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シノノメナギの恋わずらい  作者: 麻木香豆
第一章

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24/76

彼の目のこと

 今日は二人して休み。でも普通の休みではない。わたしは常田くんを乗せて市民病院に向かった。


 彼の目の定期検診だ。付き合って初めて。わたしがついていくと言ったけど患者以外はダメだった。

 恋人もダメだって……わたしは車の中で待つことにしたけど常田くんはすぐに戻ってきた。

「あと一時間かかりそうだから梛と一緒にいたくて」

 手にはホットコーヒー。なんて優しい子っ……。


「どっかお店に行く?」

「ううん、ここで待つ。そうだ、CDかけていい?」

「いいよ、持ってきたのね」

 どんな音楽聴くのかな……て、渡されたのは落語のCD?! 常田くんがニコニコしてる。


「意外やろ。落語好きなんよ」

「本当にあなたはわたしより年下ですか」

「それが年下なんですよぉ〜」

 わたしはCDを入れると落語ならではの出囃子が流れた。正直わたしは落語は聞かないし、笑点で落語家さんを見るくらいで。あとはドラマ……宮藤官九郎さんのタイガーアンドドラゴンとかいだてんとかも落語が題材だったけど……落語を題材にした小説もいくつかあって図書館でも企画やったり落語のコーナー、CDの貸し出しもしている。


「僕さ、子供の頃に一時期手術で失明しとった時なオカンが退屈せえへんようにってさ本好きの僕のためにオーディオCDたくさん借りてきてな、なぜか落語のCDもあったんや」

「落語のっ?」

「そうそう、最初僕もそういうリアクションでさ。でもたまたまこの人の落語のCDでな、めっちゃ面白かったんや」

「んー? 金風亭蛙?」

 名前は聞いたことあるけど……。落語好きって初めて知った。こんなの聞かないって顔してるし。関西のひとだからなのかしら。


 隣でゲラゲラ笑う常田くん。頭の中で話してたからすっかり聞いてなかった。


 彼はお母さんに点字を叩き込まれたそうだ。小さい音にも敏感だし、今はまだ見えるのに、点字を触ってこっちかー、とかああーと呟きながら読み取ってる。


 もう少し興味を持たなきゃいけないかな……恋人の趣味とか好きなものをどこまで理解してどう接するか。

 わたしは本当に興味が湧かないとダメなのよね。これは司書としては致命的なんだが。


 だからこの流れてる落語もどれだけ自分の中に落とし込めるか。よく好きな人が好きなものは好きになるとかいうけど……知るだけ知ってあまり深く追わないというのが私の傾向。

「……梛には退屈かな。でも面白いから」

 そう、ここまで相手が推してくると困るものである。わたしはウン、と答えた。


 でもわたしは……常田くんの目のこと。これからずっと一緒にいるとして、その目はいつかは見えなくなってきて。そうしたらわたしはどうすればいいのだろう、彼をどう支えなきゃいけないのかって考えなくてはいけない。彼はついてきてもいいよ、と言ったけどわたしが言わなければ今日ここにはいなかった。こうして病院に連れて行かなきゃいけないだろうし。

 仕事も変わってしまうかもしれない。目の見えない司書も、全国には数人いる。でも大きな図書館が多い。今いるところで働ける保証はない。


 てかそもそもわたしたちは家族には法律上ならないから今日みたいに付き添いはできない。彼のそばにいるのに、彼のこと好きなのに。家族以上になりたいのに、なれない。


「あ、呼ばれたわ……て、梛?」

 わたしは気づいたら目から涙が出ていた。

「どうしたんや、まだそばにいよか?」

 わたしは首を横に振った。心配してる顔をする常田くん。


「ほな、言ってくる。ちゃんと言われたこと話すから。梛に」

 頭をポンポンとされた。


 ポンポン……そんなことするようなキャラじゃなかったのに!涙が一気に乾くくらい顔が熱くなった。




 ◆◆◆


 それから一時間後に戻ってきた。わたしは落語をBGMに色々考えていた。

 これから同棲しようか、正直同居人のネネが今の彼氏と結婚してくれたら出て行って欲しい。そうすればあの部屋に常田くん入ってもらって。図書館近いから一緒に通える。

 別に常田くんの家でもいいけどさ……。1dkだし。それにあんな綺麗な部屋、散らかす自信がある。あの綺麗さも彼が将来目が見えなくなったときに困らないようにしてあるやつだし、物を定位置に置いたりするのも……。

 彼と付き合ううちに現実がみえてきた。わたしはそれに合わせて生きて行かなくてはいけない。彼の手をひいて、人生を共に過ごさなくてはいけない。


 彼は運転席側からわたしをのぞいている。相変わらずのニコニコ笑顔で。


 助手席側に回って入ってきた。

「待たせたなぁ……薬でも並んでしもた。お腹すいたやろ、どこか食べに行こ……」

 わたしは常田くんを抱きしめた。彼は何も言わず抱き返してくれた。頭ポンポン。なんだろ、このポンポンの効果。


 そして、チュッってキスしてくれた。だからわたしもチュッとしてそっからキスキス。


「お腹すいた、はよ食べよや」

「うん……」



 ◆◆◆

 ハンバーガーショップで昼ごはんを食べに行ったけど会話はなくて。食べ終わってそのまま帰ろうとしたけど、帰り道に常田くんがようやく話始めて。

「梛を抱きたい」

 っていうから……少し抱きしめたらまたキスが止まらなくて。

「その抱きたいやない」

 って……。


 ラブホテルに行こうって誘われた。……ある程度結ばれる方法は心得てた。でもやっぱり今日も最後までは無理だったけど、少し前進した気がする。彼を少し受け入れることができた。


 ホテルで天井の鏡を見ながら、彼の腕枕で。寄り添って……。

「僕目が細いから目を開けてくださいーて言われてもこれ以上開きません! て言うても無理やり開けられてな。そこにピカーって光当てられるんや」

 と検査の時の様子を面白おかしく話してくれた。どういうやりとりしてたか想像はつく。だがそう言いながらも辛い検査したのかな。


 今日はわたし、ピンクのキャミワンピにした。なんとなく明るい色の下着は気持ちも上がる。彼もこの色見て可愛いねって言ってくれた。

「薬もこれとこれ飲みましょねとかさ。増やされたわ」

「飲んだら良くなるの?」

「うーん、神のみぞ知る……やなー。そんなに心配せぇへんでもええ。今度は僕一人で行くから」

 わたしは首を横に振る。わたしにも心配させてよ、一人で抱えることじゃないの。


「心配せぇへんでも何とかなる、何とかなるて」

 何ともならないよっ……心配だよ。ってわたしは口で言えばいいのに。


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