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シノノメナギの恋わずらい  作者: 麻木香豆
第二章

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おでん食べながら

『……わざわざありがとうね。梛さん』

「いえ、朝ご飯美味しかったですし、お礼が言いたかったんです……それと……」

『ああ、うん……』


 仕事から帰ってきて先に帰ってた常田君がおでんを煮込んでいる間にわたしあたては慶一郎さんと電話をした。

 もう大阪に帰っているようだが、わたしの正体はお父様とかに伝えたりはしてないよね……。仕事の時ずっとそのことばかりで頭がぐるぐる。


『びっくりしちゃった。寝顔可愛かったんやけどねー。……浩二が結婚はせん、子供は作らへんって頑なに言うからなんのことやろと思ったらそう言うことなんやね』


「は、はい……」


 わたしはあの夜、眠すぎてナイトキャップつけずに寝ていた。カツラも床に落として。それを慶一郎さんに見られてしまったのだ。


 ああっ、もう終わりだわ……私たちの関係。家族全員で常田くん抜きで家族会議が行われているわ、絶対。


『べつにええんとちゃう?』

「は、はい?」

 かなりあっさりと返答されて二度聴きしてしまった。

『オカンがな、男女隔たりなく人を愛しなさいって僕らが子供の頃に言っとったんやー。まぁ浩二は人見知りやし、ましてや可愛い女の子には声をかけれないし、かと思ったら口開けば気持ちとは裏返しのきついことばかり言うしなぁ。まぁ昔よりも丸くなったほうやでー』

 ……そ、そうなんだ……。常田くんは慶一郎さんとわたしとの会話を気にしながらも卓上コンロの上におでんの鍋を置き、ぐつぐつ煮る。美味しそう。早く食べたい。


『でもおかんはああ言ったものの、同性愛っつーのは認めないだろうな。そういう意味で言うたわけやないだろうし……僕は応援しとるで、梛さんべっぴんさんやから』

「あ、ありがとうございます……」

『……またなんかあったら個人的に今日見たく気軽に電話しーやー。まだ梛さんのことも家族には内緒にしたるで』

「は、はい」


 やだ、慶一郎さんたら……。個人的にって。声もいいしドキドキしちゃう。わたしって声フェチなのかしら。

「なーぎー」

 はっ、またやきもち常田くん。……わたしもわたしよね、いい加減にしなきゃ。

「いただきます」

「いただきます」

 二人で手を合わせて食べ始める。おでんを食べながらどっちから話を始めるのだろうか。

 茹で卵……わたしは丸ごとパクッと食べるのが好き。出汁や味噌の中に黄身が混ざるのが気持ち悪くて嫌いだから器に入れてすぐ食べる。

 反対に常田くんは味噌や出汁に黄身が混ざっても平気と言うかそれがむしろ好きみたい。わざとやってる。でも猫舌。熱熱っと言いながら食べている。

 ……こんなんじゃ普通のご飯タイムじゃん。わたしから話さないと。

「「あのさ」」

 と同時に声を発してしまった。そしてどうぞどうぞと譲り合う。……じゃなくてさ。なんかあたふたしてしまうけど常田くんがジッとわたしを見た。この顔はとても真剣な時の顔。


「梛……大阪についてくるか?」

「……」

 ストレートにきたっ。びっくりして声が出ない。

「即決出来へんやろ、せっかく希望してた図書館の異動決まったし……」

「……そうだけど……常田くんについて行きたい」

 それが本心だけども、でも……。


「梛の人生や。大学でも児童文学専攻したったんやろ、あの図書館は全国の児童図書館の中でもええところやし、他に無いチャンスや。大阪ですぐ見つかる保証ない、諦めんといて欲しい」

 常田くんはわたしについてきて欲しいんじゃないの?


「ほんまは離れとうない、そばにいて欲しい。でも今はスマホでネットで繋がれる時代や。大阪とここからはそう遠くないし1ヶ月に一回、いや二回、三回でも休み合わせて会える」

「でも……そばにいたい」

「わかる、わかるけども……梛のことを考えたら」

 たしかに希望の図書館にわたしは行ける。でも産休のスタッフや今後ライフステージで抜けていくおんなの人たちの変わり……。わたしは結婚も妊娠も出産もできないから……そう思われて……。


 頭によぎる、悪夢。母さんが出てくる。

『あんたは一生幸せになれない、男に逃げられる、お前は一人』

 何で出てくるの、こんな時に! わたしだって幸せになりたい。


「梛、ちくわ食べや」

 常田くんがちくわをわたしに差し出した。いつものニコッとした笑顔だけど目に涙がたまってるのが見えた。

「……」

「食べや」


 目を閉じて、頭に浮かぶ母さんの笑い声。わたしの手には……塩?


『わたしは幸せになるんだからーっ!』

 頭の中でわたしは叫んで母さんに向かって塩を振りまいた。

 何を言ってるかわからない叫びをあげた母さんはわたしの頭の中から消えた。そしてわたしは目をカッと見開いて常田くんを見た。


「常田くん、わたし……あなたのそばにいたい。大阪まで行く!」

「梛?!」

 常田くんはちくわを机に落とした。


「常田くん、幸せになろう……一緒に。一生一緒にいましょう! 人生を共に過ごしましょう!」

 わたしは常田くんの手を握り、引き寄せてキスをした。


「な、梛……」

 常田くんはコンロを止めて、まだおでん食べかけだったけどわたしを押し倒した。コタツの中って本当に温かい……。


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