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北風と太陽  作者: dear12
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Diary5 部活

職員室の扉を蹴飛ばして、長い廊下を延々と走り続ける。

 

しかし、紫は速かった。


私は足がもつれそうになったので、叫んだ。


「ちょ!ちょっと待って!私、自分で走るから!」


紫は私を振り返ったが、耳に手を当てて、聞こえないフリをしているらしい。


軽く笑うと、

「ええ?聞こえない?」


そう言ってまた自分の足で走り出してしまう。


階段。廊下。階段。


この校舎はやたらに広い。


私はそれにも驚かされた。


それよりも、何なのこの子。


美梁なんて比べ物にならないくらい元気じゃない。


「着いたよ!」


ようやく紫の足にブレーキがかかった。


助かった。これ以上走っていたらやばかった。


紫は疲れた様子も見せずに、扉に手をかけてガラリと開ける。


中では陽気に生徒たちがおしゃべりに花を咲かせていた。


彼らは先生が入ってきたと思ったらしく、慌てて席につこうとした。


が、それが私たちだと気づくと、行動を取りやめた。


「おう、那波。おはよ」


「紫!おはよう。」


私はそのクラスの活気に圧倒された。


全然違った。

 

私の学校はそれはもう、お通夜の帰りのように黙りこくって、テスト勉強に励んでいるのが常だった。


生徒間で世間話をするなんて信じられなかった。


 でもここは違う。


 私が驚いた表情で教室中を見回していると、やはり生徒たちの質問の嵐がやってきた。


「その先生似の女の子は誰?」


「もしかして転校生?」


やんややんやと教室のほとんどの生徒たちが私たちの周りに集まってきた。


 紫は私を紹介してみんなを驚かせていた。


先生の従妹であることもすぐにばらしてしまった。


 それでクラス中がさらに盛り上がった。


私の理想としていた学園風景だった。


嬉しい。


 と、そこへ見慣れた少年と少女が私の背後の扉から入ってきた。


「今日は何だか騒がしいなあ。ん?」


「きっとお祭りなんだよ~。あ~!」


2人とも私に気がついたらしく、指を差して言った。


「百ちゃんだ~。一緒のクラスになれたんだね~。よかった~。美梁は今モウレツに感動してるよ~!」


美梁は笑顔で近寄ってきて私の腕をとって喜んでくれた。


正田も、


「このクラスはみんな気のいい人たちばかりだから、とても馴染みやすいと思うよ」


あ、でもと正田は暗い表情になって言った。


「那波紫っていう人がいるんだけど、その人には関わらないことを勧めるよ」


「そう!美梁も気をつけた方がいいと思うよ~」


すぐ近くにいるんですけど。


今は他の友達に私のことを話しているから気づかないと思うけど。


「んん?さっき、私がかわいいからって噂してる人がいなかった?」


話が終わったのか、


突如、紫が私たちの方に振り向いた。


ビクッ!正田の表情があからさまに変貌した。


美梁は相変わらず笑顔だった。

 

そして紫が2人の存在に気づくと、


「ああ!涼に美梁!ついに出たわね!」


「おう。ついに出たよ~」


紫は、そう言う美梁の頬っぺたをつまんで伸ばしてを繰り返しながら言った。


「アンタに構ってる暇はないの。ちょっとどいて」


「いはい~」


笑顔だが、涙を浮かべている美梁。


同性としてあるまじき言葉だが、かわいい。

 

紫は美梁を適当に突き飛ばすと、嫌がる正田を連れてどこかに行ってしまった。


それよりも美梁が床にシンデレラのように座り込んだまま動かないので、呼んでみた。


「ミハちゃん、大丈夫?」


「はうう、痛いよお~」


これは衝撃映像!美梁がマジ泣きしている!


かわいそうだけど、かわいいなあ。


 そこに数名の男子が美梁を取り囲んだ。そして電光石火のごとくカメラで写真を数枚撮ると、何やら合図を出してすぐさま廊下の彼方へと姿を消した。


「え」


私は廊下の方を見やっていたが、言葉を失っていた。


 美梁は美梁で気づいていなかったらしい。まだ涙を拭っている。


何だったのだろう?彼らは。


「はいはい!席について!」


そこに千花がやってきた。


その後ろをボロボロになった正田が現れる。


何故?さっきまでピンピンしていた正田が?


