚いたようにリアクションをしていたが、聞いてた通りだったがまさかこんな一番そばにいてくれなきゃ困る時にお母様が家出するとは……。


『居場所は分かっとるんですが帰らないと言ってるんですよ……それのせいで浩二がショックで体調崩して目眩や貧血でさらに寝込んでしもた』

 ……そりゃそうよ、ショックで体調崩しちゃうわよ。お母様、なんてことを!

 ああ、そばにいてあげたい。いますがにでも行きたい。


『本当は梛さんにきてもらうのがありがたいのですが感染症予防で家族でさえも制限があって……入れた時に電話もするか? て聞いたら憔悴しとったから無理やった……携帯も見ることもしないからな。連絡出来んくってすまない』


 ……常田くん。


 そしてまた刺さる家族、という言葉。家族にはなれない、そして家族でさえも会うのに制限がある……。


 会いたい、会いたい、会いたいでも会えない。少し前に流行ったラブソングみたいな感情はこんなに苦しいだなんて。

 仕事の休み時間終わってもふと手を休めると涙が出そうになる。

「梛、あんたは中に入ってな」

 夏姐さんには休憩上がりの前に伝えたけどさすがにわたしの状況を見てダメだと思ったのよね。

 わたしは涙を堪えながら事務所に向かった時だった。


「梛さん」

 その声は……。


「ご無沙汰しております、遅くなりましたが今年もよろしくお願いします」

 仙台さんがにこやかに立っていた。

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