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シノノメナギの恋わずらい  作者: 麻木香豆
第一章

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わかりやすいわたし

今日は事務所で作業。図書館内での作業も重労働だが歩いて回れるのでそこそこ楽しい。

 わたしはできるだけその方がいいもののやらなくてはいけない作業もある。


 あ、常田くんが入ってきた。今日は彼が早番でわたしが遅番だったから行き帰りすれ違い。

 メールは彼の目の負担になると思って電話で連絡するようにしている。

 がら空きになった一室に住む? とは聞いたものの考えさせてって。考えなくてもいいじゃん。


 それくらいわたしたちはギクシャクしてるのだ。一気に盛り上がって一気に盛り下がった気もする。わたしちの恋。


 紙をめくるわたしの薬指の先にささくれ。これ気になってたけどめくると血が出るかもしれない。でも気になったままでは作業に集中できない。


 今の私たちも同じことだ。気になってるけどそれを考えるとダメになるかもしれない。でも気になったままではモヤモヤしてしまう。


 ……。


「梛、今いい?」

 常田くんは周りに人がいないことをキョロキョロ見渡してわたしに声をかけてきた。デスクの斜め前に座って。

「うん、いいよ。作業しながらだけどいい?」

「……うん」

 周りにバレているって知ってるしパートさんたちにも噂されてるけどさ。その辺は節度をもって。


「今度さ、落語見に行かへん?」

「えっ」

 作業はすぐ止まった。斜め前には犬歯剥き出しで笑う常田くんがいた。ヘラヘラって。久しぶりに見た。


 手にはその落語のビラを持ってて渡してきたから受け取った。

「金風亭蛙の息子、金風亭鯉鯉が来るんや。チケットも手に入ったから観にいこう」

「い、いいよ……」

 しばらく全く話もしてなかったし、てか仕事中にデートの誘いとか。車の中でしてこなかったくせに。なんでいきなり。


「しばらくさ、梛に色々言っても嫌な雰囲気になっちゃうから黙ってた」

 そんな意図が……。


「デートもさ、電話で言うよりもこういう誰かが来そうでヒヤヒヤするところでした方がドキドキするかなーって」

 策士かっ!それにコソッとウィスパーボイスで言われると尚更だ。


「……帰りは梛の家に泊まって行くよ。部屋が見たい」

 !!!


 確かに職場でこういう会話すると誰かに見られてそうで聞かれてそうで、それがドキドキっとする。て、なに年下に転がされてるのよ。


「東雲さーん、受付で呼ばれてますよ」

 いきなり事務所にパートさんがやってきて手元があたふた。いかにも作業やってましたよな体制に戻す。パートさんはわたしのあたふたさと常田くんがいるのを見てなんか気づかないかしら。平常心、平常心。


「梛さん、早く行かなきゃ」

「あ、うん……」

 常田くんはニコッと笑う。もおおお、平常心でいられないっ。


 わたしは慌てて受付に行くと……仙台さんだった。軽く手をあげて目を細めてこっちを見てる。夏姐さんも常田くんもこの場にいない……とりあえずカウンターに座ってもらった。


「こないだは……その」

「こちらこそ、ごちそうさまでした」

 何よこの空気ー。こっちもこっちで気まずかったー。さっきの調子で良くなればいいけど。


「図書館案内がとても好評で、これですが……生徒たちがまとめたレポートと、お礼の手紙です」

 とトートバックから綺麗に製本されたこの図書館についての子供たちのレポート。今の子たちはパソコンを使うのね。綺麗にまとめられている。写真も使って。


 あら、わたしや常田くん、夏姐さんも写ってる。……そいや常田くんと写真撮ったことないなぁ。ほんといい笑顔、だってわたしの彼氏だもん……はっ。


 目の前に仙台さんがいることに気づいた。良かった、マスクしてたからにやけてた口元は隠れてる、はず。


 仙台さんは眉毛を垂らしてわたしの方を見ている。生徒さんたちからの手紙は手書き。

「図書館のお姉さん、お兄さん。とても楽しく図書館あんないしてくれてありがとうございました」

 わたしはお姉さん、お兄さんどちらなのかな。緊張したけどちゃんと話したこともまとめてくれたし、また本を読みたくなった、図書館に行きたいって。うれしい。


「うれしいです。他の二人にも、図書館のみんなにも見せます」

「いえ、子供たちにとっていい勉強になりました。そしてその、子供たちが一番興味を持ったのが点字図書だったようで……」

 そうだったんだ。常田くん喜ぶだろうな……。さすがうちの彼氏……。


 仙台さんが笑う。やばい、またにやけてた。私。

「ほんと、お好きなんですね」

 !! やはりバレてる! ん? 仙台さんが手を向けた方を見た。


 !!


 常田くんがこっち見ながら作業してるし。

「す、すいません……」




 ◆◆◆

 仙台さんが帰った後、事務室でみんなに子供たちのレポートを見せた。なんと二冊も作ってくれたのだ。

 夏姐さんも関心してて

「ひゃー、最近の小学生もすごいものねぇー。それに点字図書のこともしっかり調べてくれてるし。常田くん、良かったわね」

「うれしいっす、多くの子に知ってもらえて。あの時あまり反応はなくて心配やったから……」

 よかったね、常田くん。すごくニコニコ。


「しかも今度小学校にもきて欲しいって言われて……仕事増えたーっ」

「がんばりなよー常田くん。忙しくなるから」

 バン!

「痛っ! 夏姐さん……気合入れてありがとうございますぅううう」 

 夏姐さんの気合い入れの背中叩きに常田くんは悶えている。わたしながらにも嬉しい。


 ……目のことは心配だけど仕事もちゃんとできているし、子供たちや多くの人たちに彼のしている仕事に興味持ってもらえてるし。


「梛ぃー、ちょっとこれ見なー」

 夏姐さんと常田くんが笑ってる。子供たちからの感謝の手紙見て。そしてそれを常田くんが差し出す。


「僕もうかうかしてられないな」

 ちょ、ここで耳打ちしないでって。耳が赤くなっちゃう!


 と、手元に渡された手紙たちを見る。さっきも見たんだけどな。


 !!


「今回は本当にありがとうございました。子供たちだけでなく私たち教師もとても勉強になりました。夏目さん、常田さん、そして今回快くこの企画を共に考えてくれた東雲さん、とても感謝してます。また僕も来ます。素敵な笑顔で受付で対応してくれて本当に感謝しています」

 ああああああああああっ!

 わたしは反射的にその手紙に顔を埋めてしまった。恥ずかしいいいいいいいいいっ。


 はっ!


 みんな見てる。恥ずかしいっ。

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