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シノノメナギの恋わずらい  作者: 麻木香豆
第一章

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夏姐さんとの過去

 わたしは久しぶりに夏姐さんと二人きりで出かけた。夏姐さんが休みの時にわたしが半休を取って。

 わたしの車に彼女を乗せてベーグル喫茶へ。不定期に二人でランチ行ったり、彼女の下の子と一緒に遊んだり。


 今日は二人きりである。彼女から誘ってきたのだ。来たベーグルサンドとサラダ、コーヒーを食べる前に写真に撮る夏姐さん。ほんと可愛い。

 わたしは別にいい。食べられればいいの。ちょっとその辺りが女の子っぽくないのかな? ううむ。そういう女の子もいるのよ、と教えてくれたのも彼女だった。


「最近は常田くんに取られちゃうからその前に」

「取られるって……そんなにいつも彼といるわけじゃないんで」

「でも家にいる時は常に一緒でしょー?」

「……は、はい」

 同居したというのは伝えたくはなかったけど交通費の関係で申告しなくちゃダメで。館長もわたしたちが付き合ってることは別に問題はないが節度を守るようにとのことだった。


「こないださ、びっくりしちゃったよ。二人同棲になったかと思ったらさ今度は手術で入院よ」

「……うん、館長も驚いてたよね」

「でも常田くんもある程度考えてたかもね。パートの子とボランティアの人に展示書籍やオーディブックとか視聴覚室のこと色々熱心に教えてて、彼がいない間任せるつもりだったかも」

 ベーグルをハムハムと飾りながらもいろいろ考えてしまう。


 ぼぉっとしてるから考えすぎるんやーとかいうけどね、常田くんはさ、重要なこともヘラヘラして話すからさ。わたしはなんかモヤモヤしちゃって。

 一応あれから普通に過ごしてるけど……気持ちが追いつかないというか。

 常田くんの親に会うのも勿論緊張するけどさ。手術の同意書のついでに親に会わせるのか、その反対なのか。

 なんかなぁ。


「常田くんのいない間は輝子さんがフルで入ってくれるそうだし、仕事のほうはいいんだけど……」

「そうなんだよ、そこもなのよね」

「しょうがないわよ……わたしも苦渋の決断だったけど仕事が回らないから」

 夏姐さんも実は輝子さん苦手。でも仕事はできる人だからなぁ。


「その時はこうして愚痴ろう、うん」

「ですねぇ……」

「まだなんかモヤモヤしてるよね、梛」

 ……肝心な時に言えない。常田くんのことになると。


「常田くんのことは心配なのはわかるわよ」

「だって……」

 一番傷ついているのは、彼がわたしのこと家族じゃないって言ったこと。


「梛、泣かないで……」

 気付いたら泣いてた。ティッシュを夏姐さんにもらった。

「ありがとう……」

「よし、食べたらあの高台行くよ!」

 ……。




 車を走らせあの公園の高台に登った。少し風があって寒い。コート着ててよかった。夏姐さんも同じ形の色違いのを着ている。去年、ネネのお店で一緒に買ったのだ。(買ったというか、ネネに買わされたというか)


「偶然よね、これ着てきたの」

「なんとなくね……明日からこれ着て仕事行く」

「わたしもそうしよう。くたくたにならないのよこれ。てか、追い出したネネちゃんは元気にやってる?」

「あ、追い出したなんてっ。あっちが出て行ったの」

 高台から見る景色は天気がいいから市街地を見渡せる。


 夏姐さんは景色を見てフフッと笑った。常田くんとここでキスして以来来てなかったなぁ。今までは嫌なことあったらここに来てぼーっとしてたのに。

 ここに連れてきてくれたのは夏姐さんだったっけ。図書館に入ったばかりの時に嫌なことがあって凹んだ時に連れてきてくれた。


 そいやこの2人で来るのは……あの時以来か。


「久しぶりね、ここ」

「うん……」

「私にとって苦い思い出の場所」

「……」

 数年前かな。夏姐さんと夜景を見にディナーの後にここに来てさ。彼女としばらく一緒にいて。手を繋がれてなんだか雰囲気よくなってさ……。

 その時は夏姐さんを本当に尊敬していた。子供を早く産んでしかも3人。親に預けながら勉強して司書になって。産んですぐ復帰して離婚も経験して大変だったのに仕事をバリバリこなす姿、いろいろ相談にも気さくに乗ってくれて、面接の時からわたしが女として、女の格好で仕事をしたい、その気持ちを汲み取ってくれた。


 次第に彼女のことを上司でなく友達でもなく、自分の中の男の部分から彼女を好きになってしまった。でもそれはダメだって。気持ちを押し殺していたのにあの時この高台で抑えきれなくて夏姐さんにキスをした。


「実はね、あの時……すごく嬉しかった。わたしもあの時ね、梛を好きだったの」

「えっ」

 夏姐さん……?!

「最初は可愛い子が入ってきたと思って。中身は男だけど女の子と変わらないじゃないって思って接してたけどだんだん一緒に仕事してたまにご飯して出かけて……愛おしく感じてた」

 って、あのキスした時は両想いだったの?!


「ごめんね、あのキスの後思いっきり引っ叩いちゃったわよね……」

「うん、すごく痛かったです……」

「ごめんごめん。あそこで踏み出して男女の関係持ったらもうダメだと思ってブレーキ掛けちゃったけど、突進すればよかったのかなー、もう遅いや」

 ……。


 夏姐さん、泣いてる?

「私あの時振ったんだからさー、今の恋でウジウジしてるの見てると嫌なんだよっ。あんなチャラチャラヘラヘラしてる年下の子ですっごい心配なんだよっ、こっちは。思った通り梛は今、壁にぶつかって常にモヤモヤ。本当に嫌。だったら私あの時つきあえばよかった、キスすれば良かった! あのままラブホ連れ込んでセックスすればよかった!」

 夏姐さんっ、昼間の一応子供もちらほらいる公園の高台だよっ。……確かにあのまま彼女と男女の関係になってたら今常田くんとは付き合ってなかった。ウジウジしてなかった。あー、だから付き合うのはよしなよってわたしに言ったのね。


「梛、うじうじするなら常田くんと付き合うの辞めてわたしのところに来な」

「それは……」

「いい顔を見せてよ、わたしが振ったのを後悔するくらい……辛いことあっても常田くんといて幸せだって」

 ……。


「あーっ、恥ずかしいっ。もぉ、いこっ」

 夏姐さんは笑った。彼女は何か吹っ切れたかのように。


「うん」



 わたしはそのまま夏姐さんを家まで送って行き夕方前に家に帰った。

 家では常田くんがラジオを聞いて待ってた。

「おかえり、梛。寒かったやろ。夏姐さんとのデート楽しかった?」

「うん、楽しかった」

「梛、実家に行く件だけどさ、ついでに観光でも……」

 わたしは常田くんに思いっきり抱きついて押し倒してキスをした。


 常田くんが好き。何があっても……一緒にいたい。常田くんも抱きしめてくれた。温かい。着ていたコートを覆いかぶさって、このまま一つになった。

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