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北風と太陽  作者: dear12
7/7

Diary7 vs写真部その1

明かりのない一室。


暑苦しい男たちが、何やらアルバムを取り囲んで息を荒げていた。


「ミハちゃんの泣き顔写真を手に入れたぞ!」


「何!?」


「俺にも見せろ!」


見るからにアキバのヘビーユーザーっぽい連中が新たに手に入れた写真をテーブルの上に広げて見せた。


すると、テーブルの周りに発情期のハイエナのように男たちが群がってきた。


なるほど、確かに泣きじゃくっている美梁の表情が見事に一枚の写真に収められていた。


「ウヒヒ……。かわいいなあ」


「グヒョヒョ……。目の保養だぜ。ベイベー」


どうやら、彼らは学園の美少女たちを隠し撮りしてファイリングしているらしい。


物凄く分厚くなったアルバムの中には大量の美少女たちの写真が収められていた。


「よおし。みんな、これより我が写真部の秘密計画・夏の陣の会議を執り行う!」


ボス面をした男がにやりと笑った。


男たちは待ってました、とばかりに低く唸った。


「ふふ。皆の者。日頃の目覚しい活躍。私は非常にうれしく思うぞ。この写真部伝統の美少女撮影は今年で十年目となる、まさに歴史の節目に差し掛かっているのだ」


男たちは嫌らしい笑みを浮かべながら、彼の言葉に聞き入っていた。


 ボスはここで一呼吸置く。


「そして、その記念の年となる今年!まさに我々の代は史上最強と言っても過言ではないほどの美少女たちがこの、星来学園に在籍している!よいか、我々の代で優秀な成績を収め、将来の後輩たちにまでこの喜びを伝えていこうではないか!これは我々がなすべき義務であると思わんか?」


ボスは目の前にいた、やせっぽちの男に尋ねた。男は、ひ弱そうにごもっている。


「確か君は、一年生の片岡さんの大ファンの山本だったな?片岡さんはバスケ部に所属して、実によくがんばっていると聞いているぞ。おそらく、あの小さな体で、大きなゴールに向かって健気にシュートを打つ、その姿に君は萌えたのだろう?」


「は……はい」


「よろしい。君は片岡さんに向かってレンズを向けていればそれでよいのだ。ガンバレ!」


ボスはグッとガッツポーズをかましてみせた。


 しかし、山本は快諾しなかった。


「で、でも。ぼ、僕はもう、は、恥ずかしくて、で、できません」


「てめええ!」


ガツ―ン!


物凄い破裂音が響き渡り、山本の体はあっという間に壁に叩きつけられた。


どうやらボスの鉄拳が炸裂したらしい。


群衆からどよめきが起こった。


「貴様!そんなことでどうする!?貴様は、片岡さんの美貌に勘付いた。それなのに、何故貴様は将来の後輩のために、その喜びを伝えようとせんのだあ!?山本お!」


山本は殴られた頬を押さえて涙を流し始めた。


「うう…だって、こ、これは、は、犯罪……」


ボスがもう一度山本のもう片方の頬を殴りつけた。


山本の体は部屋の片隅に吹っ飛ばされた。


「貴様!ふざけるなあ!俺たちのやっていることは犯罪じゃない!喜びの共有だろうがあ!!」


ボスは声を荒げて叫んだ。


「美少女とはな、永遠じゃないんだよ!年を取ればその美貌がどんどん失われていくんだよ!だからこの俺たちが、彼女らの美貌がある時に、彼女らの輝いている姿を記録に残しておくんだ!それをアルバムにして何が悪い!?その喜びを我らや我らの将来の後輩に伝えて何が悪い!?ああ!?答えろ!山本!」