次から次へと意味不明な現象の起きる学校だなあ。


美梁もようやく泣き止んで、自分の席へと向かった。


 私も席に向かおうとしたが、席がなかった。


当たり前だ。


 私がぼうっと教卓の隣に突っ立っていると、千花が手招きした。


私は仕方なく教壇に上った。


「今日から新しい仲間が増えます!」


教室中がざわめくなか、千花がいそいそと黒板に向かい、私の名前を丁寧に書き始めた。


 松代百花


黒板にその文字だけがでかでかと描かれた。昔から何度も見てきた光景。


「松代百花さんよ。皆、仲良くするように」


「松代百花です!よろしくお願いします!」


深々とお辞儀した。


「よろしくー!」


男子から結構手ごたえがあった。女の子の特権というやつだ。


「えーとじゃあ、松代さんの席は、と」


「ここが空いてますよ!先生」


傷だらけの正田が微笑みながら、隣の席を指差した。


「じゃあ松代さんの席はそこにしましょうか」


私は指図どおり、正田の隣の席に座る。


席に座ると、正田が微笑んで、


「よろしく」


私もちょっと笑って、


「こちらこそよろしく」


転校生の話が終わると、すぐに平穏なホームルームが続いた。







「え?部活見学?」


放課後。


私が帰り支度を整えていると、正田と美梁に呼び止められた。


「うん、そう。松代だって部活の1つや2つしたいだろうから。俺や藤崎で良ければお供するけど?」


「うーん、部活か。中学時代はバスケやってたけど」


「なら、女バスの見学に行こうよ」


「でも、スポーツ系はダメなんだ。試合中に大ケガしちゃったトラウマがあるから」


その際も両親は、見舞い品として問題集とかを持ってきていたのだ。


「そうか。じゃあ、文化系だね」


ここで美梁が口を開いた。


「それならウチの活動見にくればいいんじゃない~?」


「新聞部だったっけ?」


「そうだよ。でも部室を見たところで活動はしてないでしょ?藤崎」


正田が美梁を振り返った。


「でも、私たちの活動場所を見るだけでも違うと思うよ~」


結局、美梁が譲らなかったので、新聞部を見学させてもらうことにした。


 教室を出ようとしたところに、紫がでーんと立っていた。


「あ、百花じゃない。今から帰り?」


「ああー!美梁を泣かした極悪人さんだー!」


美梁が指を差して叫んだ。


しかし、紫は面倒くさそうな表情で話を逸らした。


「もう、勝手に泣いたのはそっちでしょう?それよりも涼」


「な、何だよ?」


正田が明らかに動揺している。


美梁も話を逸らされて頬を膨らませている。


「次は、ないからね」


紫は不敵な笑みを浮かべた。


正田の表情が優れない。


真っ青になってしまった。


そればかりか、ガタガタ震えているではないか。


 と、紫は私に向き直ると無垢な笑顔に戻って、


「じゃあ百花、また明日ね!」


とだけ言って廊下の彼方へ走り去ってしまった。


 全く話の展開が読めないんですけど。


この3人(正田・美梁・紫)の関係って一体何なのだろう。


ともかく、朝のホームルームで正田がボコボコにした犯人がわかった気がする。


「と、とりあえず行こうか」


すっかり悪くなってしまった空気を振り払うべく、私は先陣を切って歩き始めた。


でも途中からは道がわからないので、正田たちに託すことにした。


 入り組んだ廊下を歩きながら。


「正田。アンタと紫って一体どういう関係なの?」


再び、正田の表情が崩れた。


と、ここで美梁が笑顔で仲介に入った。


「はう。正田君の心臓に悪いから、それは聞かないで~。それと正田君の信頼の喪失にもつながるの~」


「でも、私たちもう友達でしょ?それくらい~」


「でも、正田君の信頼が~」


「私は正田を信頼し続けるに決まってるじゃない!正田がどんな人でも私は正田を」


と、ここで私は信じられない光景を見た。


あのかわいらしい美梁が、別人のような低い声でこう言ったのだ。


「しつけえ奴だな」


背筋がゾクッとした。


え?今言ったのって美梁?


しかも空気が変わった?


「むむ~。まあそういうことだから、百ちゃん大嫌いになりたくないから、聞かないでほしいの~」


いつもの笑顔のかわいい美梁に戻っていた。

 

は、さっきのは一体?


「いいよ、藤崎。別に減るもんじゃないし。松代に教えてやっても」


「ダメ」


またこの空気。おかしい。


 とりあえず謝っておいた方がよさそうだ。


「ご、ごめんね。ミハちゃん」


「ううん~。あ、もう着いたよ~。我らが新聞部の部室~!」


私はもうすっかりうろたえていた。


美梁が怒った。


あの怒ることなんてなさそうな美梁が。どうしてだろう。

 

正田のことをかばっているのか。


そしたら何故?


イマイチわからなかった。


「モモちゃん早く~!」


「どうした松代?」


私が色々と思案しているうちに扉が開いたようだ。


2人はとっくの昔に教室内に入ってひょこりと顔を出していた。


「あ、ご、ごめん」


私も慌てて扉の中へと吸い込まれていった。


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