群衆が涙を流しながら、拍手を始めた。


どうやらボスの演説に感銘を受けたらしかった。そして、寝そべりながら山本もハッとした。


「そ、そうでした。す、すみません。ぼ、僕が間違ってました!部長!」


他の部員たちも涙を浮かべながら、


「部長!アンタは俺たちの鑑だぜ!」


「夏はスク水写真取り放題だぜ!」


「よっしゃあ!明日からまたがんばるぜ!」


以上、邪悪な部活の朝練でした。


「松代!おはよう」


玄関の扉を叩く人がいる。


私はのそのそと玄関に向かった。


 玄関の扉を開け放つと、正田が1人で立っていた。


美梁の姿が見当たらなかった。


「あれ?ミハちゃんはどうしたの?」


「ああ、藤崎は記事を印刷するからって朝早くから行っちゃったんだよ。今日が発行日だから。」


正田はつまらなそうな表情で言った。


私はその表情があまり気に入らなかったので、


「ふーん……。残念だったね」


「ん?何が?」


「ミハちゃんと登校できなくって。仕方ないから代わりに私と登校しようかなあってことか。ふーん」


何でムキになっているんだか、自分でもよくわからない。


ちょっと恥ずかしいので、部屋の方に顔を背けた。


正田が慌てているのが口調から丸わかりだった。


「な、何でそうなるの!?」


「ううん。別にィ」


やばい。


面白い。


これは正田がいじられる理由がよくわかった気がした。


「あ、あ!もう時間だよ!松代。早く行こうよ!」


私は腕時計を何気なく見てみた。


時刻は8時を回っていた。


「ヤバ!急ぐわよ!正田」


私は鞄をかっさらって走り始めた。


アパートの階段を慌てて駆け下りる。


「ちょ!松代!待ってー」


背中の方から正田の情けない声が追いかけてくる。


「待たない!急げえ!」


2つの影が長く緩やかな坂を駆け抜けていった。


 今の季節は夏。


故にプール開きが行われた。


 授業もあまり熱が入らないこの季節。


天候とともに炎上したくないからだろう。


しかし、クーラーの入った教室での授業もまた格別だった。


自然とやる気が出てくるし、集中も切れない。


 嫌いだった夏という季節が、一気に飛び級昇進して私の好きな季節になっていた。


 今日も部活に行く。


私が部活の用意をしていると、相変わらず笑顔の美梁がやってきた。


「モモちゃん~。部室行こうか~」


部室に行くと言っても、たいていはおしゃべりをしているだけである。


普段の活動は個人で調査のわけだから、当然と言えば当然である。


「そうだね!行こう!」


私たちは駆け足で部室へと向かった。


今日は誰かいるだろうか。


そんな期待を胸にいつも部室へ向かっている。


 扉を開けると、そこには正田と背の低い少女がいた。


テーブルを取り囲んで、何やら話をしているようだ。


 背の低い少女は確か、各務李穂かがみ りほ先輩だった。


明るく活発な先輩で、ともかくおしゃべりが大好きな人だった。


普段なら、やかましいくらいの声量で


「あ、百花と美梁も来たわね!」


と言うのだが、その日は、各務先輩は神妙な面持ちで正田と話し合っていた。


「こんにちは~」


美梁がのんびりとした声で挨拶しても返事はなかった。


その代わりになるのかわからないが、各務先輩が手招きをしてきた。


「どうしたんですか~?そんなに怖い顔して~」


私たちはいそいそと椅子に腰掛けた。


 各務先輩はそれを確認すると、口を開いた。


「ちょっとこれ見てくれる?」


そう言って差し出したのは、一枚の写真だった。


その写真はこの中の誰もが知っている、美梁がしっかりと収められていた。


美梁が床に座りこんで泣きじゃくっている、つい胸がきゅんとなってしまいそうな写真だった。


これってもしかしてあの時の?


「え~?これ美梁だよ~?」


「何でまたこんな写真が?」


私たちは各務先輩を振り返った。


各務先輩が珍しく真面目に言った。


「多分、写真部のエロ坊主どもが盗撮したんだろうね。あいつら、色々と黒い噂が絶えないし」


「写真部?」


私が思わず尋ねると、各務先輩は立ち上がって語り始めた。


小さな背を精一杯伸ばして語る。


各務先輩は口調は男っぽいのに、声自体がやけに幼いのだ。


「そうだなあ。あいつらって私のような、誰がどう見ても美しい少女を盗撮する困った奴等なんだよ!私は何とか盗撮されないように上手く交わしているんだけどさー。で、今度は私らのかわいいアイドル、ミハリンが犠牲者になっちまった。これは許すまじき行為だぜ!な?正田」


「そうですね。まあ、ツッコむべきところがいっぱいあるけど、それらは置いておくとしましょう。ともかく、藤崎を盗撮するなんてずる、いえ、許せません!」


「今さっきお前、藤崎を盗撮するなんてずるいって言おうとしたろ?」


正田が顔を真っ赤にして否定した。


「ち、ちがいますよ!藤崎を盗撮するなんてずる賢い奴等だ!って言おうとしたけどやめただけですよ!」


と、美梁が顔を赤らめて驚くべきことを口にした。


「う~ん。美梁は正田君になら盗撮されても構わないよ~」


「え!?」


私と各務先輩は少し引いた。


正田はインフルエンザ患者のように、みるみるうちに顔が真っ赤になった。


「あ、でもお風呂の時とかはダメだからね~。わかった~?」


これには各務先輩もツボに入ったらしく、嫌らしい笑顔を浮かべながら、正田に問いただした。


「おい。正田!これはどういうこと?ミハリンにやけに気に入られてるじゃねーか?」


「そ、そんなことありませんて」


もはや、ゆでだこと化したとしか言いようのない真っ赤な顔で正田は拒絶した。


そのうち放っておいたら、鼻血出すんじゃないかな。


 その正田の顔で、各務先輩のテンションと探究欲が上昇したのは言うまでもない。


「ちょっと話題変更!正田とミハリンの急接近について語り合おうぜ!」


「わーい~。やったね~!正田君~!」


美梁は嬉々とした表情を浮かべていた。


正田は相変わらず、ゆでだこ状態が続いている。


「ちょ、やめて」


各務先輩と美梁は楽しそうに会話に興じ始めた。


その会話のところどころで、顔を赤らめながら正田がツッコミを入れる。


さらに私と各務先輩が茶々を入れる。


 まさに私が一番楽しいと思う瞬間だった。


そんなこんなで夜の七時くらいまでおしゃべりをしてしまうのだ。


何て不思議な時間なんだろう。


「あ、各務先輩、結局この写真どうしますか?」


しばらく正田をいじって小休止。


ふと気づいたので私は問いかけてみた。


「うーん、そうだよな。私としてはまず止めさせたい!だから、今から写真部のエロ共に文句言いに行こうぜ!」


「そうですね。盗撮は犯罪ですもん」


精神的ダメージから復活した正田も賛同した。


美梁もこわごわうなずく。


「よっしゃあ!いっちょ、やったるかあ!みんなついてきな!」


各務先輩は椅子を跳ね除けるように立ち上がった。


各務先輩も頼りになるんだな、と私は思った。

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